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第13話「ダークファング」

遺跡の最奥、ひんやりとした空気が僕達の肌に触れる。巨大な石造りの扉の前に立っており、そこから漏れ出す異様な気配を感じ取っていた。

「ここまで来たら、やるしかないよな…」

僕はおそるおそる扉に手をかけた。冷たい石の感触が指先に伝わってくる。深呼吸をして、僕はアリアに視線を送った。

「アリア、準備は大丈夫?」

「ええ、いつでもいけるよ!レオンくん」

 アリアの声には不安も少しあったが、僕と一緒にやるという、確固たる意志も見えた。彼女は杖を握りしめ、魔力を集中させる。

僕が扉を開けると、ギギギ…と重い音が響き、目の前に広がる広間が露わになった。そこに待ち構えていたのは、禍々しいオーラを放つ巨大な獣――「ダークファング」。漆黒の体に赤い瞳が無数に輝き、その目が僕達を捕らえると、低い唸り声が空間に響いた。

僕は一瞬息を呑み、手元のステータスウィンドウをダークファングに合わせて確認する。


【ダークファング】

LV.45

HP: 8000

ATK: 1200

DEF: 900

特殊能力: 猛毒の牙、暗闇の呪い


「…レベル45!? ATK1200って……やっぱり隠しダンジョンだから強いな……突破は難しいか……?」

思わず声をあげる。

「僕たちの今のレベルじゃ、どう考えても勝てる相手じゃない…」

「でも、他に道はないよね……。ほら……」

 アリアも自分のステータスウィンドウを確認し、ため息をついた。後ろを振り返れば、僕達が戻れないように結界が張られているようだ。

「魔力量的にも、ポーション飲みつつギリギリ足りるかどうか…。でも、今までだって、こんな状況でもなんとか切り抜けてきたんだからさ……!」

僕は眉間にしわを寄せ、瞬時に頭をフル回転させる。

「そうだな…ここは僕たちの経験と知識を最大限に活かしていくしかない……ね」

「うん、わかったわ!レオンくんが前で引きつけてくれるなら、私はできる限り後ろから援護するわね!」

アリアは覚悟を決めたように、魔法の詠唱を開始する。

「フリーズ!」

アリアの魔法が放たれると、冷たい氷の風がダークファングの周囲に巻き起こり、その動きを一瞬鈍らせた。だが、ダークファングはすぐに動きを取り戻し、巨大な爪を振りかざして僕に襲い掛かろうと向かってくる。

「くっ、速い…!」

僕は瞬時に「大地の加護」を発動し、体を硬化させた。鋭い爪が命中したが、硬化した体がそれをギリギリのところでそれを防ぐ。しかし、衝撃は計り知れず、大きく後退してしまう。

「レオンくん、大丈夫!?」

アリアの心配そうな声で叫ぶが、その手は休むことなく次の魔法の準備していた。

「まだ…なんとか…!」

 僕は辛うじて体勢を立て直し、ダークファングの猛攻に備えた。

「けど、これだけじゃ足りない…!アリア、次の魔法を頼む!」

「任せて!インフェルノ!」

アリアの叫びとともに、巨大な炎の柱がダークファングを包み込む。獣は苦しそうに吠えたが、すべてを振り払い、炎の中から勢いよく飛び出してくる。

「くそっ、こいつ、まだこんなに元気なのかよ!」

必死に剣を振り下ろしたが、ダークファングの皮膚は驚くほど硬く、傷一つつけるのがやっとだった。

「こいつの皮膚、硬すぎてまともにダメージが入らない……!」

焦りのせいか手に汗をかいているのを感じる。なんとか、冷静に過去のゲーム内での戦闘経験を思い出す。

「待てよ……確か、硬い相手には、柔らかい部分を狙うのがセオリーだ。それに……」

僕はダークファングの動きをじっくり観察した。獣が動くたびに、僅かに見える部分――それは、わき腹の下あたりにあった。

「アリア、聞いてくれ!ダークファングはわき腹の下が狙い目だ。そこの皮膚は比較的薄い。僕が引きつけるから、そのタイミングで一気に攻撃してくれ!」

「なるほど……わかったよ!」

「ここからは俺たちの連携次第だ。まずは、ダークファングを一瞬でも混乱させて、隙を作るんだ。」

僕は状況を判断し、アリアに指示を出す

「アリア、まずはフリーズをもう一度!その後すぐにインフェルノで連続攻撃して!」

「了解!フリーズ!」

アリアが再び冷気を放つと、ダークファングの動きが一瞬鈍った。その瞬間、僕は全力でダッシュし、ダークファングの視界から一時的に消えるように動く。

「インフェルノ!」

アリアが次に放った炎の魔法がダークファングを包み込み、その視界が一瞬遮られた。

「今だ……!」

素早くダークファングのわき腹の下に滑り込み、剣を最大限の力で突き刺した。

「これで終わりだ……!」

獣は最後の力を振り絞って暴れたが、僕の攻撃が急所を捉えていたため、その動きは次第に弱まり、やがて崩れるように地面に倒れた。ダークファングの体が完全に動かなくなると、僕たちは安堵の息を漏らした。

「ふぅ……やっと終わった……」

アリアは力が抜けたようにその場に膝をついた。

「本当に、ギリギリだったな……」

アリアに手を差し伸べ、彼女を支えながら立ち上がる。

「うん……元のゲームだったらレベル差で勝てないような相手だけど、リアルに近付いてるからこそかな?こうやって経験をいかした戦闘ができるんだねぇ……」

「だな……。なんかあの頃を思い出したよ。みんなでこうやって話しながら攻略してさ……」

 僕は呟く。思い出すのはマルクスやペトラの顔。

「道のりは長いけど……絶対に救い出そうな」

「うん……!」

 話していると、ころんと紫色に光るガラス玉のようなものが転がってくる。

「お、今回もスキルがドロップしたな。運がいいし……色的に強力なスキルなんじゃないか?」

 ゴーレムの時に拾った赤色はノーマルの色で、確かに加護やスキルってだけで強力なのだが、ドロップ率が高くレベルを上げないと使えないことが多い物ばかりだ。しかしレア度が上がるとその分強い物も増えて一発逆転に繋がるものが多い。アリアの「今回はレオン君にあげるよ」という言葉に甘えて、今回も僕が使う。それに、元は天才魔法使いだったアリアだ。戦闘中にどんどんと自分の技を思い出して使いこなしている。もちろんレベルは低いから今までよりも火力は低いが……。

「えっと何々…?これ……すごく強いんじゃないか?」

 僕は増えたスキルを確認する。今回は加護ではなく先ほどのダークファングにちなんだ技だった。僕はアリアに説明するようにスキル欄に書いてあることを読み上げる。


【「シャドウファング・スラッシュ」

 これは闇属性の強力な剣技です。発動すると、剣に宿った闇のエネルギーが影の爪を形成し、広範囲に攻撃します。この技は相手の防御を無視し、「猛毒の牙」で追加の毒状態を付与し、持続的にダメージを与えます】


「へぇ~!すごいね!防御力無視だし、さっきの格上に相手にも隙さえできれば攻撃が入るって事でしょ?いいね~!」

「スリップダメージも入るし……この技は元のエルドラじゃ見たことが無い物だな……。いい物を手に入れたよ」

 そう喜べば目の前にゲートが開かれる。ダンジョンを攻略したことで現れる入口まで戻れるゲートだ。

「よ~し、今日はいっぱい戦ってお腹もすいちゃったし一度帰ろうか!」

「そうだな、狩ったウサギ肉も持っていきたいし、時間もだいぶたっただろう。お互いのステータスの確認は戻ってからゆっくりしようか」

「だね~!あんなに強い敵を倒したんだもん!すんごく強くなってないとだよね」

 そんな話をしながら二人でゲートに入る。一瞬の浮遊感のあと、僕たちはダンジョンの入り口まで戻っていた。外は日が沈みかけ、ただでさえ暗い森がもっと暗くなっている。

「例の遺跡の調査は後日にしようか。この暗さだと夜型のモンスターが出てくる可能性があるし」

「了解~!じゃあまっすぐ帰ろうか」

 鞄の中からカンテラを取り出しあたりを照らす。僕たちは真っすぐと来た道を戻ることにした。

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