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第28話「精霊の試練」

精霊が掲げた手の動きとともに僕達を巨大な氷の壁が取り囲む。それと同時に氷で出来た狼のようなエネミーが現れ、僕らに牙を剥いて襲いかかってきた。氷狼は俊敏で、その動きはまるで森の一部のように滑らかだ。

「来るぞ!アリア、援護を頼む!」

 僕は声を上げる。それと同時に素早く剣を抜いて狼に立ち向かった。

「海龍の時に勉強したわ……!ファイアじゃきっとうまく刺さらない……もっと細く……防御を貫通させるイメージで……」

 アリアは何かをイメージするように呪文を唱えている。きっと彼女なりに何か新しい技を取り戻そうとしているのだろう。僕はそれを邪魔されないように氷狼の動きを阻止する。レオファングもそれに協力してくれる。

「……よし!これだ!フレイム・スピア!」

 アリアが魔法を唱えると、それは火の槍となって狼に向かって飛び出していった。しかし、氷狼はその炎をまともに受けても簡単には倒れず、逆に冷気を纏いながら猛然と襲いかかってきた。

「あぁ、うまくいったと思ったのに……!」

「でも手ごたえはあったよ!何度も使えばきっと強力な魔法になるはずだ!」

 僕は落ち込んでいるアリアを励ます。「そうだよね!」と彼女はすぐに笑顔になって再び魔法を唱え始める。元のゲームでもそうだった。どんな技にも練度やレベルが存在する。何度も使えば技が磨かれてダメージ値も増加するはずだ。レオファングが果敢に飛び出し、口から小さな炎のブレスを放って氷狼を攻撃する。少しずつダメージが通っているような感じではあるが、それでも氷狼の動きは止まらない。何か、もっと大きな一撃が必要だろう……。特に僕はまだ炎系の技は持っていない。今のままでは狼に攻撃をすることもできない。

「くそ、どうにかできれば……!」

 僕の一撃は狼のその硬い体にはじかれる。そのままバランスを崩して狼に突進された僕はしりもちをついてしまった。

「レオン君!大丈夫!?」

 アリアが心配そうに僕に駆け寄ってくる。

「ごめん、アリア、僕は大丈夫」

 そう返して立ち上がる。目の前でレオファングが狼を阻止してくれていた。それでもレオファングが出せる攻撃の火力は低いもので少しずつおされている。

「それぞれの火力じゃ押し切るのが難しそうだ……。なんとかして高火力を叩き込めれば……」

「協力技ってこと?エルドラでもあったよね!みんなで協力して出せるパーティー専用技みたいな感じ!」

「そう、そんな感じで攻撃出来たらいいんだけど……」

 僕はしばらく考える。全員の力を合わせて攻撃できる方法……。向こうは氷で出来ている。熱が最適解なのはそうなのだが、今のままだとそこまでのダメージが通っていない。なんとかして、僕の剣も使って一撃で……。

「そうだ!アリア!レオファング!ちょっと!」

 いい方法を思いついたと僕は二人を呼ぶ。敵の目の前だ。悠長に話してはいられない。アリアが敵の周りを燃やしてちょっとの間だけ足を止めてくれた。

「どうしたの、レオンくん?何か思いついた?」

「さっき言ってた協力技!ちょっといいのを思いついて!」

 僕はそういって三人に説明する。僕がまだ炎に関係する技をもっていないのなら作ってしまえばいいのだ。アリアだって自分で考えて技を思い出している。僕も似たようなことが出来るのでは……と。

「僕が今まで使っていた剣技の中に剣そのものが炎をまとう技があった。それを再現できないかなって」

 内容はこうだ。いたって簡単、二人の炎技で僕の剣を限界まで熱する……ただそれだけだ。もちろん鉄で出来た剣をこのまま燃やすことはできないし、まだレベルの低い自分がもともと持っていた剣の力を最大限引き出すことはできない。それでも限界まで熱された剣で思い切りたたきつければあの氷を両断することも出来るのではと考えたのだ。

「確かに、それならなんとかなるかも……!!」

 アリアが僕の作戦を聞いて目を輝かせる。レオファングも了解といったように小さく鳴いた。そんな話をしていたらアリアが出した炎を氷狼がもう消しかけている。

「さぁ、時間はない!今のうちにやろう!!剣を熱したら僕は狼の頭を狙って攻撃する!みんなも僕と一緒にそこに攻撃してくれ!」

 少しでも可能性を高くするためにそう指示する。と、同時に僕は剣を二人の前に出す。二人が全力で僕の剣に向かって炎系のスキルを放つ。熱された剣の刃がどんどん赤く黒くなっていく……と同時にアリアが狼に向かって放っていた炎が消えた。吠えながら向かってくる狼に体を向き直す。

「今だ!!!」

 僕の合図とともに攻撃対象が再び狼に変わる。レオファングとアリアが氷狼に向かってはなってくれる炎系の攻撃のおかげで狼の動きが少し鈍くなる。その隙をついて、僕は剣を振り下ろし、狼の急所を突いた。

「終わりだ!」

 僕の剣が氷の狼の頭に当たると、その熱でじわ……と溶け始め、もう少しと力を込めれば狼は砕け散り、氷の塊と化した。

「やった~!!うまくいったわね!」

「はぁ……っ!うん!良かったよ!」

 アリアとハイタッチをして笑いあう。すごい達成感だ。狼を倒せば僕達を閉じ込めるように囲んでいた氷の壁は溶けて無くなる。そして、氷の精霊が再び姿を現した。今度は攻撃的な様子を見せることはなく、静かに僕たちの前にいる。彼は淡い光を放ちながら僕達に語りかけてきた。

「お前たちは、クレスタの森の試練を乗り越えた。私はこの森の守護者であり、お前たちの力を認める。これより先、フィアラヴェルへと進むための道を教えよう」

 氷の精霊の声は、まるでしんしんと降る雪のように静かで、澄んだものだった。彼は手をかざし、森の奥に向かって光の道を示してくれる。

「フィアラヴェルへと続く道は、この光が示す通りに進めば良い。しかし、気をつけろ。フィアラヴェルは今、かつてない混乱の中にある。エリスの力が弱まり、この森もまた危機にさらされているのだ」

「エリスの力が……?」

 とアリアが驚きの声を上げた。

「魔王の力がこの地にも影響を及ぼし始めているのかもしれないな」

 と僕は冷静に推測する。精霊は頷き、僕達に告げる。

「まだ弱くてもきっとお前たちにはこの森を……いや、世界を救うだけの力があると、私は思っている。この先でエリスの試練を受ける資格がある。北の氷原に入れば、さらなる試練が待っているだろうが、お前たちならば道を切り開くことができる。そう信じているよ」

「なるほど……ありがとうございます」

「頑張ります……!」

 僕とアリアは、精霊からの言葉を胸に刻み、先へ進む決意を固めた。


 クレスタの森を抜け、光の道を進むと、冷たい空気がさらに濃くなっていく。フィアラヴェルは目前だ。森を守る精霊たちとの交流を通じて、僕らはこの地の深い歴史と、今起きつつある危機を理解した。

「次はエリスの館……氷原の奥にあるというエリスに会わなきゃならない。でも、エリスが今どんな状態か分からないわね」

「エリスに何が起こっているにせよ、僕たちはこの異変を止めるために進むしかない。準備はできてる」

 と僕は力強く答えた。レオファングも「グルル」と声を上げ、僕達を応援するように翼を広げた。クレスタの森での試練を乗り越えた僕たちは、次なる目的地であるフィアラヴェルへ向けて再び歩みを進めた。氷の魔女エリスとの対面が、僕らに待ち受けている――。

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