俺は「俺」だ。名前なんて名乗らない。
だってこの国では匿名マンセーなんだ。
でもそれじゃあ会話の再現とかで不便だから「タカシ」と名乗ることにする。
実際のゲームではもっとかっこいい名前を名乗っているけど、痴漢、じゃなかった置換して再現することにする。
痴漢は犯罪だ。絶対だめだぞ。
まぁそれも、家からVRにダイブするだけで学校や職場に行かなくなると、そもそも登校とか通勤が無意味になるから、激減するだろう。
買い物には行かないといけないけど、満員電車は過去の歴史に埋もれることになるんだろうな。
フルダイブVR機器がゲームで終わったらその限りではないけどね。
ついに長年のみんなの夢、フルダイブVR機器が発売された。
昨日は発売日だったんだ。
ヘッドギア型だった。
ベッドまたはカプセル型、ヘッドギア型、首輪型、手術が必要で首に端子をぶっさすタイプ、なんかがSFでは語られていたけど、登場したのはヘッドギア型だった。
まぁヘルメットみたいなやつだ。
自分のベッドや安楽椅子なんかに寝て使うのが普通だ。
特殊な使い方として、覚醒した状態で使用して目から見えているものと、デジタルデータを脳内で合成することにより、AR機能も使える。
ARはオーグメンティッド・リアリティ、拡張現実という。
ヘッドギアはまだ重いし、そもそも電源ケーブルと通信ケーブルを必要とする「据え置き機」なので、ARはおまけみたいなものだ。
これが「携帯機」に進化して無線通信、そして携帯電話網に接続できるようになると、外出時にも常時使えるように進化するはずなんだが、まだそこまで世の中は進んでいない。
ARあるあるとしては、服とか帽子がホログラムで本当は下着姿だったり、目の前に立っている人が実は合成で、すり抜けるなんてことが起きたりする。
ARペットとかAR広告とか、ARゲームとか、夢は広がるけど、まだ先の話だ。
そしてARを使っていない人との、意思の疎通が難しかったり、変なことになったりするんだ。
ちなみにみんな大好き、加速機能なんて便利なものはついてない。
それでだ。
発売日は昨日だったんだ。
それでだな。
『ネットで予約』はできていたんだ。うん。
それが、発送遅延で到着が遅れているらしい。
家で待っていても届かない。
これを旧世紀の逸話からコノザマっていうんだよ。
一晩経って今日確認したら、注文自体が強制キャンセルになっていた。
泣きたいが、商品がないんだからしょうがないんだ。
管理ミスとかなんかそういうのらしい。
しょうがないので、第二弾発送の注文に新しい予約を入れた。
ぎりぎりだったが予約できたよ。
今度こそ頼む。
ちまたの話だと電気屋に並ぶとか、旧世紀のバカみたいなことをするみたいだけど、小売店は規模を縮小して以来、メーカーに相手をしてもらえなくなった。
外国人を含む、転売問題が大きくなりすぎて、並んで買う方式は絶滅したよ。
創作だと「電気屋」ですらなく「ゲーム屋」に並ぶこともあるが、専門のゲーム店はほとんど消滅して、本屋とか電気屋とかの片隅にある店がほとんどだと思う。
その「あるある」はもう存在しないんだ。
だから、通販サイトでしか買えないんだよ。
しかも機器固有IDと通販サイトの登録ユーザー情報があって、中古取引はサイトで譲渡設定をする必要があるんだ。
それでも小さな転売はあるらしい。
正式に譲渡設定すればいいんだから、合法だ。
金銭のやり取りまでメーカーが監視なんてできやしない。
世の中不正なんて抜け道ばかりで、どこかで誰かがやってる。
俺は第二弾で自分の手に届くのを祈ってる。
第一陣の話をしようと思う。
初日、公式のネットサーバーがダウンした。
内蔵ソフトウェアの更新が最初からあって、そのデータ量が多かったため、耐えきれなかったらしい。
よくあることだけど、今世紀になってもとか、なんて
ローンチタイトルのゲームは3つしかない。
ハードメーカー自身が作ったVRMMORPG「VRファンタジー」。
そしてサードパーティーのVRスポーツゲームとVRペット&動物園。
発売が延期になったタイトルや、初日に最初から発売する気がないゲームはいくつかあるから、これからに期待だ。
掲示板によると、最初の最初からMMORPGが出るだけでも凄いことなんだから、ユーザーはメーカー万歳と両手を上げて、拝まなければいけないそうだ。
ちなみにローンチとはランチのことで、ロケットランチャーのerが取れたもの。
ローンチタイトルというのは打ち上げ=ハード発売時に同時に売られるソフトのタイトルという意味になる。
それから2週間後。
ついに俺の元に、今度は普通に到着したVRゲーム機。
会社を休んで一日中家にいて、買い物にも行かなかった
その名も「ドリームヘッドギアVR」。型番は「DHVR-10010EX」やっぱり型番がないと、ゲーム機とは言えない。
初代なのに「10010」とか「EX」とかつけちゃうところがソレっぽくて逆に好きだ。
微妙に下2桁が「10」になってるのはすでにマイナーチェンジされてるということらしい。
開発元は、去年まで無名だったドリームヘッドギア社だ。
超有名IT企業のネットスカイ社がスポンサーになって、協力タッグを組んで、全世界に挑むそうだ。
だから販売元はネットスカイ社が受け持っている。
ベンチャー企業は国内企業っていうのが、ゲームファンに支持されてる。
「我が国の技術は世界一」が掲示板での合言葉だ。
でも事実上は外国のIT企業に、政治的な主導権を握られていて、いつ吸収合併になるか分からない状態らしい。
チャンスがあってもリスクのある企業を国内の大手企業が一切支援しないところが、この国らしいと陰で言われて馬鹿にされている。
色はマットブラックでシックなイメージだ。
さすがは安月給半月分の化け物だけはある。
早速セットアップをするために、ケーブルを繋いだ。
自分はベッドに寝る。
電源を入れた。
ショータイムといこうじゃないか。