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第4話「遺跡内部」

 遺跡の内部は薄暗く、足を踏み入れた瞬間、冷たい風が頬を切り裂くように吹き付けてきた。

「おぉ……すげぇ、雰囲気あるな……」

「暗いね、ちょっとまってね、ライトの魔法唱えるから」

「お、助かるよ。丁度僕のランタンの使用時間切れそうだったから」

そういってアリアが呪文を唱える。彼女を中心として辺りが大分明るくなった。

「なんだか、気味が悪いくらい静かですね……」

「そうだな……ここに来るまであんなにモンスターがいたのに」

マルクスが警戒しながら進む。僕も一番後ろに立って背後から襲われてもいいように準備をする。ゆっくり、ゆっくり慎重に僕たちは進んだ。

ここはまるで時が止まったかのように静まり返り、かつて栄華を誇ったのであろう文明の残骸が周囲に散らばっている。崩れた石柱や苔むした壁、風化した彫刻が静かに語りかけるようだった。

「ここが新しい世界への扉がある場所か…」

「ドキドキするよなぁ……。確認した感じ、この遺跡はまだ誰にも踏み荒らされていないっぽいし……、俺たちが一番乗りってワケだ!」

マルクスが嬉しそうな声で答えた。彼の盾が光を反射し、キラキラ輝いていた。

「何かあれば、すぐに回復しますね」

ペトラはその癒しの手を静かに光らせながら、優雅な微笑を浮かべた。様々な場面を経験してきた彼女の瞳には、どんな困難にも屈しない強さを秘めている。

「みんな、気を引き締めて行こうね!」

アリアは軽やかな声で僕たちを鼓舞し、その瞳には決意の光が宿っている。彼女の笑顔はいつも僕たちを勇気づけてくれた。本当に僕は素敵な友達に恵まれたなと感謝している。

「僕達ならどんなエネミーが現れてもクリア出来ちゃうね!」

「そうだな!」とマルクスが笑いつつ一歩前に出る。重厚な石造りの扉が目の前に現れた。

「えっと……何々……試練を乗り越えよ……?ここから先に何かあるみたいですね」

ペトラが扉に書いてある文字を読んでくれる。

「そう簡単には先に進ませてくれないか~……ずっと静かだったのも違和感だったしねぇ~」

「とにかく何が現れるか分からないし、気をつけて進もうぜ」

そう言ってマルクスが扉を押し開ける。門の奥には広大なホールが広がっていて、天井には星のように輝く宝石が埋め込まれている。中央には巨大な石像が鎮座し、その赤い眼が不気味に光っていた。

「エネミー反応……あの石像、遺跡の守護者だ…!」

僕は呟いた……と、同時に石像は重々しい音を立てて動き出し、僕たちに向かって動き出す。表示される「第一の試練を突破せよ」の文字。マルクスが素早く前に出て、敵のヘイトを集中させつつ、その盾で一撃を受け止める。衝撃で床が揺れるが、彼は一歩も引かない。

「ペトラはいつも通り回復を!とりあえずあいつの攻撃パターンを解析しよう……!」

「分かっていますよ!」

マルクスが声を上げれば、ペトラは静かに呪文を唱え、癒しの光がマルクスの傷を癒していく。支援することに特化した彼女の魔法の発動スピードとタイミングはいつだって正確だ。僕は剣を抜き放ち、素早い動きで守護者の側面に回り込む。

「アリア、援護してくれ!」

「お任せあれ!とりあえず向こうの動きにぶらせるね!」

アリアは笑顔で応え、杖を振って魔法の矢を放つ。魔法の矢は鮮やかな光を放ちながら守護者に命中し、その動きを鈍らせた。

「ありがとう!」

僕は剣に魔力を込めて一閃する。しかし、守護者はその一撃を受け止めて、そのまま僕を跳ね飛ばすように立ち上がる。そして、バランスを崩した僕めがけて再び攻撃を仕掛けてきた。なんとかローリングで回避しようと動いてはみるが巨大な腕の攻撃範囲が広く、ギリギリ被弾してしまいそうだった。僕を押しつぶそうと、その腕が迫ってくるが、タイミング良くマルクスが再び盾で受け止めてくれる。

「大丈夫か、レオン!」

「ごめん、油断した……!」

マルクスが敵を挑発し、再度そのヘイトを自身に集中させているうちに、僕は全力で剣を振り続ける。アリアがさらに強力な魔法を放つ。魔法が守護者に被弾した瞬間、ギチギチと鎖のような物が巻き付き、守護者の動きを封じ込める。ペトラは冷静に仲間たちの傷を癒し、戦線を維持する。敵に攻撃をあてつつ、観察すれば、胸の部分に赤く光る宝石のようなものがはめ込まれていることに気付いた。

「よし!敵の弱点が分かったぞ!たぶんあの宝石の部分が心臓だ!僕が攻撃するから、アリアはなるべく石像が動かないようにデバフをかけ続けて……!!」

「了解!」

僕は身体強化系の加護を足に集中させる。石像のサイズが巨大なので今のままではあの核のような場所にはたどり着けないだろう。それならばと僕は加護の力を使ってジャンプをする。トン……と地面を蹴ればまるで足にバネがついているかのように高く飛び上がることが出来る。

「これが最後の一撃だ!」

僕は全身の力を込め、剣を振り下ろす。それが守護者の胸の宝石に深く突き刺さると、その巨体が揺れ、やがて崩れ落ちた。静寂が訪れ、僕は息を整えながら、仲間たちの顔を見渡した。皆、無事だ。

「やったな、みんな」

僕は微笑みながら言った。

「これくらいならいつも通り、突破できそうですね」

「この四人なら楽勝だね!」

ペトラが優しく微笑み、アリアは明るく笑う。

「次もこの調子で行こう!」

マルクスは大きく頷いて静かになったホールを見渡す。

「もうここには何もないみたい……だな?」

「守護者を倒したところでドロップするものはなかったな……」

「確かに……ステータスにも変わりないね」

メニューを開きパーティーのステータスを簡易的に確認してみるものの、レベルの上限は上がっておらず、経験値が増えていることも無かった。

「ちょっと残念ですけれど、きっと新しい世界にもっとすごいお宝が隠されているのですよ!」

ペトラが少し興奮気味に言う。

「ペトラちゃん的には新しい世界ってどういうところだと思うの?」

「そうですねぇ~……いろいろ考えていたのですが……」

「ほらほら、話してないで次行くぞ~」

ペトラがアリアの問いに待っていましたと言わんばかりに回答しているのを聞きながら僕達は再び歩き出した。


 時間が経つと、遺跡のホールは再び静寂を取り戻し、僕たちの存在をまるで忘れたかのように静まり返っていた。どうやら雑魚戦がない、ボス戦のみのステージみたいだ。

「それにしても本当に並行世界ってどんなところなんだろうな……」

僕はふと呟いた。ペトラの先ほどの考察も聞いていたが、いかんせん情報が何もない。実は前々からアップデートが来るという情報はあったもののその内容はまったく公開されていなかったのだ。

「こんな豪華な遺跡を用意してるんだ。運営も力入れてるはずだぜ」

マルクスが笑う。

「この世界について分かってないことって沢山ありますし、ワクワクしますね~!いつだって新しいものは嬉しいんです。それに、やっぱり知らない場所ってピンチに陥りやすいじゃ無いですか~!辻ヒーラーの腕が鳴りますよ!」

いつもは静かなペトラだが、好きな事になるとアバター越しでも分かるくらいには興奮して話すようになる。

「そうねぇ~……でも、新しい世界でしょ?きっともっと素敵なものに出会えるはずだよ!もっと強い魔法があったらいいなぁ~!もし難しいクエストいっぱいだったらいつもみたいに手伝ってね?私たちが力を合わせたら絶対に乗り越えれるから!」

「そうそう。きっと私たちの成長にもつながりますよ。今のところ隠し部屋がある雰囲気も無いですし、本当に並行世界への扉を守るだけの遺跡なんですかね~?」

先ほどのホールを抜けて、静かな道を進みさらに遺跡の奥へ進むと、古びた壁画や彫刻が目に入ってきた。これらの芸術品は、かつてここに住んでいた人々の生活や信仰を物語っているのだろうか。鮮やかな色彩が失われた壁画には、悪に立ち向かう英雄の姿が描かれていた。

「これ、エルドラの古い物語かな……?ほら、ここに描いてあるドラゴンとか大分前にみんなで倒したのに似てない?」

「たしかに、そう言われれば似ていますね。この遺跡は……そうですね、世界を救う英雄を称えるものなんじゃないですか?ここら辺とか1000年前の大崩壊の話に似ていますし……」

ペトラがまた興奮気味に語り始める。こういったRPGのゲームはいわゆるその世界観に溶け込んで遊ぶロールプレイ勢とゲームだけを楽しむエンジョイ勢がいるがどちらかと言えば僕達はどちらかと言えば前者だ。特に彼女……ペトラは世界観オタクで、エルドラの細かい設定まで確認してこの世界を考察するのが好きなのだ。

「ほら、私達って大崩壊でバラバラになった世界を元通りにするために冒険しているじゃないですか?だからこの先の世界はその大崩壊にまつわる話なのかも……!そして、その大崩壊を引き起こした悪の親玉がとうとう分かったりして……!!」

まるで遺跡の研究員かのような口調で語る彼女を見ながらマルクスが頷く。

「その悪の親玉がこの遺跡と何か関係しているのかもしれないな」

「守護者は、きっと遺跡の秘密……そう、敵の秘密を守るために存在している。そして、その秘密が新しい世界への扉なのでしょうか……!もしかしてこのエルドラの大地に隠されている謎がまた一つ解き明かされたりするんですかね?まだ私達はこの世界を最後まで知りませんし……!」

うんうんと相づちを打ちながら彼女の話を聞く。

「そうだね。そして、僕たちがその扉を開くためには、この遺跡……ダンジョンを突破しないといけない。多分さっきの一体だけで終わりってワケじゃ無いだろうし、頑張ろう!」

「わくわくしてくるね!最近大きい戦いも無かったし、攻略しがいがあるかも!」

アリアがそう笑う。みんなもその言葉に頷いた。

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