連日、寒い日が続いている。
いくら雪が積もらないといっても、寒いものは寒い。
貧困街の子たちも家があるとはいえ、壁も薄いだろうし、隙間風とか入ってくるだろう。
それで薪を焚いたりして、なんとか寒さをしのいでいる。
せめて料理で使う薪くらいは減らせないだろうか。
ということで、魔道コンロを作ります。
「今日も寒いね、ミレーユさん」
「そうだね、マリーちゃん」
「先生、外は寒いんですよ」
「そっか、なるべく家にいるね、えへへ」
魔道コンロは魔道具の中では魔道ランプについで普及しているくらい一般的な魔道具だよ。
そうはいっても、薪でも代用できるからない家にはない。
それで貧困街の子たちはスライム狩りでかなりの数のスライムの魔石を取ってきている。
そこで普通の魔道コンロはもっとグレードの高い魔石をつけて、長期間ずっと使える仕様なんだけど、特別製でスライムの魔石でも使える魔道コンロを作ってみよう。
まず、ベースとなる木の箱を木工屋さんに注文してある。
表面には木だと心配なので、石の薄い板が使われている。
これはまとまった数を発注してあって、その第一弾が今日届いた。
この下、内側に機械を入れていく。
まず魔石を入れる場所を作って発動用の魔法陣を書く。
それをつなぐためのスイッチを側面につける。
「こうなってるんですね」
「そうそう、ここにスイッチ」
「へー」
スライム用は少し工夫がしてあって、魔石を三つつけて最大火力になるように調整する。
普通は魔力調整スライダーをつけるんだけど、このスライダー、少し機構が複雑でお値段が高めなのだ。
今回は量産品なので、火力は魔石一個、二個、三個分と三つのスイッチで代用とする。
これでかなり加工賃が安くできる。
魔道コンロもそんなには安くない。
普通、こういう高火力の魔道具に使う中級魔石も安くはないので、長持ちしないけどスライムの魔石だったら現地調達できる。
物を売って買うより、そのまま使えたほうが値段効率が高いのはいうまでもない。
スライムの魔石くらいだと、砕いてクズ魔石にした魔石肥料あとはもっと粉にして魔力インクくらいしか、用途も思いつかない。
だから売値はかなり安いのだ。
魔道コンロにももちろん使えるんだけど、頻繁に取り換えが必要となる。
魔道コンロは料理屋さんなど料理を頻繁にする家に導入されることが多かったので、それでは面倒くさくて使い物にならないわけだ。
でも今回のはターゲットも決まっていて、特注だからできる。
まずは初期ロットとして十個を完成させた。
とりあえず台所に持ち込んで使ってみる。
上にフライパンを乗せて、ホットケーキの元を作って焼いていく。
「ふんふんふん♪」
一瞬、じゅわっと音がした。
十分な火力がありそうだ。
「おぉ、ぷつぷつできてきた」
手をかざしてみても、温まっているのは分かる。
これで部屋ごと暖められたらいいんだけど、さすがにそんな火力はない。
「ほいっと」
私はホットケーキをひっくり返す。
綺麗なキツネ色だ。
そういえば、あまりキツネは見たことがない。
そうこうしてホットケーキが焼けた。
甘さを考慮しないのであれば、似たようなものは貧困街でもできるだろう。
さて早速、貧困街に持ち込んでみよう。
今日は日曜日で、お仕事はお休みなのだ。
マリーちゃんは遊びに来ている。
「すみません」
「なんだよ、ミレーユじゃんか」
「おうよ。人を集めて欲しいんだ。ほい、お駄賃のグラノーラ」
「ありがとう、待ってろ」
暇そうな子供を捕まえて人を集めてもらう。
「(かくかくしかじか)ということで、子供たちが集めてくるスライムの魔石で動いちゃう、魔道コンロです」
「「「すごい」」」
「試供品ができましたので、全部で九台かな。みんなで使ってみてください」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「ありがとな、ミレーユ先生」
みんな私に頭を下げてくれるけど、そんなタマじゃないって。
さっそく、お肉と小麦粉を水で溶いたものを焼いていく。
野菜の代わりにその辺の草も入れてある。
なんというか、東国にあるお好み焼きみたいな感じのものだった。
「おお、いい匂い」
お肉が乗った小麦焼きが出来上がっていく。
「いいぞ、いいぞ」
「ふふ、これで薪の節約になるわ」
「ありがたや、ありがたや」
うん、うまくいったようだ。
あ、試運転のスライムの魔石は私がギルドから調達してきたよ。
ずっと提供するより、やっぱり自分たちで出来たほうがいいよね。
依存しちゃうと、生活力が下がっちゃうもんね。
魔道コンロそのものの依存はあるけど、シャロちゃんもいるから、将来的にはきっとマーシャル錬金術店でなんとかしてくれるでしょう。
こうして第二ロット、第三ロットと納品を重ねて、貧困街にスライム魔道コンロが普及したのでした。
ついでとして、マリーちゃんちに第一号も設置されているよ。
マリーちゃんも感謝してくれたっけ。