トラスティア王国、ルクシリス・ド・ミルド・トラスティア国王。
それが彼の名前だった。
四十歳そこそこだろうか。まあまあのイケメン。ヒゲが生えている。
あまり興味はないけど、それっぽい人というのが第一印象。
その人の前で、メイラさんボロランさん私で、謁見が始まった。
「それでホーランド、メホリック両商業ギルドの重役、および火事やポーションなどで活躍したという錬金術師のミレーユで、相違ないかな」
「はい」
私たちは頭を下げる。
「楽にしていい。それで緊急の陳情とは、なんだろうか」
「実はですね。王都では今、赤紋病というものが流行しつつあります。それの対策に特級ポーションがなんとしても必要なのです。しかしその材料として、ユグドラシルの木、その葉っぱは数がなく、王宮の世界樹の葉が欲しいのです」
「世界樹の葉か」
「はい」
王様は考えるように斜め上のほうを見て、ぼうっとする。
「ユグドラシルの木は、王家の世界樹の他に、メホリックの中庭にあるということはワシだって知っているが」
「ははぁ」
「なぜそれを使わない」
私たちは頭を下げる。
「実は採取にメホリックのナンバーワンとツーの二人が反対していまして。私はナンバースリーなので逆らうことは出来ません。仕方がなしに、最後の望みとして、ここに陳情に来ました。この首一つで王都が救われるなら安いものです」
「そうか。メホリックのナンバーワンとツー、誰だったかな」
「ゲイドルドとバーモントです」
「ゲイドルドとバーモントだな、ふむ。覚えておこう。侍従長、記録に残すように」
あーあ。どうなっても知らないんだ。
ボロランさんは首を覚悟で。首はここでは物理的に飛ぶことを意味する。
でもどうやら、首が飛びそうなのは上の二人のほうみたい。
「それに、患者の数はまだ増えます。メホリックの木だけでは、葉っぱが足りない可能性もあります」
「ふむ、そうか。致し方なし、か」
「はい」
「分かった。必要な分だけは、採取を許そう」
「「「ありがとうございます」」」
ふう。
王様が理解ある人で良かった。
謁見から退出した。
メイドさんに連れられて移動中だ。
ボロランさんが首をさすっている。
さすがに縛り首は嫌だもんね。
王宮のただっぴろい裏庭に出ると、すでに上のほうは見えている。
世界樹。
高さはえっと、普通の木の倍、五十メートルくらいだろうか。
いやあ、計測不能というかめちゃくちゃ高いことだけは確かだ。
近づいていくと、とにかく高い。
「これが世界樹」
下から見上げる。
これどうやって葉っぱ採るの。
庭師がハシゴを持ってきてくれた。
「すみません。葉っぱ。千枚くらいください」
「千枚、ですか?」
庭師がオウム返ししてくる。
「はい。王様の許可は取りました」
私はニッコリ笑顔で答えると、庭師も引きつった顔で納得した。
作業は庭師の人がやってくれる。
木に登って葉っぱを採ってくれる。
麻袋に詰めていく。
なんとか葉っぱを回収した。
これが世界樹、神の木。
その力の一部を私たちがいただくんだ。
手に汗握るというか、霊験あらたかというか。
その重圧を今更感じる。
馬車で送ってもらって、他の材料もメホリックから分けてもらう。
作業をひたすらした。
特級ポーションだ。使用魔力量も比例して多い。
私でも魔力量がぎりぎりかもしれない。
しかし、今はやらなければならない。
「さて、では今まで修行もしてきたし、シャロちゃんにもやってもらおう」
「はいっ」
シャロちゃんは真剣だ。
やり方は何回も私の助手をしたから分かるだろう。
助手にはマリーちゃんにお願いする。
「では、力を合わせて、頑張りまっしょい」
「「おーお」」
私たちは自分たちしかできない特級ポーションを量産するのだった。
こうして赤紋病が流行したものの、特級ポーションの活躍により、死亡者数を初期の数名で抑えることができた。
市民にはお触れが出て、手洗いうがいを徹底し、外出を控えるように宣伝した。
なんとか患者数のピークを過ぎ、現在はその感染者数は日に日に減り、ついにその流行は止まった。
こうして