アザルドの影が完全に消え去った後、僕は深く息をついた。ペトラが静かに手をかざし、闇の祭壇に近づいていく。彼女の指先から、柔らかな光が漏れ出し、それが祭壇に触れると、あれだけ不気味に漂っていた黒い霧がまるで幻だったかのように消えていった。
「光よ、この地を浄化し、闇を完全に払え…!」
ペトラの祈りの言葉が響くと同時に、祭壇はまばゆい光に包まれ、そのまま粉々に崩れ落ちた。
「ペトラちゃん、すごいよ…!」
アリアが目を輝かせてペトラに駆け寄る。しかし、ペトラはその称賛を控えめに受け取り、優しく微笑んだ。
「いえ…あの祭壇が消えたのは皆さんのおかげです。レオンさんとアリアさんの戦いがなければ、私はここまでできなかったでしょう。」
彼女の言葉に、僕は少し照れくささを感じながらも、頷いた。その時、重い足音が近づいてくるのを感じ、僕は顔を上げる。現れたのは、村で待っていたはずの王国騎士、マルクスだった。彼の険しい表情が僕を鋭く見据え、何かを言いたげに唇を噛んでいた。
「見事な戦いだったな、レオン」
マルクスは重みのある声で言った。
「……もしかしたら、本当にお前は光の守護者と呼ばれるにふさわしい英雄かもしれない。」
「僕が……光の守護者……?さっきアザルドも行ってけど、それっていったい……?」
信じられない気持ちで僕はその言葉を繰り返した。
「英雄というのは、ただ強いだけではなく、正義を貫き、皆を守る存在だ。お前にはその強さがある。俺たちはずっとそんな人材を探していたんだ」
マルクスは少し考え込むように目を細めた後、意を決したように続けた。
「一度、王国に来ないか?お前たちの力が必要になるかもしれない」
「王国に……?」
アリアが不思議そうに問いかけた。
「ああ、今のところ詳しい話はできないが…」マルクスは言葉を選ぶように視線を彷徨わせた。
「どうやら、魔王が何か大きな動きを見せ始めているらしい。」
「魔王……」
その言葉が僕の胸に重く響く。魔王が動き出すということは、この世界がゲームの進行に従っている証拠であり、さらに言えば、現実にも影響を与え始めているのではないかという不安が頭をよぎった。
「もし……魔王が本当に現れたなら、この世界は危機に瀕するだろう。お前たちのような力を持つ者が必要なんだ。」
マルクスの真剣な表情を見つめながら、僕とアリアは無言のまま目を合わせた。この世界に取り込まれた理由と、魔王が現実に影響を及ぼそうとしていること。それらが無関係でないことは明らかだ。
「分かった。僕たちもその話に乗ろう。」
決意を込めて僕は頷いた。しかし、その前にやるべきことがある。
「でも、その前に……まずはあの村の安全を確認させてほしい。僕のせいで迷惑をかけたんだから、心配だよ」
「そうね、レオンくん。私たちにはやるべきことがまだたくさんあるわ」
アリアも同じ思いで頷き返す。
「よし、決まりだな。」
マルクスは満足そうに頷き、さらに言葉を続けた。
「王国へ行く前に、しっかりと準備を整えておくんだ。そして、覚悟しておけ。これからが本当の戦いだ」
その言葉に、僕たちは改めて心を引き締めた。闇の祭壇を破壊し、魔王の動きが加速している今、僕たちの冒険はますます険しいものになろうとしていた。
これから先、どれほどの試練が待ち受けているのかはわからない。しかし、僕たちはそれに立ち向かう覚悟を決めていた。