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第33話「二度目の帰還」

「あ……」

 気がつくと、僕は再び現実世界に戻っていた。きっとあの一撃で僕は死んでしまったのだろう。ゲーム内での敗北により、アリアとレオファングは「エルドラ」の世界に残され、僕一人だけが現実に帰還してしまった。

「……また戻ってきたのか」

 僕は深いため息をつき、頭を抱える。エリスに負けたことで、僕はこの24時間という短い猶予を与えられた。もう一度挑むために、僕はここで何とかしなければならない。考えている時間はない。この世界での修行が向こうに繋がるかもしれないのだから。

 まずは、氷の力に耐えられる体を作ることが必要だ。エリスの冷気に対抗するため、僕は極限の寒さに慣れる訓練を始めることにした。


「これくらいでいいか……?」

 ばしゃばしゃと音を立てて大量の氷を水の満ちたバスタブに投下。冷たい風呂に入り、氷水を満たしたバスタブの中に自分を沈める。冷気が体を刺すように痛み、最初の瞬間は息が止まりそうになったが、必死に耐える。

「冷たい……けど、これを耐えるんだ……なんとか……!!この程度じゃエリスには勝てない……!」

 僕は自らに言い聞かせ、意識を集中させた。呼吸を整え、心を無にすることで、冷たさを耐え抜こうとする。体の感覚が次第に麻痺していくが、それでも僕はバスタブから出なかった。ブルブルと体が震える。意識が遠のきそうになるのをなんとか耐える。

 10分、20分……僕は氷風呂での修行を繰り返す。体の感覚がなくなったのか、それとも慣れ始めたのかわからなかったが、最初よりは楽になった気がする。あまり長い時間入っているのも体に悪いので僕はゆっくり立ち上がる。

「こ、これで……氷耐性がつけばいいけど……!」

 寒さで震える声をなんとか絞り出す。誰に話しかけているわけでもないがこうでもしないと意識を失いそうだった。


 次に、体が凍えた状態でも動けるようにするための剣の訓練を始めた。寒さに耐えながら、実際に動けるかどうかを確かめるため、なるべく重い服を着て棒を振り始める。中学の時に修学旅行で買った木刀がこんなことで役に立つとは……。指先の感覚がほとんどなく、剣がうまく握れない。だが、ここで諦めるわけにはいかない。

「体が凍えても、剣を振れるようにならないと……」

 僕は凍える手を何度も剣に添え、剣を振り続けた。最初はまともに剣を振るうことができなかったが、徐々に動きがスムーズになってくる。寒さに逆らうように力を込め、筋肉を鍛え、体の柔軟性を取り戻す。体が温まればまた氷水に入る……を僕は繰り返した。

 数時間が経過し、体が寒さに適応し始めた頃、僕はとんでもない集中力を発揮していたと思う。剣を振る動作に無駄がなくなり、どんな状況でも冷静に動ける自信が湧いてきた。


 氷耐性を得て、冷気にも動じない剣の振り方を身につけた僕は、残りの時間を戦術の練り直しに使った。エリスの冷気に対抗するため、アリアやレオファングとの連携も重要だ。僕が動きを止められた時、彼らがどのようにフォローしてくれるかを頭の中でシミュレーションした。パソコンを開いてエルドラがまだ平和なゲームだった時代の動画を探す。エリスのような氷系のボス戦でどう動いていたか確認するためだ。それと同時にネットニュースをいくつか確認する。相変わらず、エルドラの覇者をプレイしていたユーザーが意識を失ったり行方をくらませたり……死亡したりしている……といったようなニュースばかりだった。最初はVRゲーム、とだけ発表されていたが、もうエルドラで確定しているみたいだった。

「エルドラの開発スタッフは……みつかっていないのか……」

 全員が見つかっていないわけではないだろうが、重要なスタッフはほとんどいなくなっており、捕まった人たちはほとんど事情を知らない人たちばかりだったらしい。「早く解決しないと」僕の中の正義感が大きく膨れ上がる。きっと今この状況を打破できるのは僕だけだ。僕がみんなを救わないと……!

「今度こそ……エリスに勝つ!」

 僕は決意を新たにし、再び「エルドラ」の世界へ戻る準備を整えた。

 現実世界での修行を終え、僕は再びエリスとの決戦に挑む覚悟を固めた。この修行が向こうで形になっているといいけれど……――次こそはエリスに勝つ。

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