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第14話「光の守護者」

「ねぇ、レオンくん、これ……!」

アリアの声に、僕の心もまた不安に囚われていた。村が見えてきた途端、周囲の暗さが異常に深くなり、まるで日が沈む間もなく夜が襲いかかってきたような錯覚に陥った。目の前はただの夕方のはずなのに、深い闇が村全体を包み込んでいる。アリアと離れないようにしながら、僕は慎重に足を進める。

「リリィちゃん……?アンナさん……?」

静まり返った村の中を進んでいくと、何かに躓いた。冷や汗が流れる中、急いでその正体を確認すると、それは倒れている村人だった。気を失っているだけで、外傷は見当たらない。

「どうしよう、レオンくん……!これ、あの男にやられたのかもしれない……」

アリアの顔が青ざめる。

「とにかく誰か探そう!マルクスやペトラちゃんもまだ村に残ってるはずだし!」

アリアは僕の言葉に頷く。僕は倒れている村人を担ぎ上げ、近くの教会へと急いだ。教会の扉は半開きで、わずかに光が漏れている。中に入ると、少しだけ安心したものの、教会内にはマルクスとペトラの姿は見当たらない。

「誰か……いますか?」

僕が呼びかけると、奥の方からかすかなすすり泣きが聞こえてきた。恐怖で震えているペトラの姿が見えた。彼女の目には涙が溜まり、顔は青ざめている。

「アリアさん……レオンくん……!本当に良かった……」

ペトラはほっとした表情で、二人に駆け寄ってくる。

「村全体が……何があったんですか……?」

「それが……」

僕が言いかけたその時、教会の扉が音を立てて開いた。現れたのは、黒い騎士の姿だった。彼の漆黒の鎧が不気味に光り、赤い目がまるで燃えるように輝いている。

「まて……くっ……!」

そしてそれを追いかけるようにマルクスが入ってきた。ボロボロの身体を何とか支えながら歩いていたが、限界だったのかその場に倒れる。

「ここまで来るとは……」

呪われた騎士が低い声で言った。その声には冷酷さと威厳が込められていた。

「大丈夫か、マルクス……!くそ……お前は誰だ!」

「私はアザルド。魔王の命を受け、光の加護を持つものを葬りに来た。お前がレオンだな?」

「なんでこんなことを……!」

アリアが震える声で叫ぶ。アザルドは冷たく笑いながら言った。

「私の使命は、魔王の命に従い、光の守護者を打ち破ることだ。お前たちを探している時に丁度邪魔な村があったから滅ぼそうとしたまで。この世界はやがて魔王様のモノになる。その一歩というわけだ」

「光の……守護者……!?何を……?」

アザルドは何故か僕を狙っている。「光の守護者」……きっと加護をもっている僕のことだろうが、この力が、加護が、向こうにとってそれほど脅威なものなのだろうか……?しかし、村の人々の安全を守るためには、どうしてもアザルドを倒さなければならない。ただ、目の前のアザルドは、その存在だけで僕たちを圧倒するほどの威圧感を放っていた。

「くそ、関係ない人達にまで手をだして……!許さないぞ、アザルド!」

僕は心を決めて、剣を抜いた。アリアが少しでも力になれるように後ろて杖を構える。彼はそんな僕達を見て冷たく笑う。アザルドが一歩踏み出すたびに、周囲の暗黒がさらに濃くなっていく。その力の前に、僕の攻撃はほとんど手ごたえを感じない。アザルドの攻撃をかわしながら、なんとか反撃の機会をうかがう。

「くそっ……!」

僕の剣がアザルドの鎧にわずかな傷を付けたものの、その一撃は彼の力をほんの少し削るだけだった。アザルドの目が冷たく光り、さらに力を込めた攻撃を放ってくる。

「どうした、光の守護者と言ってもこの程度か!」

アザルドの声が響く。彼の言葉に焦りが募る。僕の力では、どうしてもこの圧倒的な敵に勝つことができない。攻撃を受け続ける中、アリアが魔法を放ち援護してくれる。その間に、ペトラはマルクスの元にかけより彼を治療していた。僕は何とか耐えながら、全力で立ち向かうが、アザルドの圧倒的な力に押し返され、ついには隙をつかれてしまう。

「これで終わりだ!」

アザルドが最後の一撃を放つ。彼の振るった剣が僕の身体を両断しようとするが、アリアが放った魔法が剣にあたり、かすかに起動がずれる。致命傷にはならなかったが、ダメージを負った僕は倒れそうになりながらも必死に反撃を試みる。痛みと疲労が全身を襲い、もう立ち上がることも難しい。

「レオンくん!」

アリアの声が、僕の意識の片隅で響く。

「ふん、弱いなぁ……守護者よ、安心しろ、すぐお仲間ごと同じ場所に送って……くそ……っ」

しかし、何があったのかアザルドは攻撃の手を止め、そのまま闇に紛れて消えて行った。彼がいなくなり静寂が訪れると共に、村を包み込んでいた闇も晴れる。僕はその場に倒れこむ。視界がぼやけるのを感じる。アリアが駆け寄ってきて、僕を支えようとするが、僕の体力は限界に達していた。

「大丈夫……アリア……」

僕はかろうじて言葉を絞り出す。

「くそ……逃がしちゃったな……」

「レオンくん、無理しないで!」

アリアが涙を流しながら、僕を抱きしめてくれる。ペトラも急いで治療を始めてくれた。どうして逃げたのかは分からないが、アザルドの力に対抗するためには、もっと準備が必要だと痛感する。

「逃げられたけど……絶対に……また戻ってくる……」

僕は力を振り絞って言う。

「それにしてもなんでアザルドは逃げたんだろ……」

「これは私の予想なんですが、多分魔力切れ……ですね……」

 ペトラが僕の傷に治癒魔法をかけながら言う。

「魔力……切れ……?」

「はい。必死に戦っている時は気付かなかったのですが、彼が技を放つ度に彼から感じる魔力が薄くなっていたんです。それに村を包んでいる闇も薄くなっていました」

「なるほど……。つまり彼は魔力供給をしに戻った……と?」

「じゃあそこまで遠くに逃げれてないんじゃない?」

「その可能性はありますね……」

「じゃあ、アイツが弱っているうちに、倒さないと……!」

 僕は起き上がる。まだ体は痛むがかなり楽になった。

「そんな、すぐに動いては……!」

「でも、また襲われたら村の人達が困るだろう……?お世話になったんだ。迷惑はかけたくないよ」

「……それならば私もついていきます。回復薬がいた方がいいでしょう?それに私、浄化系の魔法も得意なんです。きっと何かの約に立ちますよ」

 僕たちが戻ってくるまでの間、マルクスがアザルドの相手をしていたらしく、彼の傷は僕よりもひどかった。治療をして安定はしているものの、すぐに動くのは危険だろうと判断して彼は村に残ってもらうことにした。

「村のほとんどの人はどうやら眠っているみたいです。幸い大きなけがをしたのは数人だけでした。それでも命を落とすようなものではないので安心してください」

 そう、ペトラが説明してくれて安心する。

「よし、行こうか……!」

 僕の声に二人は頷いた。

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