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52 三等市民勲章だよ


 午後のお店をのんべんだらりとして、開いていたら、黒塗りの立派な馬車がお店の前に停まった。


「何あれ」

「さあ」


 シャロちゃんにも分からないのかな。

 じっと見ていたら中から紳士帽を被った人が杖をついて出てきた。


 そのまま中に入ってくる。思考を切り替えだ。モードチェンジ、接客スタイル。


「いらっしゃいませ。ようこそ、ミレーユ錬金術調薬店へ」

「ふむ」

「何をお求めですか」

「収納のリュックサックというのが便利らしいな」

「す、すみません。ただいま材料切れで在庫なしとなっていまして」


 この前から在庫は一切ない。自分たちのぶんはあるけど、あれは売り物ではない。貴族様でどうしてもで、圧力かけてくるなら自分の予備を出そう。悔しいけどね。

 何を言われるのか、冷や汗ものだ。


「やはりそうか、なにただの確認だよ。そう構えなくても大丈夫」

「そうですか」


 ふう、よかった。


「君がミレーユかね? それともそっちかな?」

「あ、私です」


 同じメイド服着てるからよく間違えられるんだよね。マリーちゃんにとばっちりが行く前に自分で名乗る。


「市長からの招待状を預かっている。一週間後、市庁舎へ来なさい」

「え、どういう?」

「三等市民勲章だ。おめでとう」

「あ、ありがとうございます?」


 ごめんなさい。よく意味が分からないです。

 おじさんは招待状を手渡して帰っていった。


 招待状によれば、私には三等市民勲章という勲章が貰えるらしい。

 一般市民が貰える勲章は一等が一番上で三等が一番低いみたい。

 どうやら今までの医療への貢献、この前の火事現場での無償奉仕などが決め手になったようだ。

 そもそも十三歳ですぐに貰える事自体が異例なんだと、ホーランドのメイラさんが言っていた。


 普通はドレスで行くのが通例なんだけど、私はメイド服でいいんだって。

 ドレスがよかったけど、一週間で仕立ててもらう特急料金なんか当然払えないので、渋々メイド服で行こう。

 とほほ。すっかりメイド服が制服になっちゃったな。

 お金が掛からないのはいいけど、本当にそれだけだよね。


 授与式当日の午前中。お店で待っていたらこの前の黒塗りの馬車が横付けされてきた。

 御者が降りてきて、お店に入ってきたので、その案内に従って馬車に乗る。

 私、シャロちゃん、マリーちゃんと乗せてくれたら出発した。


 王都の道を豪華な馬車に乗って走る日が来るとはね。

 車窓を眺めながら、進んでいく。

 そして中央の例の噴水広場までくると、その正面にある建物の前で停まった。

 ここが市庁舎だった。


 御者の人はそのままで、市庁舎から担当の人が出てきて降りるのを補助してくれる。

 そのまま中に案内された。


 手前の事務スペースを無視して奥に進んでいく。

 床が赤い絨毯じゅうたん敷きになった。

 廊下を折れて左の部屋に入っていく。


 部屋の中にはすでに、ホーランド商業ギルドのホーランド親子、それから知らない人。

 メホリック商業ギルドもボロランさんと他二人。どちらかがバーモントさんだろう。おそらくあまりうれしくなさそうな顔をしているほうだろうか。

 それから恐らく冒険者ギルドの偉そうな人が三人。

 あ、あとはですね。背の高い魔術師部隊の隊長とお伴が二人。

 なるほど、なるほど。


「ミレーユさんたちがご到着だね」


 ホーランドのおじさんだ。会うのは初めてだけど知っているらしい。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」


 他の人とも挨拶を交わす。

 あとは自分たちとホーランドのメイラさんとかと話を少ししていたら、時間のようだ。


 入口から恰幅のいいおじさんが入ってきた。

 胸のところには勲章がついている偉そうな感じの人だ。


 そして、ホーランドと冒険者ギルドは左側、メホリックと魔術師部隊は右側に整列した。

 マリーちゃんと、シャロちゃんも左右に分かれて末席に並ぶ。


 そして私が指示されたのは一番通路側の真ん中真正面。

 恰幅のいいおじさんが正面の奥にこちらを向いて、向かい合った。


「私は市長のアルデバランだ。よろしく頼む」

「はいっ」

「うむ、いい返事だ。では、今から授与式を始める」


 お、始まっちゃった。さすがに緊張する。


「ミレーユ・バリスタット嬢。前へ」

「はいっ」


 市長との間はちょっと空いているので、歩いて正面まで移動する。


貴女きじょは、名誉ある市民として、医療の発展に尽力し、またこのたびの火事に置いて、迅速なポーションの配布を無償で行い、死亡者を出さずに治療を行った功績をここに称え、三等市民勲章を授与するものである。市長アルデバラン・ミッケンロッテ伯爵。おめでとう」

「あ、ありがとうございます」


 市長から勲章をいただく。

 二重丸に八方向に光が広がっているような意匠の勲章だった。それを首に掛けてもらう。


 ぱちぱちぱちぱち。


 参加者、そして市庁舎の職員のうち後ろで見ている人が一緒に拍手をしてくれる。


「あーごほん。なお、副賞として金貨十五枚を進呈します」

「こちらも、ありがとうございます」


 ぺこぺこして、金貨の袋を受け取る。

 ちょろっと中を確認すると、金貨は収納のリュックを売るときにも受け取ったけど、金色に光っていて、とても綺麗だ。


 ぱちぱちぱちぱち。


 再度拍手を受けた。


「さて、式そのものはこれで終わりだが、食事を用意してある。是非ご一緒ください」

「あ、はい」


 これは招待状にも書いてあったので、すんなりみんなで食事をする。

 でもすぐ近くに伯爵とかいう貴族様と一緒に食事なんて、緊張しちゃう。


 内容はコース料理だった。

 白パンは一緒に出てきていた。いつ食べてもいいみたい。

 お通しみたいなもの、野菜の前菜、スープ、お魚、サラダ、お肉、それからデザートだ。

 透き通ったコンソメスープ。お魚はイカリナのフライ。お肉はおおぅ、牛肉のフィレステーキ。

 デザートはオレンジ果汁を氷魔法で固めた、オレンジシャーベットだった。

 なるほどそれなりに豪華だ。


 美味しいご飯を頂いて、ほくほく顔で帰りましたとさ。

 お店はちょっとお休みをいただきました。みなさんごめんなさい。


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