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第6話「平行世界、エルドラ」

 次の瞬間、足元に固い地面の感触が戻り、僕は目を開いた。

「ここは……最初の村?」

目覚めたそこはエルドラの覇者というゲームを始めたときに最初にたどり着く事になる村だった。しかし目の前に広がるのは、荒廃した風景。民家が立ち並んではいるものの、そのどれもが朽ち果て廃墟と化している。本来ならばこの村は裕福とまではいかないものの、人々の温かみに溢れ、ゲームのスタートにはうってつけの豊かな村だったはずだ。まるで世界のすべてが崩壊してしまったかと疑ってしまうような世界がそこには広がっていた。それに、五感に感じる空気の匂いや、風の音が微妙に今までとは異なっている。

「これは……夢か?」

混乱する頭。現状を確かめようと、メニューを開くアクションをすれば問題なく見慣れた画面がオープンする。どうやらまだゲームの中で問題ないようだ。つまりはここが新しい平行世界とやらなのか……?

「でもみんなは……?」

 離ればなれになってしまったみんなを探そうとマップやフレンド一覧を開くがなぜか表示されるのはエラーの文字。何が起きているのだろうかとチャットの履歴からみんなにチャットを送ろうとしたがうまくいかなかった。とにかく情報を手に入れよう。ここで立ち止まっていても何もおきないし、もしかするとどこかにイベント用のNPCがいるかもしれない。ここがソロ用のマップで一時的にバラバラになっている可能性だってあるし……そう考えて僕は動き出す。改めて今いる場所を観察するが、今までのエルドラで見ていた世界とは違う景色に脳が混乱しそうだった。運営も思い切るものだ……。若干体が重いのは疲れからだろうか、それとも転送したときの後遺症だろうか……。ステータスにデバフが表示されていないか確認しようとして僕は声をあげる。

 【レオン:ステータス】

レオン LV.1

HP:20/20

MP:20/20

SP:15/15

ATK:15

DEF:5

MAG :15

RES :5

SPD:5

DEX:10

INT:5

LUK:5

状態:復活の光

「ステータスが……リセットされてる……!?」

表示されているレベル1の文字。

まるでエルドラが全く別のゲームになってしまったみたいだった。

「そ、そんなどうして……今までの僕の頑張りが……!でもどうして復活の光だけ残ってるんだ……?装備品だから……か?状態欄に書き込まれている意味は……?」

体の重さはステータスがリセットされたからだろうか?改めていろいろ確認しようとすれば

「だ、だれか……!!助けて……!!!!」

遠くから女性の悲鳴が聞こえる。この声は……

「アリア……!?」

聞き慣れた悲鳴に体が思考よりも早く動く。ここがどこでどういうワールドなのかは分からないが、みんなのステータスもリセットされているならソロでエネミーに会うのは危険だ……!僕は急いで声のする方向へ向かった。

 悲鳴が聞こえた方向に向かえば、そこにいたのは予想通りアリア・リュミエールだった。彼女の目の前には今までに見たことのない見た目の巨大なエネミーがいた。

「レオンくん……!気をつけて、敵対エネミーよ……!」

アリアが驚いた様子でこちらを見る。彼女もまた、この奇妙な世界に戸惑っているのだろうか。彼女に視線を合わせてステータスを表示させる。彼女のレベルも1に戻っていた。それにきっとあのエネミーと戦ったのだろう。とっくにMPは0になっており、HPもつきかけていた。

「アリア、これは一体……いや、とにかく逃げよう……!」

僕はアリアの手を強く握りしめて走り出した。アレが、今までのゲームの中のエネミーと同じならば一定距離離れればヘイトは外れるはずだ。とにかく今は遠くへ逃げて隠れよう……!!そう、走って走って、少し離れた民家の中に僕たちは隠れた。

「はぁ……はぁ……!アリア、大丈夫?」

「うん……なんとか大丈夫……」

彼女は鞄の中から青色のポーションを取りだし、それを飲み干した。MP回復のポーションだ。

「荷物とか装備はそのままなのにステータスがリセットされてるんだよな……アリアもだよな……?」

「やっぱりレオンくんも?おかげで魔法も初級魔法しか使えないし、装備の効果も十分に発揮できないのよね……」

先ほどのエネミーがこちらに来ていないか確認をしつつ、お互いで分かっていることの情報交換をする。ここに来るまでの持ち物や装備はそのままだが、ステータスがリセットされていること。それに伴い、装備の効果や使えるスキルに制限がかかっている。現在いる場所は先ほど確認したとおりエルドラの中でも一番最初にたどり着く村だが、その見た目や周りにいるエネミーはまったく知らないものになっていること……

「平行世界って……そういうことか?」

「エルドラであってエルドラじゃない世界ってこと……?みんな無事かなぁ……」

不安そうな声をアリアは漏らす。はぐれてしまったパーティーのメンバーやフレンド達を思い浮かべる。

「まぁ……でも、これはゲームの世界だし、一回ログアウトしちゃえば……あれ?」

「どうしたの……レオンくん?」

「……ログアウトボタンがない……!」

メニュー画面とにらめっこしているがログアウトボタンがどこにも無い。なんとか意識を現実に戻して強制的にログアウトしようと試みるが変化がない。

「もしかして……!!あ……あのニュースって……」

「VRゲームのプレイヤーが目覚めなくなってるってやつか……?まさか……プレイヤーが目覚めなくなったり、行方不明になっているのも、このせい……?」

アリアの言葉に、僕は驚愕した。ふと、僕は鞄の中からナイフを取りだし、軽くその刃を自分の指の上に滑らせる。つぅ……と傷が出来て流れる血の赤色がまるでこっちが現実になってしまったとでもいうように鮮明だった。このゲームは敵の攻撃で負傷やダメージはおうものの、こんなに簡単に出血はしない。全年齢向けゲームではあるので、出血表現が控えめのはずなのだ。

「そんな……私たち……もう帰れないの……?」

彼女の瞳には、恐怖と絶望が混じり合っている。

「まだそうと決まった訳じゃ無いだろ……!もしかしたら何か方法があるかも……!ほら、運営の人にメール送ったら対応してくれるかもしれないし……!」

僕の問いかけに、アリアは少しの間沈黙した後、決意を固めたように頷いた。

「とにかく情報を集めましょう……!もし、この世界の脅威が現実にまで及んでいるなら……みんなを救うためには、ゲームの中で真実を突き止める必要があると思うわ……!そんな夢みたいな話あるとは思えないけど……」

「そう……だな……くそ……!みんなは無事にログアウト出来てればいいけど……!」

はぐれてしまったフレンド達の事を思い浮かべる。これが何かのバグだといいんだけど……。とりあえず僕は運営への報告を入れた。返事がきたらいいんだけど……。

「景色はちょっと違うけれど、エルドラとほとんどマップは同じだと思うし……とりあえず遺跡があった場所に行かないか?もしかすると何か分かるかも」

「あそこから飛んできたわけだし……確かにそうだな……もしかすると誰かに会えるかもしれないし当てもなくさまようよりはいいだろう……!」

僕達は現状を確認すべく急いで遺跡に向かった。同じ扉をくぐれば元の場所に戻れるかもしれないと思って……。

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