「ここだ。何があるか分からないから俺もついて行くよ」
案内された洞窟はいたってシンプルなものだった。古代の洞窟だというからもっと派手な装飾や入口を想像していたのだが…。
「なんだかシンプルだねぇ~」
「そう思って油断するのはよくないぜ」
そう、マルクスが指をさす。そこには動物のものであろう白骨死体が転がっていた。
「ここら辺は危険なモンスターも出現するんだ。それにこの洞窟自体、ここしばらく人が立ち入っていなくて地図がない。俺もここら辺の地形は詳しくないんだ」
「分かったよ」
僕とアリアはマルクスについて行くように警戒しながら洞窟を進んだ。入り組んだ作りになっていて、何度も道に迷いそうになった。視界が悪い。
「ねぇ、レオンくん……何か聞こえる…」
アリアが僕に声をかける。彼女の言う通りに耳をすませば、何か大きなものの呼吸音のようなものが聞こえる。
「モンスターか……?」
マルクスは剣を構える。僕とアリアは戦闘態勢に入った。
「いや……これは……」
僕たちは音の発生源まで歩いていくとそこには大きな空間があった。真っ暗な空間……かと思ったが一歩踏み込んだ瞬間分かる。無数の黒い蝙蝠が天井にぶら下がっていたのだ。僕達を見る赤い目がまるで宝石のように見える。ぎょろりと一つ、大きな赤が僕達を見る。
「あ、あれ!!」
アリアが指をさす。そこには他の蝙蝠よりもはるかに巨大な蝙蝠がいた。
「で、デカい……!」
「おいおいおい……ジャイアントバットじゃねぇか……」
マルクスは冷や汗をかく。ジャイアントバットは大きな翼を広げ、天井にぶら下がっている。そしてこちらへと急降下してきたのだ。僕たちに攻撃しようとしているのだろう。僕は慌てて剣を構えるが間に合わない……!そう思った時だ。
「ファイアッ!」
アリアが魔法を放つ。彼女の杖から発射された炎ががモンスターを焼いた。ジャイアントバットはそのまま真っ逆さまに落ちていくがすぐに体勢を整えると再び僕たちへ攻撃を仕掛けてきた
「ここは俺が前に出る!」
マルクスが盾を構えて前に出てくれる。ジャイアントバットの鋭い爪の攻撃を彼が一人で受けてくれる。その隙に僕は剣を構えて攻撃に行こうとするが、小さな蝙蝠たちがそれを邪魔するかのように僕にまとわりついてくる。
「わっ……くそ、うまく動けない……!」
「レオンくん!今助けるね!」
アリアが魔法で僕を援護してくれる。だが、蝙蝠達の数が多すぎて、このままでは逆にこちらが疲弊してしまう……。なんとかしてジャイアントバットを仕留めなければ……!そう思った時だ。マルクスが僕に向かって叫んだ。
「レオン!こいつを使え!」
彼はそう言って僕に何かを投げつけてきたのだ。それは小さな袋だった。紐で縛られているそれを慌てて受け取ると、僕はその中身を取り出した。中には小さな水晶が入っていた。ほんのりと光っているように見える。
「これは……?」
「それをジャイアントバットにぶつけてみろ!」
彼に言われた通り、僕はその石を持ってジャイアントバットへと投げつける。すると、水晶がパッと光を放ち、そこから電撃が走った。雷系の魔法だろうか?大きな砂嵐のような物が発生し、モンスターを巻き込んだのだ。
「これは……!」
「サンダーの魔水晶だ!魔力を込めれば雷の魔法が発動する!それであいつをぶっ飛ばせ!」
そう言われると同時に、再びジャイアントバットは翼を大きく羽ばたかせてこちらに飛んでくる。
「そうはさせないぜ!」
しかしジャイアントバットの突進はマルクスが防いでくれる。僕はサンダーの魔水晶に魔力を込める。すると、確かに手に握った魔水晶から魔力が消費されていくのを感じた。
「レオンくん!いっけぇー!!」
アリアの声に後押しされるように僕はジャイアントバットに向けて魔水晶を放つ。その一撃は見事に決まり、モンスターは煙となって消滅していくのだった。親玉なのだろうか、それが消えた瞬間周りにいた小さな蝙蝠たちが逃げるように洞窟の外へと飛び出していく。
「こんなところでジャイアントバットに会うなんて……本当にずっとこの洞窟は放置されてたんだな……」
マルクスが額の汗をぬぐいながら言う。
「あの小さい蝙蝠達は倒さなくていいの?」
「数が多いからね……あの量を倒すってなるとこの洞窟事燃やす必要があるかも……。今は無視しよう」
彼女の疑問に僕が答える。蝙蝠系のエネミーは数も多く、毒を持っていることも多い。一掃系の技を持っていない今相手にするのは危険だろう。
「よし、とりあえず脅威は倒したし、ほら、あそこの穴から奥に進めそうだ。早い所クリスタルを見つけようぜ」
「そうだね」
マルクスの言葉にアリアも頷く。また静かになった洞窟内を慎重に三人で進んでいく。やっぱり洞窟自体がいろんなエネミーのねぐらになってしまっていた。何度か戦闘を挟んでやっと目的地にたどり着く。
「あ、あれじゃないかな?」
「お!あれだ!間違いない」
洞窟の先には巨大なクリスタルが安置されていた。それは光を放ち、まるで生きているかのように脈打っている。これがこの洞窟の最大の目的であるクリスタルだろう。
「とりあえずこれを持ち帰ろう!」
マルクスが嬉しそうに言う。
「そうだね」
僕もそれに同意する。しかし、その喜びもつかの間だった……。突然、地面が大きく揺れる。そして天井が崩れ大きな蜘蛛のようなモンスターが降りてきた。
「きゃああっ!!」
アリアが悲鳴を上げて僕の後ろに隠れる。
「蜘蛛!蜘蛛だ!!私虫はダメなの……!!」
「スパイダー・クイーンか……厄介だな……」
マルクスが再び盾を構える。それはクリスタルを守るように降りてくる。
「あのクリスタルが狙いか……?」
「アレを手に入れるには戦うしかないし……二人とも……僕はやるよ!」
こっそりとスパイダー・クイーンのステータスを確認する。LV50……はるかに格上だ。しかしこの前みたいに僕たちの知恵でなんとかならないだろうか。今はマルクスだっている。僕の声かけに二人は力強く頷いた。
「よし、二人は俺が守る。あいつは任せてくれ!」
「足止めも出来るわ!なんとか倒しましょう!」
二人のの返事は頼もしいものだった。
「よし、戦闘開始!」
その言葉と共に僕たちは動き出した。
「グギャアアアアア!!」
スパイダー・クイーンは咆哮を上げる。巨大な蜘蛛の脚が僕たちを薙ぎ払おうと襲い掛かる。
「くっ……!」
マルクスが盾でその攻撃を受け止める。しかし、その細い脚から繰り出されたとは思えないほどその攻撃は重い。彼が攻撃を受け止めている間、僕はスパイダー・クイーンに向かって攻撃を放つ。剣でなんどか切りつけてみるがやはりそこまでダメージが通ってるとは思えなかった。それに張り巡らされた蜘蛛の巣でスパイダー・クイーンは空中を自由に動き回りうまくとらえられない。
「このままじゃダメージを与えられない……!」
「レオン!私に考えがあるの!」
アリアが杖を構えて言う。どうやら何か作戦があるようだ。
「何か作戦があるって?」
僕はアリアの方を見ながら、スパイダー・クイーンとの距離を取りつつ尋ねた。
「あの蜘蛛の糸、火で焼けば崩れるわ。あたしの魔法で広範囲を焼き払って、糸を全部燃やしてしまおうと思うの!」
「なるほど、それであいつの動きを封じるんだな!」
マルクスが盾を構え直し、アリアを守る位置に移動した。
「だけど、それだけじゃスパイダー・クイーンは倒せない。弱点は胸の宝石……あそこを狙わないと」
僕は剣を握り直し、冷静に状況を分析した。LV50という高いステータスを持つ相手に、正面から挑むのは無謀だ。でも、その作戦ならうまくいきそうだ。
「アリア、お願いできる?」
僕は彼女に信頼を込めて声をかけた。
「任せて!でも、全力を使うから、準備が必要なの。少し時間を稼いで!」
アリアは杖を高く掲げ、呪文を唱え始めた。
「俺が盾になる!レオン、お前はあの宝石を狙え!」
マルクスがスパイダー・クイーンの正面に立ち、盾で攻撃を防ぎながら叫んだ。
「わかった!」
僕はスパイダー・クイーンの動きを見極め、機を伺った。
「グギャアアアア!」
スパイダー・クイーンは怒り狂い、その巨大な脚で地面を強打し、毒針を前脚から射出した。マルクスは盾でその毒針を防ぎつつも、何本かが彼の鎧をかすめた。
「マルクス、無理しないで!」
僕は心配しながらも、アリアの魔法が完成するのを待つしかなかった。
「大丈夫だ、俺にかまうな!お前はチャンスを逃すな!」
マルクスの声が洞窟内に響き渡る。その時、アリアが力を込めて杖を振り下ろした。
「これが今の最大……!!インフェルノ!」
彼女の声と共に、炎が洞窟内を一瞬で満たし、スパイダー・クイーンの周囲を包み込んだ。糸が焼け、空気が熱くなる。
「今だ、レオン!」
マルクスが叫ぶ。スパイダー・クイーンの動きが一瞬鈍くなった。焼け落ちた糸が広がり、視界がクリアになる。
「これで終わりだ!」
僕は全力でスパイダー・クイーンの胸に向かって跳びかかり、剣を振り下ろした。赤く輝く宝石に剣が直撃し、硬い音を立てた。
「グギャアアアアアア!」
スパイダー・クイーンが苦痛の咆哮を上げると同時に、体が激しく震え始めた。剣が宝石に深く突き刺さり、スパイダー・クイーンは大きく身をよじると、そのまま力なく崩れ落ちた。
「……やったか?」
僕は息を整えながら、慎重にスパイダー・クイーンを見下ろした。
「レオン、やったわ!すごい!」
アリアが駆け寄ってくる。
「よくやったな、レオン。」
マルクスも息をつきながら、盾を地面に突き刺し、疲れた様子で僕に微笑んだ。僕たちはようやくスパイダー・クイーンを倒し、目的のクリスタルを手に入れた。しかし、僕たちはこの後、さらに大きな試練が待ち受けていることをまだ知らなかった。