あれから三か月。
錬金術店は落ち着きを取り戻して、なんとか黒字経営で運営もやっている。
黒塗りの馬車が錬金術店の前に停まる。
うちにまた執事みたいな人がやってきた。
「お手紙をお持ちしました」
「はいはーい」
そこには私を名誉
爵位の進呈は王家のみがおこなえる。
騎士爵ナイトなら各領地の貴族が与えることができるけど、それとは明らかな差がある。
それから支度金。少なくない金貨が入っていた。
ドレスを仕立てろということだろう。
前回の三等市民勲章のときはメイド服だったんだっけ。
さすがに王様とメイド服というわけにはいかないか。
こういうの好きだけど面倒なんだよね。
服屋さんに行って、ドレスを作った。
色は勧められるがまま薄ピンク。
若い淑女にぴったりの令嬢っぽいやつ。
当日にあっという間になった。
このドレスを着て、今回はシャロちゃんとマリーちゃんも連れて、王宮に向かう。
二人はお付きなのでメイド服でいいんだって。
なにそれずるい。
とにかく認定式が始まった。
赤い
王様も金の
「ミレーユ・バリスタット嬢を、トラスティア王国名誉女男爵に認定する」
拍手が沸き起こる。
知り合いはみんないる。
そうそうメホリックのワンツーであるゲイドルドさんとバーモントさんは失脚して、引退を余儀なくされた。
首が飛ばなかっただけでも、王様は優しいんだそうだ。
今はボロランさんが暫定で事実上のトップをしている。とても忙しいと聞く。
メイラさんは相変わらず女性なのをものともせず敏腕でブイブイ言わせている。
うちはシャロちゃんとマリーちゃんがいるから大丈夫。
彼女たちにも拍手と笑顔をたくさんもらった。
前回は食事会だったけど、今回は
それもダンスのあるタイプ。
「ミレーユ嬢、お美しい……ぜひダンスを」
うっひょっひょ。
貴族の人もたくさん参加していて、私をダンスに誘ってくる。
なるべく回避しつつ、どうしてもという場合には、へっぽこダンスを踊ったよ。ちくせう。
合間に美味しい料理もいただいた。
お肉は美味しいし、チーズもサラダもデザートも、なんでも最上級だ。
ダンスを回避した分、めちゃくちゃ食べた。
お腹はもうぽんぽこぽん。
コルセットがなければ倍は食べられたのに。
この服は理不尽だ。
私が着飾っても、いいことなんかないのに。
テラスに逃げてきたら、王様がいた。
ワイングラスを片手に、庭を見ていた。ユグドラシルの木、世界樹だ。
グラスを軽く上げて挨拶してくる。
私は頭を下げて、返礼をする。
「ミレーユ男爵、どうだね?」
「どうと言われましても」
「今は名誉女男爵だが、上を目指さないか。伯爵くらい」
「はあ? 伯爵?」
「そうだ。ホラを吹く趣味はない。本当だ」
「私なんかに」
王様はふっと軽く笑う。
「綺麗な金髪、ちょっと尖った耳。ワシには分かる。最初信じがたかったが、それは」
「あ、はい」
私は観念する。ばれてーら。
さすがに王族なら知ってるか。
「エルフ様の
「おそらく」
王様が恭しく右手を乙字にして礼をしてくる。
「その能力も素晴らしいが、その血も捨てがたい。見つけてしまった宝石を、野に放ったまま、放っておくことがワシはできない立場だ」
「そうですか」
「しかし、本人の意向は優先していい。好きに生きていい」
「ありがとうございます」
王様は分かっていて、なお、寛容だった。
大変ありがたい。
「とりあえずは、当分は今の女の子三人生活を満喫します」
「そうしてくれ」
まだこれから先、なにが待っているか分からないけど、錬金術店は続けられそうだ。
今の生活に不満はない。
マリーちゃんとシャロちゃんは、可愛いし、大好きだし。
ボロランさんとメイラさんにはよくしてもらっている。
「では、先に失礼する」
「はい、では」
王様は行ってしまった。顔は
他者に秘密を隠していて、それを共有しているのを楽しむときの顔だ。
テラスでひとりになる。
「今の自分に、乾杯」
私も一人で乾杯する。
王都に出てきて最初は不安だったけど、この先もこの都市で生活できそうだ。
馬車で送ってもらい、錬金術店に戻ってきて、シャロちゃんとベッドで眠る。
やっぱり女の子同士の世界は最高だなぁ。
やっと重苦しいものが終わり、いい気分で眠ることができた。