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38 錬金術師講習会だよ


 メホリック商業ギルドのボロランさんと悪徳業者のお話をした。


「あの、ついでなんですけど。私はジンジャーエールおじさんと呼んでいる、黒服の人がたびたび、というかほとんど毎日、入れ替わりで来るようになってしまって」

「ああ、黒服か。チンピラだな」

「そうです」

「すまん。ワシからは謝ることしかできん。たぶんバーモントの仕業だろうな」

「バーモントさん?」

「そうだ。うちのナンバーツー、副会長だ」

「ああぁ」

「そうか、ついに手を出してきたか。やはりミレーユ嬢をホーランドにしておくのは、まずいのかもしれないな」

「そうですね。でもいまさら鞍替えなんてできませんよ」

「そうだな。ギルド内の噂によると、中級ポーションを作る錬金術師の利権が、上質な中級ポーションのせいで、値段が下降気味、人気も下がっているのを、責任転嫁しているらしいな」

「あーはい」

「うーん。何か策が思いついたら連絡しよう。そちらでも考えてくれ」


 ということで黒服のジンジャーエールおじさんは、メホリック商業ギルドの仕業であることが、ほぼ確定した。


 問題は対策だ。

 うちで作っている効果の高い中級ポーションが、その原因らしい。


 うーん。そうだ。錬金術師講習会を開こう。

 中級ポーションの、適正な作り方を説明しよう。うまく作れるようになって、うちと同じ品質まで向上したら、軋轢あつれきもなくなるし、万々歳ではなかろうか。




 この話をホーランド商業ギルドのメイラさんとメホリックのボロランさんにして、合同で、錬金術師講習会が開催されることになった。

 日取りは日曜日。錬金術店は普通なら仕事はふだん休みなので、みんな来やすいだろう。

 メイラさんボロランさん立ち会いのもと、中級ポーションを作っている錬金術師がほぼ全員集まった。

 この段階にきてまだ、意地を張っている人も約二名いるらしい。


「お集まりの皆さま、ありがとうございます。ミレーユです」


「噂には聞いていたが、こんな小さい子が」

「子供店長とは言い得て妙だな」

「我々はこんな子に、してやられていたのか」


 小さい声だけど、なにやら今までの不満が聞こえる。

 まあ、大声でないところは評価しよう。


「中級ポーションには、可能な限り新鮮なルーフラ草、それから乾燥品でもいいので、できれば安定剤としてボブベリーの実が確実です」


「やはりルーフラ草の鮮度は大事なのか」

「しかし周辺の村から買い付けているから、なかなか」

「安定剤はボブベリーのほうがいいのか、覚えておこう」


 この後は実際に実演して見せる。

 手順はいつもと同じ、ルーフラ草を細かく刻み、水と一緒に錬金釜で煮る。

 煮るというか混ぜるというか、でるというか分からないけど、とにかくそんな感じで。

 このときは低級ポーションとほとんどかわらない。

 その後に細かくしたボブベリーを入れ混ぜていく。

 錬金釜は普通の鍋とは違い、魔力で練ると素材が本当に混ざっていくのだ。

 こうしてボブベリーをうまくなじませる。


 ここからは癒やしのターンだ。魔力を注ぐ。それもかなり多い。

 低級ポーションとはだいぶ違う。


「魔力は多いかな、くらい、馴染む限界まで入れます。ここでサボるといいポーションはできません」


「そんなに魔力を注いだら数を作れんだろうに」

「数を取るか、質を取るかということなんだろう」


 そして強く発光するポーション液。


「はい完成です」


 ぱちぱちぱち。


 まばらだが同業者でも物がいいと一目で分かるのだろう、素直に称賛する人もいた。

 一部の人はねているが、まあ大人げないなという感じ。


「では実践してみましょう。材料はうちで持ちますので」


 こうして錬金術師たちも実際に作業をして、確認していく。

 なんだ、やればできるじゃん、という人も多い。

 全然うまくできないという、残念な人も数名いた。もう少し修業が必要らしい。


 とにかく講習会はうまくいった。


 その後、王都の中級ポーションの品質は順調に上がっている。

 いまではほとんど私、ミレーユが作ったものと遜色そんしょくないものができるようになった。

 これで差もなくなり、いつの間にかジンジャーエールおじさんたちも来なくなった。

 いや、ジンジャーエールおじさんは今も来ている。ただしチンピラ風の黒い服は着ないで、私服で来るようになった。個人的にはまってしまったらしい。

 これにて、この問題は解決となった。


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