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39 貧困街だよ


 日曜日、暖かい天気だった今日はお散歩をしている。

 もう何回もお散歩をしている私はそれなりに王都の地理にも詳しくなってきた。


 まず住んでいる商業区、住宅区、農業区、貴族街、王宮、そして今向かっている貧困街があった。

 正直、あまり貧困街には行きたくない。でも自分たちが住んでいる街の実態をこの目でちゃんと見て確認したい。


 リュックサックには作れるだけ作った練り薬草とポーション、蜂蜜飴、それからグラノーラを持ってきている。

 このリュックは容量拡張のある錬金術で作られた魔道具なので、かなり入る。

 ただし上級品ではないから、拡張はそこそこぐらい。田舎の村ではそんな贅沢ぜいたく品は作れない。


 とにかく準備は大丈夫。


 冒険者ギルドで聞いた限りでは、王都の貧困街は、いうほど絶望的ではないようで、餓死する人は多くはないらしい。

 それでも貧乏には違いがなく、仕事もなく食うに困るような子供たちも大勢いるという話だったよ。


「さて、行きますか」

「はい」

「はいです」


 今日はお散歩とは名ばかりの貧困街での活動なのだ。偵察は済んでいた。

 心配したシャロちゃんとマリーちゃんもついてきている。


 全員一応の装備として、腰にはナイフも装備している。

 王都の貧困街はましではあるけれど、賊みたいなのがいないとは限らない。

 あとお財布はリュックの中へ。腰に下げて歩くとか、スリしてくださいと言わんばかりだよ。


 太い道沿いは、まだ普通の住宅街だ。

 そして細い道を入った裏側、この一角すべてが貧困街になっている。


 道は細い。ところどころ変なものが落ちている。


 家はどれも粗末な掘っ立て小屋で、子供たちが暇そうにぼうっとしていたりする。


「あのすみません」


 子供に声をかけてみる。

 するとぼうっとしていた子がこちらを向いて、なんだろうという顔をする。


「なあにお姉さん」

「この辺の子供たちって、どれくらいいます?」

「え? あー。えっとね二十人くらいかな」

「なるほど。ありがとう、お礼にコレあげる」


 思ったよりは少ない。これならいけるかな。

 グラノーラをひとつ渡す。

 その男の子は、匂いを嗅いだ後、食べてみる。


「んっ、美味しいっ、ありがとう」

「いえいえ」

「あのさぁ、でも、俺だけ貰っても、みんなお腹空かせてるんだ。偽善なら向こうでやってくれよ」


 そういって住宅街のほうを指さす。確かにただその場で食べ物を渡すだけなら、偽善に他ならない。


「いや、ちょっとお願いがあって来たんだ」

「お願い?」

「うん。ここの子供たちに、お仕事をお願いしたいなあと」

「なんだよ。子供に仕事なんかねえだろ」


 ちょっと擦れてるみたい。


「とりあえず、話だけでも聞いてほしいな、みんなを集めてくれる? 集めてくれたら、ひとりひとつ、まずはグラノーラを分けるわ」

「分かった。みんなにくれんなら、いいよ」


 少年はそういうと、向こうへ走っていく。

 次々と声をかけて回ってくれた。


 集まった子供たちは全部で、十三人かな。


「では集まって話を聞いてくれるみたいなので、グラノーラというお菓子をみんなに分けます」

「やった」

「はやく、よこせよ」

「ありがとう」


 素直な子からちょっとやんちゃな子まで、反応はいろいろだ。

 子供たちは十三歳未満、六歳以上ぐらい。

 それより小さい子は、基本親と一緒にいるのだろう。


 遊んで生活するのが普通だけど、貧困街ではそうも言っていられない。

 そしてそんな小さい子を雇ってくれる店なんてない。醜聞が悪いとされる。

 それは年齢的なこともあるし、貧困街の子供だからという理由でもある。


「あのね、数人ずつでグループになって、南の平原に行って、スライムと魔力の実を取ってきてほしいの」

「でも俺たち、武器もなんにも持ってないぜ」

「そーだそーだ」


「ナイフは必要な数、渡します」

「「「おーお」」」

「よ、太っ腹」


 スライムは基本的には弱い。

 ポムはちょっと年齢がいっているので大きいけど、普通のスライムはそこまで大きくない。

 スライムには核と呼ばれる部位があって、それを攻撃してスライムから取り除くと死んでしまう。

 それにはナイフでも十分に戦える。


「まずは数人ずつ訓練したいと思います」

「第一弾のグループになりたいという子たちは相談して名乗り出てください」


 こうして子供たちの南平原への大冒険が始まるのだった。


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