フィアラヴェルへ向かう道中、僕たちはついに氷原の中心部に足を踏み入れた。目の前には、どこまでも広がる氷の大地。冷たい風が容赦なく吹き荒れ、視界を遮る吹雪が僕たちを包み込んでいた。エルミス村で手に入れた防寒具も、ここでは完全には役に立たない。冷気がじわじわと体の芯まで浸透してくる。
「思ってたより……寒いわね」
とアリアが震えながら呟く。
「この吹雪じゃ、地図も頼りにならない。足元だけは気をつけよう」
僕は周囲を警戒しつつ、声をかけた。レオファングも小さな体を震わせながら、勇敢に僕たちのそばを飛び続けている。
その時、吹雪の向こうに、何かが動く影が見えた。
「何かいる……!」
反射的に剣を抜き、声を張り上げる。次の瞬間、雪の中から現れたのは「アイスストーカー」と呼ばれる巨大な氷の獣だった。鋭い氷の爪と冷気を纏った体を持つ、危険な捕食者だ。
「気をつけて、アイスストーカーはすごく素早いわ!」
アリアが警告する。
「来るぞ……!」
僕は剣を構え、アイスストーカーに向き合った。あいつが鋭い爪を振り上げ、雪をかき分けて突進してくる。
「避けろ!」
僕は叫びながら身をひるがえし、攻撃をかわす。素早さと力を兼ね備えた相手だ。迂闊に近づくわけにはいかない。
「フレイム・スピア!」
アリアが素早く炎の槍を放つ。だが、アイスストーカーの体はその炎をすぐに冷気で包み込み、消し去ってしまった。
「くっ……簡単には倒せないわね、氷の力が強すぎる!」
アリアが焦りを見せる。
「よし、作戦を変えよう!」
僕はそう言って、状況を冷静に見つめた。
「アリア、まず奴の足元を狙って動きを止めよう。レオファング、上空からサポートだ!」
僕は素早く指示を出した。
「わかった、やってみるわ!」
アリアが頷くと、すぐに魔法の準備に取り掛かる。
「アクア・サークル!」
アリアの声と共に、氷の大地が震え、アイスストーカーの足元に水の渦が巻き起こる。瞬時に凍りつく足元に、アイスストーカーの動きが鈍った。
「レオファング、今だ!」
僕は叫ぶ。レオファングは空高く飛び上がり、正確なタイミングでアイスストーカーの背後に炎のブレスを放った。熱い炎がアイスストーカーの体に直撃し、背中の冷気を一気に蒸発させる。
「僕も行くぞ……!」
剣を構え、素早く接近。今度はアイスストーカーの防御が崩れている。この隙を逃すわけにはいかない。
「シャドウファング・スラッシュ!」
僕は防御を無視する一撃を繰り出し、剣をアイスストーカーの脇腹に深く叩き込んだ。獣の咆哮が響き、体がよろける。
「これで終わりよ!」
アリアが再び呪文を唱える。
「インフェルノ!」
巨大な炎がアイスストーカーを包み込み、その体を焼き尽くす。レオファングの炎のブレスと僕の剣技、アリアの魔法による連携が見事に決まり、アイスストーカーは大きく倒れ込んだ。
「やった……!」
僕は息をつきながら剣を納めた。だが、その時だった――さらなる危機が迫っていた。
「また来る……!」
吹雪の中から、新たな氷のモンスターたちが次々と姿を現した。群れをなして、僕たちを囲むように迫ってくる。
「こんなに多いなんて……どうやって全員倒すの?」
アリアが驚き、怯える。
「ここで倒れるわけにはいかない!」
僕は自分に言い聞かせながら、再び剣を構える。何度も戦ったが、体力も精神も限界に近づいていた。それでも、この場所で諦めるわけにはいかないんだ。
「レオファング、アリア、もう一度連携だ!僕が前に出る!」
僕は剣を振りかざし、迫り来る氷のモンスターたちに向かって突進した。アリアも「ファイアストーム!」と叫び、周囲に炎の嵐を巻き起こす。モンスターたちの動きが一瞬鈍る。
「レオファング、上から一気に頼む!」
僕が叫ぶと、レオファングが空から猛然と突進し、炎のブレスをモンスターたちに浴びせかける。炎が吹き荒れる中、僕たちは連携を保ちながら次々に敵を打ち倒していった。
だが、戦いが終わっても吹雪はさらに激しさを増し、視界はほとんど効かない。寒さは体力を奪い、モンスターとの戦いは精神を蝕んでいく。
「僕……もう限界かも……」
アリアは倒れそうになりながらも、必死に耐えていた。
「まだだ……ここで諦めるわけにはいかない。必ず氷の魔女エリスに会って、この異変を止めなきゃならないんだ……」
僕は震える手で剣を握り締め、立ち上がった。その時、レオファングが空高く飛び上がり、大きな咆哮をあげた。彼の体から放たれる輝く光が、僕とアリアを包み込み、疲れ切った体に再び力が湧き上がる。
「レオファング……ありがとう……」
僕はその力に感謝し、剣を握りしめた。僕たちは疲労が蓄積しながらも、お互いを信じて前へ進んだ。氷原の厳しい試練に耐えながら、フィアラヴェルへと続く道を進み続けた。
「ここから先はもっと厳しい道が待っているかもしれない……でも、僕たちならやれる」
僕は強く言い聞かせる。
「そうね、これを乗り越えたんだもの!私たちなら必ず乗り越えられるわ」
とアリアも再び決意を新たにした。僕たちは、さらなる試練を前にしながらも、一歩ずつ前へ進んでいった。