長い旅を経て、僕たちはようやくデザリアの中心都市「ザハールラ」にたどり着いた。砂漠の真ん中に位置するこの都市は、まるで広大な砂の海に浮かぶオアシスのようだった。広がる緑と美しい水が、厳しい砂漠の風景と対照的で、その生命力に満ちた光景に僕は息を呑んだ。
「これが……ザハールの力で守られている都市か……」
砂漠の過酷さを身をもって経験したばかりの僕は、その壮大な景色に圧倒され、思わず声を漏らした。目の前に広がる水の流れと、緑に包まれた建物たち。美しい湖に浮かぶ小さな島々、そしてその上に築かれた街は、まるで夢のようだった。オアシスという言葉がふさわしいだろう。
アリアも驚嘆の声を上げ、目を輝かせながら周囲を見渡している。
「砂漠の真ん中に、こんなに豊かな場所があるなんて……ザハールの力って本当にすごいわね」
街の中を歩くと、そこには活気あふれる人々の姿があった。露店には色とりどりの果物や布、砂漠で採れた珍しい鉱石が並び、忙しそうに行き交う商人や職人たちが、それぞれの仕事に誇りを持って生活しているのが見て取れた。
「いらっしゃい!珍しいお客さんだな!砂漠を越えてきたんだろう?大変だっただろうね!」
笑顔で話しかけてきたのは、トルフという名の商人だった。彼は果物や香辛料を売る露店を営んでいて、僕たちに「サンドベリー」というこの地特有の果実を差し出してくれた。緑色の果物で少し平べったい形をしていた。どことなくサボテンににている。
「これは、砂漠でしか育たない特別な果物だ。甘みが強くて、砂漠の暑さを忘れるぐらい美味しいんだよ!」
「へぇ、これが……」
僕はサンドベリーを一口食べてみた。口に広がる甘みとさわやかな酸味が、砂漠の疲れを一瞬で吹き飛ばしてくれるかのように感じられた。
「美味しい……砂漠でこんな果物が育つなんて驚きだよ」
アリアも一緒に頷いて果物を味わい、トルフとしばらく話し込んでいた。彼は、デザリアでの生活や砂漠を生き抜くための知恵を教えてくれた。彼の話では、デザリアの人々は砂漠に根ざし、自然の厳しさと共に生きる術を代々受け継いできたらしい。
「この街はザハール様のおかげで繁栄してるが、それだけじゃない。俺たちも砂漠の知恵を活かして生きているんだ。ここでは、みんなが助け合っているんだよ」
トルフは誇らしげに話すと、僕たちに笑顔で手を振りながら去って行った。
さらに街を歩いていると、湖のほとりで網を編む年老いた男性に出会った。名前はファリードといい、彼はこの湖で釣りをして生計を立てているという。
「この湖には珍しい魚が住んでおる。ザハール様が守ってくれているおかげで、砂漠でもこうして生きていけるんじゃ。もしもザハール様がいなかったら、このオアシスも、わしらの命もとうに尽きておっただろう」
深く刻まれたシワに、長い年月の苦労が見て取れる。ファリードの言葉には、ザハールへの深い感謝と敬意が込められていた。アリアはその話を聞きながら感心した様子で頷いた。
「それだけ強大な力を持つザハールが統治しているなんて、この国は本当に安定しているのね」
ファリードは静かに笑みを浮かべると、「その通りじゃ。だが……」と少し寂しそうに目を細めた。
「最近、何かが少しおかしいんじゃ。魔物が活発になり始めたという噂も聞くし、ザハール様が何かを気にしておられるようじゃ」
その言葉に、僕たちは少し緊張を覚えた。砂漠の王であるザハールが抱える悩みや異変が、この国全体に影響を与えているのだろうか。
「僕たち、ザハール様に会って、できる限り力になりたいと思っています。どんな状況か、直接お話を伺うつもりです」
僕はそう伝えると、ファリードは少し驚いた顔をして頷いた。
「そうか。なら、どうか気をつけておくれよ。ザハール様のお力を借りられるよう、お前さんたちの成功を祈っている」
街の人々はみんなザハールを深く敬い、彼を頼りにして生きている。ザハールラはただの砂漠のオアシスではない。この街は、ザハールの魔力と民の知恵で守られ、厳しい自然の中で繁栄してきた場所だったのだ。
「この街には、砂漠を越えるための知恵と力がある。ここで得たものを生かして、僕たちもザハールに会おう」
僕は心の中で決意を固め、アリアと共にザハールラの街を後にし、いよいよ砂の王に会うための準備を進めることにした。