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第26話「港町【セイブル・ハーバー】への到着」

僕、アリア、そしてレオファングは、次なる目的地である北の氷原に向かうため、港町「セイブル・ハーバー」に到着していた。セイブル・ハーバーは、エルドラの世界でも北の氷原へ行くための唯一の船が出航する重要な港町だ。

「ここがセイブル・ハーバーか……思ったより賑わってるけど、なんだか落ち着かない雰囲気ね」

 とアリアが町の様子を見ながら呟いた。港は船が停泊しているものの、出航する様子はなく、船長や船員たちが忙しそうに何かを相談している。僕達は早速、船を手配するために港の船長に話しかけたが、彼らの顔は深刻な表情を浮かべていた。

「グレイストーンの運び屋です。船を出してほしいのですが、北の氷原に行く船はここからですよね?」

 僕が尋ねると、船長は頭を抱えたまま言った。

「すまないが、今は船を出せない。最近、近海で魔物が活発化していてな。あの魔物たちが暴れる限り、誰も出航できないんだよ」

「魔物……?」

 とアリアが疑問の声を上げる。

「そうだ。特に、氷原に近づくあたりで『氷の海竜』という強力な魔物が現れて、船を襲ってくるんだ。それで、最近は船を出せずにいるんだよ」

 そう、船長は肩を落として説明する。辺りを見れば船に乗れずに困っている人達であふれかえっていた。中には怪我をしている人もいる。きっと魔物に襲われたのだろう。

「魔物のせいで船が出せないなんて……私たちも北の氷原に行かなきゃいけないのに」

「その魔物を倒せば、船を出せるんですか?」

 僕は剣を握りしめ、船長に問いかけた。彼は少し驚いた顔をする。

「そうだが……あの『氷の海竜』はとんでもなく強敵だ。船員たちも恐れてるんだよ。それに水の上だ。まともに戦闘もできやしない」

「氷原近くだから、まともに大砲も撃てないんです。向こうの土地はほとんどが氷で出来てるから、衝撃で割ってしまったら何をされるか……」

 他の船員だろう。僕達の話を聞いていた人もため息を付きながら声をかけてくる。

「なら、僕達が何とかするしかないな……。その近くまで連れて行ってくれませんか?僕がその魔物を退治しましょう」

 レオンはとびきりの笑顔で彼らに言う。「何をバカなことを」と言いたげだった彼らもレオンの自信に満ち溢れた顔を見てしぶしぶ納得したようだった。

「しかし、俺達も巻き込まれたくない。大事な商売道具を壊されるのも困るからな、小さな船と操縦士を一人貸そう。それでなんとかしてくれるかい?」

「もちろんです。ありがとうございます」

 じゃあ、と勇気ある操縦士が一人僕達に付いてきてくれることになった。

「よろしくお願いします。僕の名前はポートです。危険と判断したらすぐに引き返しますからね」

「あぁ、よろしく」

 僕達は握手をかわす。僕達の力試しにもなるだろう。準備を整えてさっそく現場に行くことにした。


 僕達は港町の住民から「氷の海竜」についての情報を集め、魔物が近海の洞窟に巣を作っていることを突き止めた。その洞窟は激しい波に覆われ、魔物にとっては理想的な隠れ家のようだ。

「洞窟か……そこが巣なら、魔物を追い出して倒すしかないね。中で戦うのはきっと危険だ」

「そうね……でも、その洞窟の中、私たちだけで本当に大丈夫?」

 とアリアが不安げに言った。

「大丈夫さ。俺には『大地の加護』があるし、君は強力な魔法を持っている。それに、レオファングも一緒だ。あの魔物を倒せば、船を出せるようになるはずだ」

 僕は自信を持って答えた。ポートさんが小さな漁船を操縦し、僕達は共に荒れ狂う波を乗り越えながら洞窟に向かった。洞窟に入ると、薄暗い空間に響く水音と、重々しい息遣いが僕達を包んだ。そこには巨大な海竜が潜んでいた。鋭い目でこちらを見つめられる。その冷たい視線に体が凍ってしまいそうだった。海竜は巨大な体をくねらせて、まるで獲物を狙うかのように襲いかかってきた。

「こいつが……海竜だな!」

 僕は剣を抜き、戦闘体制を整えた。

「ファイア!」

 アリアが素早く炎の魔法を放つ。しかし、海竜は冷気を放つ厚い鱗で炎を無効化するかのように、軽々と攻撃を受け流す。

「すごい防御力……!普通の攻撃じゃ通じないわ……!」

 アリアの焦る声が聞こえる。

「大丈夫だ!まだ焦る時じゃない!」

 僕はそう伝えて次の手を考える為に思考を巡らせる。

「たぶん、ちょっとの攻撃じゃ無効化されるんだろう……!僕が隙を作る!一気に叩くぞ!」

「わかった、準備するわ!」

 アリアは再び構え、魔力を集中させる。僕は意識を集中させ船から海竜に向かってジャンプ。そのまま突撃するように、剣を構える。

「大地の加護……!」

 空中で加護を発動させ、防御力を高め、身に受ける海竜の攻撃のダメージを軽減させる。そして、

「シャドウファング・スラッシュ!」

 力を込めた一撃。海竜のその厚い鱗を切りつけるように斬撃を叩き込んだ。海竜は大きくのけぞり、一瞬の隙を見せる。

「今よ!インフェルノ!」

 アリアが最大の炎の魔法を解き放つ。灼熱の炎が洞窟内を覆い、海竜の全身に炎の嵐が巻き起こる。今度は冷たい鱗をも焼き焦がし、海竜は苦しみながら雄叫びを上げた。

「レオファング、行け!」

 僕が叫ぶと、レオファングが飛び出し、炎のブレスを海竜に浴びせかけた。炎が連続して炸裂し、海竜の防御は徐々に崩れ始める。

「グルアアアアア!!!!!」

 海竜の咆哮が響く。海が揺れ、波で船がひっくり返りそうになる。僕達もうまく攻撃が出来ず、態勢を崩してしまった。

「わぁぁっ!!これ、危険ですよ!」

 ポートさんが悲鳴をあげる。僕は意識を集中させて大地の加護を発生させ、みんなの前に立つ。海竜の攻撃が激しさを増す中、なんとか僕達は必死に防御を固めて、戦況を有利な方向に進めていく。海竜が巨大な尾を振り回し、洞窟の壁を叩き崩そうとするが、レオファングのブレスがその尾に直撃して狙いが外れる。

「アリア、ヤツの動きを止めてくれ……!最後の一撃を頼む!」

「任せて!アクア・サークル!」

 アリアは水の魔法を展開し、海竜の周囲に水の渦を巻き起こす。海竜がバランスを崩して移動しようとするが、水の渦が凍結し始め、海竜の動きを封じ込めた。

「これで決める!」

 僕は力を振り絞り、再び剣を振り下ろした。海竜の頭部に一撃を叩き込み、ついに海竜は大きな咆哮を上げながら崩れ落ちた。

「やった……!」

 アリアは息をつき、氷の海竜がついに倒れたことを確認した。

「お、お疲れ様です。本当に、倒したのですね……」

 まだ震えているがポートさんが驚いた顔で海竜を見る。

「怪我していませんか?危険な所に同行させてしまってすいません」

「いえいえ、なんだか凄い所を見れましたよ。ありがとうございます。これで船を出せます」

 討伐した海竜の死体は海の底へと沈んでいく。悲しい事にドロップアイテム等は無かった。海の生き物は海で死んでこのまま他の生き物の餌になるらしい。だから海竜を持って帰ったりはしないそうだ。


海竜を討伐したことで、港町セイブル・ハーバーに平和が戻り、船長は船を出航させることができるようになった。

「すごいな、お前たち。こんなに早く倒しちまうなんてよ……。感謝してる。王国の運び屋なんだろ?氷原までの船賃はいらねぇ。自由に乗ってくれ。助けてもらったお礼だよ」

 そう言って船長さんから彼のサインが入ったチケットを貰った。これを見せたら大体の船は無料で乗れるらしい。僕達は無事に北の氷原に向かうための船を手配することに成功した。

「よし、これで北の氷原に向かうことができる。次の目的地もきっと大変な場所だろうけど、僕たちなら大丈夫だ」

「うん……これから本格的に旅が始まるのね……頑張ろうね、レオンくん!」

 セイブル・ハーバーを後にし、北の氷原に向けて船で出発する。海の彼方には、寒冷で厳しい地帯が広がり、さらなる試練が待ち受けている。だが、僕らは新たな力と仲間を信じ、前へ進み続ける。

「次は氷の大地……か。何が待っていることやら……」

 僕は水平線を見つめながら呟いた。

「どんな試練が待っていても、私たちならきっと乗り越えられるわ。それにやっぱり旅はいつでもワクワクするね!」

 と、アリアは笑顔で答える。こうして、僕達の冒険はさらに深まっていく。北の氷原で僕らを待ち受ける運命とは何か――その答えを求めて、船は北へと進んでいった。


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