それから数日、ガルドさん達が頼んでいた防具の最終調整し、完成したとの報告をうけたので早速受け取りに行くことにした。
「この装備なら、北の氷原でも十分に寒さを凌げるはずだ」
「ありがとう。本当に助かるよ」
職人達は手に入れたメェリスの上質な毛皮と、氷の加護を宿した魔水晶を巧みに組み合わせ、立派なコートやブーツを作ってくれた。厚みのある毛皮は温もりを保ちながらも軽く、ペトラの加護を込めた魔水晶が寒さを防ぎ、完璧な耐寒装備が完成している。
「この毛皮と魔水晶が、魔法の冷気にも耐えられる強力な防御を作り出しています。氷の風に晒されても問題ないでしょう」
協力したペトラと共に彼らは誇らしげな笑みを浮かべていた。アリアは試着した装備を軽く動かしてみた後、笑顔を浮かべる。
「これなら、氷原の寒さも気にせずに進めるね!皆さんありがとうございます!」
「うん、完璧だ。しかも、思った以上に動きやすい。皆さん、本当にありがとうございます」
装備をつけた状態でステータスを確認していればばっちり【氷属性防御Lv3】の文字が表示されていた。このレベルは5まであるので、フィールド効果くらいなら完全に防いでくれるレベルだ。僕達は協力してくれた職人たちに感謝の言葉を伝えた。
「いいってことよ!この村を救ってくれたお礼って事で」
ガルドさんが笑いながら僕の背中を叩く。その力強さに少し勇気をもらった。
「よし、出発の準備は整った。そろそろ出発しようか」
僕がそう告げるとアリアも頷く。また戻ってくるだろうがこの村とはしばしのお別れだ。
「北の地域一帯はエリスがおさめているフィラヴェルという国が中心になっています。とりあえずそこを目指すといいでしょう。海を越える必要がありますから……そうですね、セイブル・ハーバーという港町から船が出ています。そこから出発になりますね」
ペトラがそう説明してくれる。
「ありがとう、ペトラ。助かるよ」
「魔女といってもエリスは元々人間に協力的……なはずなのですが……」
彼女の表情が少し曇る。何かあるのだろうか?僕が疑問を口にするより前にマルクスが口を開く。
「最近向こうからいい噂を聞かないんだよなぁ……。元々一年間のほとんど雪が降っているような極寒の地で、人が住んでいる地域だけエリスの加護で守られていたのだが……どうやらその加護が最近薄いらしい」
「それに、魔物の動きも活発化していると聞きます」
「……魔王の復活が何か影響してるのかな……?」
アリアが心配そうな顔をする。
「まぁ、そこも含めて確認してくるよ。何か力になれるかもしれないし」
「あぁ、すまない。本来なら俺達がするべき仕事ではあるのだが……」
「大丈夫だよ、マルクス。まだ理解しきれてるわけじゃないけど、何かに選ばれちゃったんなら頑張るしかないし」
それに、いろいろと調査できるのはこっちにとっても好都合だ。もしかするとこのゲームの異変の原因に近付けるかもしれない。
「レオンがたくましくて助かるよ、頑張ってくれよな。もし何かあったら連絡してくれ」
「うん、本当にありがとう、マルクスもペトラも」
二人にお礼を言う。本当ならば二人も連れて冒険に出たいが、今この二人はこの世界の住人だ。今ある役目を奪うわけにはいかない。
「はい、お気をつけて」
「じゃあね!」
「気を付けてね!お土産もって戻ってきてね!」
リリィが僕達に駆け寄ってくる。「もちろん」と返事をして彼女の頭を撫でれば嬉しそうに彼女は笑った。こうして僕たちは村の人達に見送られながらその場を後にした。
「やっぱり私たちが知ってるエルドラとは全然違うねぇ~。確かに氷で覆われた世界とかあったけど、そんな名前じゃなかったし」
「だからこそ何がいるか分からない。油断しないようにしよう」
「うん!私の魔法が役に立つかもね!」
アリアが嬉しそうに杖を掲げる。彼女はまだランクが低いとはいえ、炎系の魔法が使える。今回の探索には大いに役に立つだろう。僕達は歩き出す。エルミス村での温かな時間は、これからの僕たちを勇気づけてくれた。用意してくれた地図を片手に僕たちは新たな世界へと向かう。そこにどんな困難があろうとも……。