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エルドラの覇者
皐紗綾
ゲームVRゲーム
2024年08月02日
公開日
108,752文字
連載中
高校生の渡辺玲央は、VRゲーム「エルドラの覇者」に夢中なゲーマー。だが、ある日、ゲームのプレイヤーが現実世界に戻れなくなるという恐ろしいニュースが飛び込んでくる。ゲーム内で死ねば、現実でも永遠に目覚めなくなるという。しかし、玲央は「エルドラの覇者」の中で奇跡的に手に入れたレアな加護「復活の光」によって、ゲーム内で死んでも現実世界に戻り、24時間後に再ログインが可能になる。この特別な力を持つ玲央は、他のプレイヤーたちを救うため、そしてゲームと現実世界の謎を解き明かすため、命をかけた冒険に挑む。果たして彼は、大切な仲間とともにこの危機を乗り越えられるのか……。

第1話「始まり」

 「死……いで……よ……!!……るの……!」

聞こえる悲鳴と鳴き声。まるで熱した鉄でも押し込まれているかの様に、熱く痛みを発していた全身の傷の感覚も、どんどんと流れる血と共に無くなっていく。

「……あ……」

 何かしゃべろうとしても、声なんて出ずに、自分が失敗したのだと嫌でも思い知る。これが今まで通りのただのゲームだったらスポーン地点に戻ってクエストをやり直すだけで済んだのに、この世界はそんな優しい世界ではなくなった。ゲームと現実が混ざってしまったこの世界で、大人しく生活していれば良かったものの、世界を救いたいだなんて英雄を気取ってしまったせいできっと罰でも当たったのだろう。こういうのはもっとかっこいい、そう、主人公のような人間がやるべきだ。

 今までの全てを否定するように、瀕死状態の時に鳴るエラー音と、目の前が真っ黒になっていく演出が、僕の命の終わりを告げる。こうして、僕、渡辺玲央の物語は幕を閉じるのだ――。



「ただいま~~!!……って誰もいないか……。さて、ゲームゲーム~~!」

しん……と静かな家に自分の声を響かせて、僕はるんるん気分で階段を駆け上がり自室へと向かう。両親が共働きで忙しく、家には僕一人だけ。学校が終われば自室にこもり、外の喧騒から逃れるのがいつもの日常だ。僕、渡辺玲央は、今日も例外ではなく、VRヘッドセットを手に取っていた。部屋の中は薄暗く、パソコンの青い光がぼんやりと照らしている。ベッドには読んでいる途中のライトノベルが積まれ、机の上には学校の教科書が散乱していた。その中で唯一、整然としているのがVR機器の周辺だ。

パソコンの電源を入れて、アイコンをクリックすれば表示されるのは『エルドラの覇者』というタイトルのゲーム。――数か月前にリリースされた、今最も注目されているフルダイブ型VRゲームだ。このゲームは、没入感を極限まで高めるためにどの会社よりも力を入れたグラフィックや、広大で自由度の高い世界、そして無限と言われるほど多彩なスキルや技を誇っている。最初はその魅力から多くのプレイヤーが集まったが、次第に「クリアが難しい」と評価が落ちてしまったのが惜しいところだ。

 しかし、このゲームには他に類を見ない魅力がある。それは、すべての敵やNPCにAIが搭載されており、プレイヤーの動きを学習するという点だ。動きや会話がまるで人間のようにリアルであるため、圧倒的な没入感を味わえるのだ。その反面、ゲームの難易度を高める要因にもなっている。しかし、難しいと言われるほど燃えるゲーマーも多く、一部の熱狂的なファンがこのゲームを支え続けているのは確かだ。

 僕にとって、このゲームは心の拠り所であり、現実の悩みを忘れさせてくれる存在だ。難易度のおかげでとことん集中できるし、仲間たちと協力してクリアするのは本当に楽しい。今日はそんなゲームの新しい拡張パックがリリースされる日で、ユーザーたちの期待が高まっている。

そういうワケだから、早く飛び込みたいとVR機器を装着しようとする。しかし、アプデの時間が思ったより長くかかるみたいで、暇だからとなんとなくテレビをつけてみた。流れ始めたニュース番組を暇つぶし程度に見ていると、気になる報道が聞こえ、つい集中して見てしまう。VRゲームのプレイヤーが次々と行方不明になっているというのだ。プレイヤーたちが目覚めないまま、いつのまにか現実世界から消えてしまうという不可解な事件。不安な気持ちが僕の胸を一瞬しめつけるが、首を横に振る。

「僕には関係ない……よな?ゲーム名も出てないし……こんなマニアゲーやってる人の方が少ないしな……」

そう自分に言い聞かせて、ヘッドセットを装着した。電源を入れれば、ふわり……という浮遊感の後、視界が一変し、僕を広大な草原の中に立たせてくれる。風が吹き抜け、草木がささやく音が耳に心地よい。青い空に白い雲が浮かび、遠くには壮大な山々が見える……この世界がエルドラだ。僕は自分のアバター「レオン・グリフィス」として、この世界に再び降り立った。

 「さぁて、今日も頑張りますか……!」

僕は手にした剣を軽く振り、周囲を見渡した。銀色の髪が風に揺れ、青い瞳が輝いている。現実の僕とは全く異なる姿だが、それが僕には心地よかった。この世界では、自分の限界を超えた力を発揮できるからだ。

「で、新しいクエストは……っと……」

メニュー画面を開き、新しいクエストを探した。クエスト一覧に目立つように表示されている、そのクエスト名を呟く。

「並行世界の扉を開け……?」

並行世界という聞きなれない単語に引っ掛かりはしたものの、僕は詳細を確認することにする。内容は、エルドラ大陸の秘められた遺跡を探索し、その奥にある「並行世界の扉」を開けるというものだ。ストーリー系のクエストだろうから、きっとその扉の先に新しい世界が待っているのだろう。なんと、導入クエストから難易度は高く、現状出ているクエストをすべてクリアしている強者であってもクリアが難しいかもしれない。……が、その分報酬も豪華で、僕の冒険心がくすぐられた。

「誰かログインしてないかなぁ~……」

腕試しがてら一人でいってもいいのだが、やっぱりここはオンラインRPGの世界だ。誰かフレンドといくのが一番だろう。メニュー画面を操作しフレンド一覧を表示させる。やっぱり新コンテンツのリリース日となればみんな行動は早いもので、ほとんどのフレンドのログインマークが点灯していた。

『お疲れ様です!誰か新コンテンツの攻略一緒に行きませんか?』

と、ゲーム内SNSに投稿する。そこまで時間を待たずに数人から反応があった。

『お疲れ、レオン~!俺も今行こうとしてたところ!』

『あ、それ私も混ざっていいですか?』

『枠が空いているなら自分も!』

と、続々とフレンド達からメッセージが届く。しばらく話し合ったあと、みんな現在位置がバラバラだった為、現地……遺跡の前で集合しようということになった。

「さて、いきますか……!現在のステータスはっと……レベル上限が上がるって聞いてたけど、クエストクリアしないとまだ変わらないのかな……?」

そんな事を考えながら、僕は自分のステータスや装備品、持ち物等の確認をする。現在のレベルは85。ここまで成長させるのに1000時間以上はログインしている気がする。最近マンネリ化している事もあったから、新しいコンテンツに高鳴る胸と共に目的地へとスキップ気味で僕は歩き出した。

【レオン:ステータス】

レオン LV.85

HP:1280/1280

MP:860/860

SP:435/435

ATK:603

DEF:257

MAG:603

RES:257

SPD:173

DEX:178

INT:89

LUK:89

状態:正常

 遺跡はエルドラ大陸の北部に位置しているようだった。道中の風景は壮大で、青々と茂る森や険しい山々が広がっている。ここがまるで現実かと錯覚するくらい綺麗なグラフィック。もちろん広さが売りのオープンワールドだから、見える山や森、すべてに入れるし登れる。出来ない事が少ないと言われるくらい、このゲームは作りこみがすごいのだ。太陽が頭上で燦々と輝いていたが、遺跡の方向に近付けば近づくほど、深い森に入っていき、気付けば辺りは薄暗くなっていた。暗闇のデバフを食らうのが面倒なので鞄からランタンを取り出す。ファンタジー世界らしい、道の先を魔法の力で照らしてくれる便利なランタンだ。僕は深呼吸し、新しい冒険への期待感に胸を膨らませる。肺に入ってくるじめっとした、青臭い匂いが、ワクワク感を高めてくれる。遺跡の周辺にも強いモンスターが配置されているらしい。油断は禁物だ。フレンドの現在位置を確認すれば自分が一番乗りらしい。まだ遺跡まで距離があるし、ここは慎重にいこうと武器を構える。

「よし、行くぞ!」

一歩進んだ瞬間聞こえるのは近くに敵がいることを知らせるシステム音。次の瞬間、茂みからゴブリンの一団が飛び出してきた。彼らは黄色い目をぎらぎらと光らせ、鋭い牙をむき出しにして襲いかかってくる。

「おっと……!でも、この程度の相手なら肩慣らしに丁度いいな……!」

僕は剣を構え直し、一気にゴブリンたちに突撃した。最初の一体を斬り倒した瞬間、背後から別のゴブリンが迫ってくる。

「はぁ……っ!!」

しかし、僕は反射的に体をひねり、攻撃をかわして反撃。このゲームにも、もちろんスキルや魔法があり、その力で戦うのがメインだ。だが、VRゲームの最大の利点は直感的に体を動かせることにある。今の動きだって、もちろん回避スキルや反撃スキルを使えば簡単に再現できるが、数々の戦闘をこなしてきたからこそできる直感的な動きだ。こういった積み重なった経験を活かした戦闘は、スキルを発動するよりもはるかに早い。高難易度ではこういった所も求められるのだ。

ゴブリンたちは予想以上に数が多く、次々と僕に襲いかかってくる。いくら慣れているとはいえ、やはり数で囲まれると動きが鈍ってしまう。

「くそ、数が多いな!」

必死で攻撃をかわしながら、一体ずつ確実に倒していく。汗が額を伝い、心臓の鼓動が速くなる。剣を振るうたびに、筋肉が悲鳴を上げるような感覚があった。しかし、僕の気持ちは高揚していた。このギリギリ感が楽しいのだ。

「まだまだ……こんなもんじゃないよな!」

一瞬の隙を見つけ、ゴブリンの群れを一気に突破した。深呼吸し、再び遺跡への道を進む。久しぶりの高難易度クエストに疲労感が押し寄せてきた……が、ここはゲームの世界だ。スタミナ回復のポーションを飲み干し、僕の体は再び力を取り戻す。

「ふぅ……次は……何が来るんだ?」

口をぬぐって辺りを警戒した瞬間、ただでさえ薄暗かった視界に影が差し、何かでかい生き物が目の前に現れたことに気付く。あわてて後ろに下がり上を見ればそこには巨大なトロールの姿がそこに……。ぎょろりと大きな目が動き、僕をとらえる。一瞬のあと彼は大きな棍棒を振り回し、地面が揺れるほどの力で僕に突進してきた。

「……!」

トロールの棍棒が僕に向かって降り下ろされた瞬間、僕は咄嗟に横に飛び避けた。地面が砕け、土埃が舞い上がる。その隙に僕はトロールの側面に回り込み、剣で一撃を加えた。しかし、トロールの皮膚は硬く、思ったようにダメージが通らない。

「こいつ、堅い……!」

トロールは怒り狂い、さらに激しい攻撃を繰り出してくる。僕は冷静さを保ちながら、反撃の機会を狙った。心の中で自分に言い聞かせる。

「冷静に……一つずつ確実に……!」

焦らず、平常心を保てるよう、加護「戦士の魂」を発動させる。持ち主の戦闘能力が向上する加護だ。敵の動きを確実に捕らえ、攻撃を回避。しかし、スタミナがギリギリと削れる感覚が体に伝わってくる。重たい攻撃を受け止めているのだ……仕方ないだろう。だが、こんなことで僕は諦めない。ついにトロールの棍棒をはじき飛ばし、致命的な一撃を繰り出す機会が訪れた。

「これで終わりだ!烈火の刃!!」

ぐっと手に力を込める。渾身の力を込めた一撃が炎を纏い、トロールの硬い装甲を溶かすように心臓に突き刺さる。トロールが倒れた瞬間、僕は大きな達成感で息を吐いた。

「よし……導入クエストでこの強さか……今回は骨が折れるかもなぁ~……まぁ、みんなと一緒なら大丈夫か……!」

等と考えながら進んでいく。今回一緒に行くフレンド達に『道中のモンスターもまじで強い』なんてメッセージを送りながら進む。気付けば森の奥に辿りついていた。

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