だいぶ春もたけなわ、暖かくなってきた。
「もう暖かいですね」
「そうだねぇ、マリーちゃん」
「ミレーユさんものんびりの季節になりましたね」
「ふふふ、そうですぅ」
なんともポカポカして気持ちがいい。
「なんならちょっと暑いくらいだもんね」
「そうですね」
メイド服もそろそろ薄い素材のものに替えようかな。
実はこのメイド服、夏バージョンと生地が厚い冬バージョンがある。
「さて、アイスクリームというのはご存じですかな?」
「え、なんですか? ミレーユさん」
「先生、知らないです」
「そっかそか、実はですね。甘くて冷たいミルクのデザートがあるのですよ」
「食べたいです」
「ワタシも食べたいっ」
ということで作業場にやってまいりました。
「コーヒー用のミルクをちょうだいしますよっと」
「まあ、それくらいなら大丈夫ですね」
「それからお砂糖。甘いお菓子はだいたいお砂糖です」
「こちらも紅茶やコーヒー用ですけどね。まあ背に腹は代えられません」
そして錬金釜に向かう。
「これをアイスの魔法で、撹拌していきます」
「え、アイスで混ぜるんですか? けっこう変わっていますね」
「でしょ、シャロちゃん。こういう使い方もあるんだよ」
「勉強になります! 先生」
「にしし」
ということでミルクと砂糖をひたすら混ぜながら凍らせていく。
冷凍のアイスの魔法は、冷蔵ケースの氷を作るのにも使っているけれど、錬金術師や一部の魔法使いしか使うことができない、比較的珍しい魔法だ。
「まぜぇまぜぇ~ぐーるぐる、ぐーるぐる」
と結構時間がかかりまして、ほい完成。
「これがアイスクリームだよ」
「へぇ、美味しそうです」
「少しバニラの香りも付けてありますよ」
「なるほどです、先生!」
三人、おっとポムも欲しそうに隅でポンポンしているので、四つ取り皿に出して、みんなで食べる。
ミントの葉を一枚、上に載せる。いい匂い。
「いただきます」
もぐもぐもぐ。おいち。冷たい。甘い。
「冷たくて、美味しいですね」
「甘くてデリシャスです、先生」
「ふむ、いい感じにできたぞ」
「きゅっきゅっきゅっ」
ポムもいつもより多く跳ねて、とてもうれしそうにしている。
きっと美味しかったのだろう。ご機嫌だ。
「アイスクリームですかぁ、最高です。ミレーユさんまたお願いします」
「まかせてちょ」
と、これ以降、たまにアイスクリームを作っている。
そんなこんなのある日。
アイスクリームの食べ過ぎなのか、最近ポムに変化があった。
「ねえ、ポム」
「きゅっ?」
「なんか、最近、大きくなったって言うか、太った?」
「きゅっきゅっ!」
ポンポン跳ねるが、なんというかポヨンポヨンになったというか。
「もう、ボヨンボヨン、だよね」
「きゅきゅっ」
「否定しても、そのお腹のたるみは隠せないよねぇ」
「きゅきゅっ」
「持ち上げると……」
ポムを持ち上げる。重い。はっきり前よりも体重が増加している。
成長したんならいいけど、これはデブっただけでは。
「ちょっとダイエット、しようか?」
「きゅっ」
鳴いたと思ったら、隅の方へ逃げていって後ろを向いて動かなくなった。
「ダメだよぉ、そんなんじゃあ」
「きゅっ」
まったく困ったポム隊員だ。
「ポムは夕方、お散歩しようね。雨の日以外、毎日」
「きゅっきゅっ」
そんなっていう顔を浮かべる。
なかなかに表情を作るのが上手い。
ということで持ち回りで私たち三人もポムとお散歩をすることになった。
夕方、お店を閉めた後、三十分くらいだろうか。
ぎりぎり陽が落ちる前だ。
「今日は私、ミレーユと行こうね」
「きゅきゅっ」
あまり乗り気ではなさそうなポムを連れて、散歩に出かける。
それでも散歩には一応は行くみたいで、ポンポン跳ねながら移動していく。
「近所の風景ももうだいぶ慣れたねぇ」
ポムもポンポンと移動していく。
あっちこっちへ行って、興味のあるものがないか動きながら観察していた。
ポムは結構好奇心が強い。
イタズラとかはあまりしないんだけどね、好奇心はあるんだよね。
そうしてご近所様を一周して戻ってくる。
「ただいま~」
「おかえりなさい、ミレーユさん、ポム」
「きゅっ」
汗をかくのかどうかは不明だが、元気そうだ。
とりあえず、毎日続けよう。
こうしてポムのダイエットが始まった。
いつもやっているとなんとなくポムが小さくなってきたような気もする。
「ポム、ちょっと痩せたかな?」
「きゅっ」
「そうだといいね」
「きゅっきゅっきゅっ」
変な踊りをして、アピールしてくれる。
ちょっとは痩せたのをうれしく思っているようだった。
なんやかんや私たちも少し身が引き締まったみたいで、もともと痩せていたんだけど、すっきりしてきた。
これ以上痩せるとガリガリになってしまうが、適度な運動は健康にもいい。
「また運動しようね」
「きゅきゅ」
変な踊りをしているポムを見ながら、みんなで笑い合うのであった。