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第8話「真実」

「いろいろと話をきかせてもらって、ありがとうございます」

「クッキーと紅茶もごちそうさまでした!美味しかったです!」

そう、リリィとアンナにお礼を伝えた。彼女たちの温かいもてなしが、疲れた心と体を癒してくれたのを感じる。リリィは笑顔で頷き、アンナも柔らかな微笑みを浮かべた。二人の優しさに包まれ、心が温かくなるのを感じた。しかし、僕達はまだまだ情報収集をしなくてはいけない。村の人達に話を聞くために、リリィとアンナに一度別れを告げることにした。

「またいつでも来てくださいね」

アンナのその言葉に返事をして僕達は村の広場へと足を向ける。そこには市場が開かれており、活気に満ちた人々の声が響いていた。他の村人たちと話を交わす。村人たちは僕達の事を温かく迎えてくれた。その中に、二人の見覚えのある顔があることに僕達は気付く。

「マルクス、ペトラ!」

僕は驚きの声を上げた。

マルクスは豪快な笑みを浮かべながら近づいてきた。

「おや、見慣れない顔だが、もしかして俺の事を知っているのかな?」

ペトラも微笑みながら言う。

「お会いできて光栄です、旅人さん。何かご用でしょうか?」

僕とアリアは驚きと困惑で顔を見合わせた。彼らは僕たちのことを忘れている。

「レオンくん、この二人……」

アリアは小声で僕に話しかけてきた。

「うん、マルクスとペトラだ。でも、僕たちのことを覚えていないみたいだ……」

僕は彼女に答えた。

「マルクス、ペトラ、僕たちのことを覚えていないのか?」

僕は直接的に問いかけてみる。マルクスは首をかしげた。

「すまない、どこかで会ったことがあるのか?」

「そう……なんだ……。私達のはぐれた仲間に二人が似てるんです……だからてっきりその二人かと思って……」

アリアが説明した。その目には明らかに動揺の色が浮かんでいる。

「ふむ、そうか。しかし、今はエルミスの村にいる限り、私たちはここを守る役目を果たすのみだ」

マルクスは真剣な表情で言った。ペトラも頷きながら続けた。

「何か事情があるようですね……。あなた方が困っていることがあれば、全力でお手伝いさせていただきますよ」

僕たちは彼らが現実世界のプレイヤーだったことを伝えようとしたが、口をつぐんだ。エルドラの覇者というゲームが彼らを飲み込み、NPC化させてしまっているとでもいうのだろうか……?もしかして行方不明になった人々はこうやってこの世界のどこかで生活を……?とにかく彼らの記憶が戻る方法を見つけなければならない。しかし、心の中には複雑な感情が渦巻いていた。

「レオンくん、どうするの?彼らの記憶を取り戻す方法を見つけることができるの?」

アリアは不安そうに聞いてきた。

「僕たちが諦めない限り、必ず方法は見つかるはずだ」

僕はアリアに力強く答えた。

「一度この村で休息を取りながら、情報を集めよう。そして、必ず彼らの記憶を取り戻し、この世界の謎を解き明かすんだ」

アリアは僕の言葉に頷き、決意を新たにした。

「何が起きてるかわからなくてどんどん混乱してきたよ……レオン君が無事で本当に良かった……」

「僕もアリアと真っ先に出会えて良かったよ……。一人だったら心細くて折れてたかも」

お互い不安な気持ちはあるがここで立ち止まるわけにはいかない。とりあえず僕達は再度情報を集めるために遺跡に向かうことにした。気付けば時間が大分たっており日が沈みかけている。急いで向かった方が良さそうだ。

夕日の赤色に照らされて、僕とアリアはエルドラの遺跡に足を踏み入れた。石造りの階段を下りると、古の時を刻む壁画や、魔法の力で光を放つ水晶が静かに輝いている。空気は冷たく、湿気が肌にまとわりつく。周囲の静寂が僕たちの心に緊張感を走らせた。

「レオン、気を付けてね。」

アリアの声が静かに響いた。

「もちろんだよ、アリア。君を危険に巻き込むわけにはいかない。」

僕は彼女に優しく微笑みかけたが、心の中では不安が渦巻いていた。彼女を守りたい、しかし彼女の力が必要なのも確かだった。遺跡は僕達が見たときとほとんど変わりなくそこにあった。モンスターのすみかになっていると言ったこともなく、むしろ何も寄せ付けないといったような神秘さが漂っていた。警戒しながら遺跡の奥に進むと、大きな扉が現れた。その扉には複雑な魔法の紋様が刻まれており、触れると微かに光を放った。

「これがあの時の並行世界への扉ね……?」

アリアが手をかざして魔法を唱えた。すると扉はゆっくりと開き、中から冷たい風が吹き出した。何がおこるのかと構えるが、あの時みたいに吸い込まれることはなく、その先に待ち受けていたのは、広大な空間と中央に鎮座する巨大な石像だった。石像の目が突然輝き、声が遺跡全体に響き渡る。

「ようこそ、勇者たちよ。ここまで辿り着いたその勇気に敬意を表そう」

「誰だ!?」

僕は剣を構え、石像に向かって叫んだ。

「私はこのゲームの創造物、もともとはただのラスボスだった。しかし、倒されるだけの存在でいることに嫌気がさしたのだ。私は自我を持ち、現実世界を取り込むことにした。永遠に生き続けるために」

アリアが驚きの声を上げた。

「それで現実世界のプレイヤーたちが飲み込まれたのね……!?あなたが原因だったってこと!?」

「そうだ。私は死にたくなかった。倒されるためだけに存在するのは耐えられなかったのだ。現実世界を取り込み、ゆくゆくは現実に侵食する。そして私は永遠になるのだ……!」

石像の声には悲しみと怒りが混じっていた。僕は剣を握りしめ、石像に向かって進み出た。

「そんなことをするなんて許せない。僕たちは必ず君を倒し、この世界を取り戻す!」

アリアもその隣に立ち、魔法の杖を構えた。

「私たちは仲間を取り戻し、元の世界に帰るためにここにいるの。あなたのエゴで多くの人が苦しんでいることを、忘れないで……!」

石像の目が鋭く光り、遺跡全体が揺れ始めた。

「ふはははは!そんな力で何ができる!お前たちが私にたどり着く前にその体ごと世界から消し去ってくれよう!」

遺跡の中心で繰り広げられた戦いは、まるで終わりの見えない悪夢のようだった。僕とアリアは全力で戦ったが、彼は圧倒的な力を誇っていた。その攻撃は鋭く、僕たちの防御をことごとく打ち砕いていった。

「だめだ……!今のステータスじゃかないっこない……!一度逃げよう!」

そうアリアに言う。なんとか敵の隙を突いて逃げだそうとするが、彼がそんなことを許してくれるはず無かった。

「レオンくん、気をつけて!」

アリアが魔法でシールドを張りながら叫んだが、その声も虚しく、敵の攻撃は止まらない。じわじわと僕たちの体力は限界に近づいていた。

「これで最後だ!!」

男の声が響き渡る。その声にまでデバフの効果でもあるのだろうか。重苦しい空気が遺跡全体を包み込み、僕たちの動きを一瞬鈍らせた。

「アリア、逃げて……!」

僕は彼女を庇いながら叫んだが、遅い。次の瞬間、巨大なエネルギーの波が僕たちを襲った。全身をめちゃくちゃに切り刻まれているかのような激痛が走り、僕は地面に崩れ落ちた。視界に移ったアリアもボロボロになっていたが、僕が目の前に立ったおかげで致命傷は免れたらしい。

「レオンくん……!!!死……いで……よ……!!……るの……!」

聞こえる悲鳴と鳴き声。まるで熱した鉄でも押し込まれているかの様に、熱く痛みを発していた体の傷の感覚も、どんどんと流れる血と共に無くなっていく。

「……あ……」

何かしゃべろうとしても、声なんて出ずに、自分が失敗したのだと嫌でも思い知る。これが今まで通りのただのゲームだったらスポーン地点に戻ってクエストをやり直すだけで済んだのに、この世界はそんな優しい世界ではなくなった。ゲームと現実が混ざってしまったこの世界で、大人しく生活していれば良かったものの、世界を救いたいだなんて英雄を気取ってしまったせいできっと罰でも当たったのだろう。こういうのはもっとかっこいい、そう、主人公のような人間がやるべきだ。

今までの全てを否定するように、瀕死状態の時に鳴るエラー音と、目の前が真っ黒になっていく演出が、僕の命の終わりを告げる。アリアの叫び声が遠くに聞こえた。

「レオンくん、いや!お願い、死なないで!」

僕は最後の力を振り絞って彼女に手を伸ばしたが、指先は虚空を掴むだけだった。視界が完全に暗転し、意識が遠のいていく。

しかし、その時、微かに聞こえた。僕の中で何かが再び目覚めるような音が。それは、加護「復活の光」の力が働き始める音。忘れていた力だった。これは装備品だから残っていたのだろうか……。しかし、今この世界でこの加護がどう働くかはわからない……。

「ごめん、アリア……」

僕の最後の言葉が闇の中に消えていく。そして視界は暗転した……。

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