最近、特に王都は寒い。
雪が降るほどではないにせよ、気温は一桁だろう。
あ、ああ、温度計はあまり売っていない。
体温計が病院に一応あるので、温度計も存在はしている。
夜に湯を沸かして、湯たんぽを作るのも、ちょっと面倒ではないだろうか。
また朝や昼間から使いたいとなると、大きさも重さもけっこうある。
普通の懐炉は石を温めたもので「
石を火で加熱するんだけど、加減が難しい。
温めるのも面倒だし、朝一番からは使えない。
お店には床下暖房がある。
ここ王都では一般的な装備だ。
半地下に暖炉があってその煙突のパイプが床下に埋め込まれて巡っている。
ただし、燃料の薪が結構必要で朝一番は寒い。
「じゃじゃーん、そこで魔道式懐炉です」
「「おーお」」
シャロちゃんのマリーちゃんも感心してくれる。
「わたし、冷え性なのでうれしいです」
「そっかあ」
マリーちゃんも冬には困っているようだ。
「寒いのは苦手だから私も懐炉はありがたいです」
こちらはシャロちゃん。
やっぱり冬は女の子の天敵だ。
魔道式懐炉は簡単だ。
人間の魔力及び魔石の蓄積された魔力を使って温める。
火属性の適性がない人でも、自分の魔力を変換して熱を得ることができるのだ。
しかし魔力が少ない人もいる。
だから二種類の商品ラインナップがある。
一つは半分程度は自分の魔力を使い温めるタイプ。
もう一つは人間からほんのちょっと魔力を吸収すると、それを呼び水に魔石の魔力を使って温めるタイプ。
前者は半分の魔石で済むので、お値段とランニングコストも半分で済む。
後者は魔石の力に頼っているので、燃費が悪い。
庶民でもそこそこの魔力を持つのに使っていない宝の持ち腐れの人がかなりの数いる。
だからどちらの顧客も重要で、両方を売るのだ。
「いらっしゃいませ」
「懐炉、懐炉、魔道懐炉いかがでしょうか」
売り込みも始めた。
最近、一応は調薬店なんだけど、魔道具のほうに力を入れ始めている。
魔道具は魔道具師という人が本来は専門なのだけど、その素材には錬金術が必須だったりするので、魔道具師と錬金術師は親戚みたいなものなのだ。
「この魔道懐炉いいね、軽くて小さいね。ひとつください」
「ありがとうございます」
自己魔力のほうが銀貨四枚。
魔石の懐炉のほうが銀貨六枚のお値段です。
湯たんぽはお湯が入っているので、大きいし重い。
魔道懐炉なら昼間の携帯性も抜群だ。
間違って水をこぼしたりしないし、長時間使える。
「はい。温度もそこまで熱くならなくて、快適ですよ」
「ほほーん。いいねえ」
湯たんぽは最初熱くて布でくるんだりする必要があるけど、魔道懐炉も一応は布で覆うけど、必須ではない。
「こちらはどうでしょうか。エアコンの魔道具です。周囲に空気のバリアを張り寒さや暑さをはじきます」
「んんん、でも、お値段がね」
「そ、そうですね」
えへへ。ついでとばかりに数個だけエアコンの魔道具を作った。
防御魔法の応用品だ。
正直に言えば、魔力をかなり消費するため、燃費が悪く高い。
まああれだな、お貴族様用だ。馬車とかに使うとよい。
あとこれは夏も使える。
お値段は、あ、うん。
金貨十五枚。
装置は十センチ角くらいで、高価な大粒の風属性魔石が六個並んでいる。
これでチャージなしで一週間の連続運転ができる。
人間が手を
ここまで魔力が多い人は十五人にひとりぐらいかな、たぶん。
そうでない人は、予備の魔石を持ち歩く必要があるが、大粒の魔石は高いのだ。
こっちは完全に趣味だね、あーはーはー。
「ホットポーションもはじめました」
そうそう錬金術店であるからして、本業のポーションもある。
体内の魔力を使って内側から温めてくれる優れ物だ。
これを飲むとすぐに中からポカポカしてきて五時間くらい継続する。
懐炉はその部分しか暖かくないけど、これなら全身温まる。
冒険者や外の仕事の人におすすめです。
ただポーションは使い切りだから、コスパはあんまり良くない。
それでも寒さは狩りの天敵で体が思うように動かなくなる。
背に腹は代えられないので、需要は高い。
一つ銀貨二枚です。
話を戻して懐炉だ。
懐炉はそれなりに長時間使えるし、コストパフォーマンスは高いので、庶民には是非にこの機会にご活用を。
あったかぽかぽか、携帯用魔道式懐炉だよ。
お値段銀貨六枚。
魔道具としては安いと思うよ。おひとつ、どうですか。