王都の西には森がある。
そして南にはかなり広い平原が広がっているのだ。ここも昔は森だったのだけど、薪や建築資材として伐採した結果、平原になったらしい。
隻腕のおじさん、ジョンさんとともに私と四人の子供たちで南平原に向かう。
「お、子供連れで平原ですか」
「はい。ちょっとスライム狩りに」
「珍しいですね」
「まあそうですね、行ってきます」
城門で、衛兵さんに挨拶して通してもらう。
西の森は保護森林なので、伐採は許可されていない。そして魔物、魔獣などが出る。キノコ、薬草など錬金術にも使う資源も多いけれど、危険も大きい。
対して南平原には、魔物はスライム、角ウサギしかまず見かけない。
「あーすごい。牛さんがいる」
黒、白、灰色、茶色と色も種類がいる。
ロイヤルミルクティーに使うミルクはこうして放牧されている牛のものだ。
耳には管理票が付けられていて、持ち主を判別できる。
最大の脅威はこの家畜の牛だ。怒らせると角で攻撃してくるし、後ろ足で蹴られて死亡することもある。
「だから牛さんは怒らせてはいけないよ」
「「はーい」」
「牛はまじで危険だ。気を付けてくれ」
ジョンさんも同意らしい。
角ウサギも遠くのほうにたまに見かけるけれど、人を見かけるとすぐに逃げていきすばしっこいため、捕まえるのは困難だ。
もしウサギが取れたら、お肉もいっぱい食べられるのに、残念だ。
あと牛のお肉も流通しているけれど、けっこう高い。干肉も流通していて、こちらはなんとか私たちでも手に入るぐらいのものだ。
ステーキとかになるとすごく高い。
一度でいいからレストランの牛ステーキを食べてみたいとは思うんだけど、村で普段から魔獣のお肉は食べ放題だったから、期待はあんまりしていない。
スライムはいるにはいるけど、まばらにしかいない。まず見つけるのが大変だ。
みんなで移動しながら探す。
そのときに五メートル間隔に広がって、足元もついでに探す。これは主に薬草ともう一つの目的、魔力の実を探すためだ。
魔力の実は一センチぐらいの青い実で、一度に十粒くらいなっているはず。
ただ背も低い草で小さいので、離れていると見つけられない。
だから広がって探すしかない。
大人が並んで探しても、日当の代金を払うと赤字なので、普通はわざわざ探したりしないのだった。
そのせいで値段が高めなくせに品薄で、取ってきてくれる人もいない。
「あった、青い実!」
「よくやった」
みんなで一度集まって、青い実を見る。
草の実物は冒険者ギルドにもなかったので、子供たちは初めて見る。
こうして青い実を探しながら、スライムがその辺にいないか見て歩く。
「スライム発見!」
「おし、よく見ててね、お姉さんから見本を見せるね」
私がナイフでスライムを追いかける。
接近して、ナイフをぶすっと刺す。核をくり抜いて引っ張り出すと、もう動かなくなる。
「はい、簡単でしょ」
「うぉおお」
「スライムさんっ!」
ポムもついてきているが、微妙な表情だ。
ごめんねポム。でもスライム以外に選択肢はない。
スライムを収納して持って帰った。
この日は雨の後だったこともあって、けっこうな数のスライムを狩れた。
貧困街に戻ってきて、後の処理を説明しないと。
「スライムの核は、冒険者ギルドに売りつけましょう」
「「はーい」」
魔物の核、それすなわち魔石だ。スライムは最低等級だけど売れないこともない。魔道具の燃料などになる。
「スライムの体のほうは、こうやって広げて干して乾燥させます」
「「はーい」」
スライムを広げていく。もちろん子供たちにも手伝ってもらう。今度からは子供たちだけで、できるようになってもらわないと。
「こんなふうに乾燥したら完成です」
「「おーお」」
リュックから乾燥スライムを取り出す。
「このすり鉢をあげるので、乾燥スライムをこれですりつぶしてください」
「「はーい」」
「まずは手でちぎっていって、すり鉢に入れて、ごりごりするんだよ」
「「はーい」」
言った通りの作業をする。みんな大人しく見てくれる。
「粉になったらジョンさんに渡して、ジョンさんがミレーユ錬金術店に持ってきてくれたら、お金になります」
「「お金!」」
リュックから銀貨を見せる。
そうそうお金になるんだよ、このスライムが。
お金はご飯を買ったりするのに、使えるね。
こうして午前中や日曜日に子供たちを順番に狩りにつれて行って、チームを作る。
その後は、ジョンさんのチーム、私のチームに分かれて指導を続ける。
スライム狩りと魔力の実は、人海戦術が有効なので、人数は多いほうがいい。
一か月後には、年長者多めで子供たちだけのチームも作って、スライム狩りをするようになった。ジョンさんは複数のチームを順番に見て回っている。
こうして子供たちの作った乾燥スライム粉末は、無事にうちの店に売られるようになったのでした。