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第5話「二対の守護者」

 遺跡の奥深く進むと、再び巨大なホールに辿り着いた。そこには、またしても巨大な石像が鎮座していた。しかし、今回は一体だけではなく、二体の石像が向かい合うように立っている。高くそびえる天井は星のように輝く宝石で埋め尽くされ、淡い光がホール全体に降り注いでいた。壁には古代の英雄たちが描かれた壁画があり、その眼差しが僕たちを見守っているかのようだった。

「これが第二の試練ってところかな?」

僕は二対の石像を見上げる。感情なんて感じないはずの石の顔が僕達を睨んでいるような気がして、冷たい汗が背筋を伝い落ちるのを感じた。

「そのようですね。この試練も先ほどみたいにクリアできたらいいのですが……」

ペトラが静かに答えた。その声は穏やかだが、油断なんてしておらず、メニュー画面を開いて魔力残量を確認していた。

「さっきみたいに協力したらいけるでしょ!頑張ろう!」

アリアの瞳からもやる気が感じられる。彼女の杖からは微かに魔力が放たれ、周囲の空気を震わせていた。

「行くぞ!」

僕達は武器を構えた。その瞬間、石像たちが動き出す。まるで生きているかのように重々しい足音を立てながら近づいてくる。その動きは一心同体という言葉がお似合いなくらいに、見事に連携しており、一体が攻撃を仕掛けると、もう一体がその隙を狙うという巧妙なものだった。

一体目の守護者が巨大な拳を振り下ろしてきた。僕は素早く身を翻し回避したが、その刹那、もう一体の守護者が背後から迫ってきた。マルクスは咄嗟に盾を構え、その攻撃を受け止める。相手はやはり巨大な石像だ。その瞬間の防御だったため、攻撃の重みを完全に受け流すことはできず、マルクスはその力に押し負けそうになる。それでも彼は歯を食いしばり、一歩も引かずに耐え続ける。

「ぐぅ……っ!!レオン、後ろに注意しろ!」

「ごめん、助かったよ、マルクス!」

僕は感謝の言葉を返しながら、素早く体勢を立て直す。しかし、連携攻撃の速さに圧倒され、次第に守りに入らざるを得なくなった。攻撃のほとんどをマルクスが受けてくれるが、それでもダメージは入る。

「ペトラ、まだMP持ちそうか!?」

「はい!なんとか……!」

ペトラはすぐに癒しの光を放ち続けている。その光は温かく、僕たちの傷を癒し続けている。しかし、守護者たちはその隙を逃さず、再び攻撃を仕掛けてきた。狙われたのはペトラだ。

「……!!アリア、ペトラを守ってくれ……!そっちの援護を頼む!」

僕は続けて叫ぶ。アリアは頷き、呪文を唱える。ペトラを守るように彼女の周りにドーム状のシールドが現れる。敵の攻撃はそのシールドに阻まれるがもって数発といったところだろう。アリアが追加で最初の守護者を縛った鎖の魔法を放つ。その魔法は守護者たちを一瞬怯ませたが、破壊され、すぐに再び動き出す。彼らの連携は一瞬たりとも乱れない。

「二つで一つって感じだな……!ヒーラーを狙う辺り、対人戦をしてるみたいだ……」

僕は呟いた。その言葉に、ペトラが答える。

「確かに……この世界にいる英雄達の動きを学習して作られているのかもしれません……!!私達みたいにパーティーで動く人たちは沢山いますからね……今までの情報も覚えているのかも……!」

「ならば、俺たちも心を一つにするだけだ!」

マルクスが叫んだ。その言葉に僕たちは鼓舞され、再び力を合わせて戦い始める。

守護者の一体が巨大な剣を振りかざし、僕たちに向かって突進してきた。僕はそれを避けながら、もう一体の攻撃にも対処しなければならなかった。マルクスが盾で受け止め、ペトラが回復を続ける中、アリアの魔法が光となってホールを照らす。

「さっきの守護者と同じように胸の辺りに核があるみたいだけど……二体同時に動きを止めないとなかなか近づけないぞ……!」

僕は全身の力を込めて剣を振り下ろした。しかし、守護者にその一撃をは届かず、見事に跳ね飛ばされる。バランスを崩した僕を狙ってすかさずもう一体が攻撃を仕掛けてきた。マルクスが守りに入ろうと動くが、間に合わない……!とっさに僕は「鉄壁の守り」を発動させて防御力を強化したが、重い一撃が僕の体に直撃して衝撃をモロに食らう。ごりっとHPが減る感覚がした。

「うっ……!!」

「大丈夫ですか!?」

ペトラが即座に回復してくれる。一瞬痛みで怯んだものの、すぐに立ち上がれた。

「レオン、大丈夫か!?すまない、間に合わなかった……!」

再び僕が狙われないようにマルクスが僕の前に立つ。

「さっきの話だけど、よくある同時に倒さないと……ってやつか!?まだしばらくは俺の体は持つ!なんとかして打開策を考えてくれ……!」

マルクスが力強く叫んだ。なんとか再び立ち上がった僕は思考を巡らせる。

「ペトラ、アリア!MPはあとどれくらい残ってる!?」

「なんとかポーション割りながら動いてるけどそこまで長くはもたないかも……!」

「同じくです……!」

僕は考える。この状況をなんとかする手を……。僕はじっと守護者を観察する。落ち着いて「戦士の魂」を発動させれば彼らの動きが多少遅く見える。その隙にソレらの動きを一つ一つ目に焼き付けていく。

「……分かったぞ!守護者の連携能力は確かに高いけれど、それぞれの動きには少しずつ癖がある……!マルクス、君は左側の守護者を引きつけて、アリアは右側を攻撃してくれ。ペトラは二人が倒れないように守りに集中して……!僕はその間に……」

「一体何を考えているんだ、レオン?」

マルクスが訝しげに問いかける。

「守護者たちを衝突させるんだ。彼らの連携を逆手に取って、互いにぶつかり合うように仕向けるんだ」

「なるほど、いい考えじゃない!」

アリアが瞳を輝かせて言う。彼女は詠唱を始める。

「よし、やってみよう!」

「了解です。レオンさん、指示をお願いします!」

ペトラも覚悟を決めたようだ。僕たちは作戦を実行に移した。マルクスが左側の守護者を引きつけるために全力で盾を構え、その隙にアリアが右側の守護者を集中攻撃した。ペトラはそんな二人の状況を見ながら的確に回復魔法を唱える。守護者たちの動きが一瞬乱れたその瞬間、僕は全速力で左側の守護者の前に立ち、剣を振り上げ攻撃を当てる。

「さあ、こっちだ!」

僕は全力で叫び、守護者の注目を引きつけた。ギリギリまで移動させて、また一発守護者に攻撃しようとする。その攻撃を避けた瞬間、左側の守護者は右側の守護者と激突した。巨大な衝撃音がホールに響き渡り、二体の守護者が崩れ落ちた。

「今だ!!!」

と合図を送れば全員で一斉に崩れ落ちたそれぞれの守護者の核を攻撃して破壊する。

「ふぅ……これで動かなくなったか?」

僕は流れる汗を拭いながら言う。

「なかなかおもしろい作戦でしたね」

ペトラは優しく微笑む。その顔には、疲労と共に達成感が滲んでいる。

「確かに普通に攻撃するよりも早かったしね!楽しかったよ!」

アリアは明るく笑った。その笑顔は、戦いを終えて、達成感に満ちている。

マルクスは大きく頷き、「次もこの調子で行こう」と声を掛け合う。相変わらず、ドロップ品も成長の音もなく、みんな不思議がっていたが、そういう場所なのだろうと解釈して僕達は先に進むことにした。


 僕らは慎重に進み、やがて広間にたどり着いた。その中心には、異様な光を放つ扉があり、まるで迷い込んだ僕達を誘うかのようだった。光が揺らめき、扉の周囲には古代の魔法陣が刻まれている。その神秘的な光景に、僕達の心は高揚と不安が入り混じっていた。

「これが並行世界の扉ってやつですかね?」

「この扉の向こうに何があるんだ?」

「まぁ、ここからが新しいワールドなんだろうけど……開いた瞬間ボス戦もありえるから、みんな気をつけよう」

不安を押し殺し、マルクスが扉に手を伸ばした。触れた瞬間魔方陣が光り出す。ぐ、と力を込めれば扉が開き……その刹那、全身に強烈な引力が働き、視界が一瞬にして回転した。頭がクラクラし、まるで無重力の空間に引き込まれるような感覚。

「な、なんだこれ……みんな大丈夫か!?」

とっさに叫ぶが全員バランスを崩して扉に吸い込まれていく。

「レオンくん……!!」

 目の前にいたアリアがこちらに手を伸ばしてくる。なんとかその手を掴もうと必死に伸ばした僕の手が届くことはなく、そのまま扉の中に吸い込まれてしまう。まるでゲームの電源を切ってしまったかのように、意識は一気にブラックアウトした。

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