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56 王様謁見と世界樹だよ


 トラスティア王国、ルクシリス・ド・ミルド・トラスティア国王。

 それが彼の名前だった。


 四十歳そこそこだろうか。まあまあのイケメン。ヒゲが生えている。

 あまり興味はないけど、それっぽい人というのが第一印象。


 その人の前で、メイラさんボロランさん私で、謁見が始まった。


「それでホーランド、メホリック両商業ギルドの重役、および火事やポーションなどで活躍したという錬金術師のミレーユで、相違ないかな」

「はい」


 私たちは頭を下げる。


「楽にしていい。それで緊急の陳情とは、なんだろうか」

「実はですね。王都では今、赤紋病というものが流行しつつあります。それの対策に特級ポーションがなんとしても必要なのです。しかしその材料として、ユグドラシルの木、その葉っぱは数がなく、王宮の世界樹の葉が欲しいのです」

「世界樹の葉か」

「はい」


 王様は考えるように斜め上のほうを見て、ぼうっとする。


「ユグドラシルの木は、王家の世界樹の他に、メホリックの中庭にあるということはワシだって知っているが」

「ははぁ」

「なぜそれを使わない」


 私たちは頭を下げる。


「実は採取にメホリックのナンバーワンとツーの二人が反対していまして。私はナンバースリーなので逆らうことは出来ません。仕方がなしに、最後の望みとして、ここに陳情に来ました。この首一つで王都が救われるなら安いものです」

「そうか。メホリックのナンバーワンとツー、誰だったかな」

「ゲイドルドとバーモントです」

「ゲイドルドとバーモントだな、ふむ。覚えておこう。侍従長、記録に残すように」


 あーあ。どうなっても知らないんだ。

 ボロランさんは首を覚悟で。首はここでは物理的に飛ぶことを意味する。

 でもどうやら、首が飛びそうなのは上の二人のほうみたい。


「それに、患者の数はまだ増えます。メホリックの木だけでは、葉っぱが足りない可能性もあります」

「ふむ、そうか。致し方なし、か」

「はい」


「分かった。必要な分だけは、採取を許そう」

「「「ありがとうございます」」」


 ふう。

 王様が理解ある人で良かった。




 謁見から退出した。

 メイドさんに連れられて移動中だ。


 ボロランさんが首をさすっている。

 さすがに縛り首は嫌だもんね。


 王宮のただっぴろい裏庭に出ると、すでに上のほうは見えている。

 世界樹。

 高さはえっと、普通の木の倍、五十メートルくらいだろうか。

 いやあ、計測不能というかめちゃくちゃ高いことだけは確かだ。


 近づいていくと、とにかく高い。


「これが世界樹」


 下から見上げる。

 これどうやって葉っぱ採るの。


 庭師がハシゴを持ってきてくれた。


「すみません。葉っぱ。千枚くらいください」

「千枚、ですか?」


 庭師がオウム返ししてくる。


「はい。王様の許可は取りました」


 私はニッコリ笑顔で答えると、庭師も引きつった顔で納得した。


 作業は庭師の人がやってくれる。

 木に登って葉っぱを採ってくれる。

 麻袋に詰めていく。


 なんとか葉っぱを回収した。

 これが世界樹、神の木。


 その力の一部を私たちがいただくんだ。

 手に汗握るというか、霊験あらたかというか。


 その重圧を今更感じる。


 馬車で送ってもらって、他の材料もメホリックから分けてもらう。


 作業をひたすらした。

 特級ポーションだ。使用魔力量も比例して多い。

 私でも魔力量がぎりぎりかもしれない。

 しかし、今はやらなければならない。


「さて、では今まで修行もしてきたし、シャロちゃんにもやってもらおう」

「はいっ」


 シャロちゃんは真剣だ。

 やり方は何回も私の助手をしたから分かるだろう。

 助手にはマリーちゃんにお願いする。


「では、力を合わせて、頑張りまっしょい」

「「おーお」」


 私たちは自分たちしかできない特級ポーションを量産するのだった。




 こうして赤紋病が流行したものの、特級ポーションの活躍により、死亡者数を初期の数名で抑えることができた。

 市民にはお触れが出て、手洗いうがいを徹底し、外出を控えるように宣伝した。


 なんとか患者数のピークを過ぎ、現在はその感染者数は日に日に減り、ついにその流行は止まった。


 こうして未曽有みぞうの赤紋病の流行はなんとか抑えられた。


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