エリスとの試練を乗り越えた僕とアリアは、静まり返った館の中で、彼女の前に跪いていた。エリスは冷静沈着な表情のまま、僕らに向けて静かに語りかけた。
「お前たちは私の試練を乗り越え、己の力と信頼を示した。その強さと決意に応じて、私の魔力を託そう。私の力を使い、エルドラを救いなさい」
とエリスは言い、手をかざして淡い青い光を放った。その光は僕とアリアを包み込み、瞬間、二人の体には冷たい氷の力が流れ込んでいくのを感じた。凍えるような寒さではなく、むしろ心地よい冷気が彼らに力を与えていた。
「これが……エリスの力か?」
僕は手のひらを見つめた。氷の力が彼の指先に集まり、瞬時に氷の剣が形作られた。剣は透明で美しく、その表面には冷たい輝きが放たれている。
「すごい……氷を自由に操れるなんて」
アリアも驚きの声を上げながら、氷の槍を作り出していた。僕達はエリスから与えられた新たな力――「氷の支配者の権能」を得たのだ。
「この力は、単なる攻撃だけでなく、移動や防御にも使えるわね。これがあれば、どんな敵にも立ち向かえる……」
アリアは感激しながら、氷の武器を手にした。エリスは静かに頷き、
「その力は戦場だけでなく、困難な地形や危険な環境でも役立つだろう。氷を創り出し、形を変え、道を切り開くのだ」
と語った。さらに、エリスはもう一つの力を与えた。
「これを忘れてはならない。『氷結の咆哮』――強力な冷気を放つ攻撃魔法だ。周囲の敵を凍結させ、動きを封じることができる。この力を使い、最も厳しい戦場でも勝利を手にすることができるだろう。これはそこの龍に与えてやろう」
「冷気で敵を一気に凍結させられるなんて……これは強力ね」
とアリアはその力を感じながら、レオファングを見る。彼は嬉しそうに声をあげていた。そして最後に、エリスは「氷精霊の加護」を授けた。透き通った氷の結晶のような小さな妖精たちが冷たい光を放ちながら僕達を取り囲んだ。
「彼らはお前たちの戦いをサポートし、必要な時に防御や攻撃を行う。彼らと共に進めば、お前たちはより強力な力を発揮できるだろう」
「精霊たちが……仲間になるんだな」
僕はその小さな存在を見つめながら、頼もしさを感じた。
すべての力を授け終わった後、エリスは静かに二人を見つめ、「最後にもう一つ。『永遠の凍土』……この力は時間を凍結させ、敵の動きを遅らせる。使い方を誤らなければ、あらゆる戦いで勝機を見出すことができるだろう」
と告げた。
「時間を凍らせる……信じられない力だ」
と僕は驚きを隠せなかった。エリスの力は、僕らにとって戦略的にも非常に有用なものであり、これからの戦いに大きな影響を与えるものだった。
「私の力を使い、この世界に秩序を取り戻しなさい。魔王が復活し、世界の法則が乱れつつある今、お前たちのような存在が必要だ」
とエリスは真剣な口調で言った。
「あなたの期待に応えます。俺たちは必ず、エルドラを救ってみせます」
と、僕は深く頷く。アリアも同じように頷いて、
「あなたの力があれば、きっとこの世界の異変を止めることができるはず。次は東の砂漠、砂の王ザハールの力を借りに行くわ。レオンくんが修行している間に街の人達に聞いたりして調べたの。東の砂漠にも試練があって、それを乗り越えれば強い力が手に入るって」
と説明してくれた。エリスは相変わらず冷たい眼で僕達を見ている。しかしその冷たさは最初の指すようなものではなく、見守る母親のような優しさも感じられた。
「東の砂漠は厳しい試練が待っている。だが、お前たちならば乗り越えられるだろう。必ず無事に達成してきなさい」
僕たちはその言葉に深く頷きその場を後にする。彼女の期待を裏切らないようにこれからも頑張ろうと決意を決めた。
エリスの力を授けられた僕とアリアは、フィアラヴェルに戻り、次の冒険に備えて準備を整えていた。フィアラヴェルの街は、相変わらず冷たく美しい。街のあちこちで氷の精霊たちが光を放ちながら、静かに街の平和を守っていた。僕たちが歩くたびに、道行く人々が温かく笑みを浮かべ、僕たちに声をかけてくれる。
「レオンさん、エリス様に会えたんですね?その顔は……試練を突破したのですね」
街の人が興味津々な様子で僕に尋ねた。僕は剣を握りしめて微笑んだ。
「ええ、エリス様から氷を操る力を授けられました。皆様も短い間でしたがありがとうございました。次は東の砂漠に行こうと思います」
彼は頷きながら、氷の彫刻を手にし、僕たちを見送る準備を進めていた。
「お前さんたちなら、どこへ行っても大丈夫じゃろう。けど、砂漠は氷の国とはまったく違う場所じゃから、気をつけてな」
アリアも微笑んで彼に挨拶をした。
「心配してくれてありがとう。東の砂漠……デザリアは厳しい環境だと聞いていますが、私たちならきっと乗り越えられるわ」
彼は僕たちに小さな氷の結晶をくれた。彼が作ってくれたものらしい。
「これはお守りじゃ。氷の結晶を持っていれば、冷静な心でいられるって言い伝えがあるんじゃよ。持っていくといい。少しならば暑さからも守ってくれるだろう。」
僕はその結晶を大事に受け取り、感謝を伝えた。
「ありがとうございます。大切にします」
他にも、街の人々が次々と声をかけてくれた。市場の商人は、乾燥しない氷の果実をお土産に持たせてくれ、宿屋の女将は、「砂漠では水分を失いやすいから」と、特別な氷の茶を持たせてくれた。
「砂漠じゃあ、こういう飲み物が命を救うこともあるんじゃよ」
彼女は笑いながら、僕たちに茶を手渡してくれた。
アリアも感謝の気持ちを込めて答える。
「本当にありがとう。砂漠では体力が奪われるって聞いているから、きっと役立てるわ」
レオファングは街の子供たちに囲まれ、小さな咆哮をあげて楽しそうにしていた。子供たちはフィアラヴェルの冷たい風の中でも元気いっぱいで、レオファングを撫でたり、話しかけたりしていた。
「レオファングもお疲れ様だね。よくやったな!」
僕は小さな仲間に優しく声をかけた。
アリアも笑顔でレオファングを撫でながら言う。
「次の冒険でも、また一緒に頑張りましょうね!」
こうして、僕たちは街の人々に見送られ、フィアラヴェルを後にすることとなった。エリスから授かった力は僕たちにとって大きな助けになるだろう。しかし、次に向かう東の砂漠は、氷とは対極にある過酷な世界だ。
「これから東の砂漠か……新しい試練が待っているけど、俺たちならやれる」
僕は自信に満ちた表情で言った。
「うん、私たちはエリスの力を手にしたんだから。どんな困難でも乗り越えられるはず!」
アリアも力強く答えた。
レオファングが小さな咆哮をあげ、フィアラヴェルの精霊たちも冷たい光を放ちながら、僕らを暖かく見送ってくれていた。街の人々との温かい交流を胸に、僕とアリアは次なる目的地、東の砂漠「デザリア」へと向かう決意を固め、新たな冒険へと歩み出した。