王国グレイストーン。その名の通り、城壁は灰色の石で築かれ、長い歴史を感じさせる荘厳な雰囲気が漂っていた。城下町は活気に溢れ、多くの商人や旅人が行き交うが、その賑わいとは裏腹に、城内は緊張感に包まれていた。魔王の影が次第に迫り来る中、この国の未来を託す者を選ばなければならない時が来たのだ。
そんな中で、僕――レオンは、王国の高官たちが集まる大広間に呼び出されていた。少し緊張しながらその場に立つ僕を、アリアがそばで見守ってくれているのが唯一の救いだった。
「遠い所からご苦労だった。マルクスから多少の話は聞いているだろう。今、我々は力のあるものを探している」
玉座に座る国王……グレイが静かに口を開いた。
「まずは鑑定士に、君の力を見てもらおう。君が持つ力について、詳しく知る必要がある」
王国の鑑定士が僕の前に進み出ると、手に持った杖を僕の胸元にかざした。杖の先端から淡い光が放たれ、それが僕の体を包み込む。すると、僕の体内で何かが反応するのを感じた。
「そこまで強そうには見えませんが……!」
鑑定士の目が見開かれ、驚愕の表情が浮かんだ。
「これは……光の加護……!」
その言葉に大広間全体がざわめいた。この力に関しては謎な事が多い。ばれてしまうとまずいのではないか……と、心臓が早くなるのを感じる。国王は鑑定士の言葉に深く頷き、重々しく口を開いた。
「レオン、君の持つ光の加護は、ただの伝説ではなかったようだな……」
「光の加護……というのは……?」
とにかく僕は知らないふりをすることにした。ちらりとアリアにも視線を送る。
「光の加護は伝説の英雄がもっていたとされる加護の力だ。この世界が再び危険にさらされたとき、光の加護を持つ者がこの世界に現れるだろう……有名な言い伝えだ。我が王国にの魔術師が君を鑑定した結果、光の守護者としての力が確認された。これが意味するのは…君が世界を救う存在であるということだ」
「なるほど……ちなみにどういう力なのでしょうか……?」
「すまない、力の内容に関しては記録が残っていないのだ。レオン、君も分からないのかい?」
「……はい……加護に関しては今初めて知ったので……」
少し安心した。光の加護――それは僕だけが持つ、現実世界に戻れる復活の力だ。まだ不明な点が多い加護だから、これが僕が勇者に選ばれる決め手になるとは思わなかった。ただ、「復活」という強い力であることは確かで、その内容がバレていないのであれば今の所は安心だろう。それに、僕たちの目的は魔王に会う事だ。王国の後ろ盾と情報があるのならそれにたどり着く近道になるだろう。
「陛下、もしこの力が世界を救うために役立つのなら…僕はその役割を果たす覚悟です」
僕は覚悟を決めてそう伝える。しかし、一つ気がかりなことがあった。
「しかし、僕はエルミスの村が気になるのです」
国王は頷き、少し笑みを浮かべて言った。
「勇気ある言葉だ、レオン。もちろん、君が安心して旅に出るために、エルミス村を守る策を考えておいた。話はマルクスからしっかり聞いているのでな。実は、この近くに古代の洞窟があり、そこにかつての魔法使いたちが残した財宝が眠っているのだ」
「洞窟ですか?そこには何が……?」
「伝説によれば、その洞窟には強力な結界を張るアイテムが隠されているという。あるいは、村全体を守るための防衛システムかもしれない。もしその宝を手に入れれば、エルミス村を強力な守りで包み込むことができるだろう。」
国王は期待を込めた目で僕を見つめた。
「それが本当なら……!」
アリアが目を輝かせて声を上げた。
「村が守られるなんて、すごいことだわ!レオンくん、これで安心して旅に出られるわね!」
僕はアリアの言葉に力を得て、国王に向かって深く頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下。その洞窟の場所を教えていただければ、すぐにでも向かいます。」
その時、大広間の扉が急に開き、一人の騎士が現れた。その姿は見るからにボロボロで、鎧はところどころひび割れ、顔には疲労の色が濃かった。
「戻りました……調査隊の……残り一人として…」
その言葉に広間全体が静まり返った。調査隊?まさか、魔王の居城へ行っていた……?
国王が騎士に問いかける。
「一体、何があったんだ?」
彼は震える手で兜を取り、深く頭を垂れた。
「魔王は……予想をはるかに超えた存在です……我々は全滅しました……私は、奇跡的に生き延びましたが……奴の力は圧倒的で……」
その言葉に、僕の心に冷たい恐怖が広がった。これが本当にゲームなら、リセットボタンを押せばいい。だけど、現実ではそんな簡単にはいかない。
国王の声が再び響いた。
「レオンよ……君の力が必要だ。魔王を討つための旅に出る準備を整え、どうかこの世界を救ってくれ」
僕はその言葉を胸に刻み、深く頷いた。
「はい、陛下。僕にできることを、全力でやってみせます」
国王は頷き、近くにいたマルクスに指示を出した。
「マルクス、お前が案内せよ。そして、レオンたちが無事に洞窟へたどり着くよう護衛を頼む」
「了解した、陛下」
マルクスが一歩前に出て、僕たちに向き直った。
「レオン、アリア。俺が洞窟までの道を案内する。すぐに出発だ」
僕たちは一瞬目を合わせ、無言のうちに決意を固めた。エルミス村を守るため、そして世界を救うための旅が、今ここから本格的に始まるのだ。
洞窟へ向かう道中、マルクスがぽつりと漏らした。
「レオン…お前、本当に英雄かもしれないな。その力もあるし、覚悟もある。王国のために、そして村のために、全力を尽くしてくれ。」
僕はその言葉に小さく頷き、剣を握りしめた。光の加護を持つ者として、僕ができることは何かを考えながら、洞窟への道を進んでいった。