中級ポーションも売り出してやや混乱したものの、一週間ほどで落ち着いてきた。
そんなときお医者さんからある相談を受けた。
「いやあね、エールばっかり飲んで太ってしまう裕福な人も多くてね。禁酒をすすめてるんだけど何かいいものはないかなと」
「あぁそうですね……うむうむ」
「どうだい」
「そうだ。炭酸飲料なんてどうです」
「なんですかそれ」
「ビールみたいに空気が水に溶けていてそれがしゅわしゅわするんです」
「なるほど」
ということで炭酸飲料を開発することになった。
ハシユリ村では主に子供向けの飲み物として実家で錬金術を使って炭酸飲料を作っていた。
いろいろなフレーバーを試してみたんだけど、ジンジャー、
命名「ジンジャーエール」だ。
見た感じも薄い黄色でエールに似ている。エールの代わりに、どうぞ、ジンジャーエール。
炭酸生成には錬金術が必要だ。色々頑張ってみたけど、これは我々の領域だった。錬金術が不要ならアウトソーシングして、もっと安く大量に作れるけど、ちょっと無理っぽかった。
とりあえず王都の消費量くらいは自分たちで作れる。
「ジンジャーエール、ジンジャーエールはいかがですか」
うちは喫茶店を半分兼ねているようなものだった。試飲用のスペースでお金を払って毎回飲んでいく人もいる。お姉さまたちにたまに紳士もついてくるけど彼らにはジンジャーエールが人気になった。
「昼間から付添なのにエールというわけにもいくまい」
「その点、このジンジャーエールなら問題ない、素晴らしい」
「ジンジャーエールもなかなか美味いぞ」
こうしてジンジャーエールはそこそこ売れた。
冷蔵ケース、錬金術で出した氷で冷やすものは、ちょっとだけ珍しい。そこそこの
まぁ氷専門の錬金術師、魔術師さんたちが氷屋をやっているから、氷は夏でも買うことができる。ただしあまり安くはない。
ジンジャーエールはこの冷蔵ケースで冷やして飲むと最高なのだ。
うちはこの氷も自家製なので、費用は私の魔力だけで済んでいる。実質タダだ。
「いやあ冷えたジンジャーエール最高だよ」
まぁ好評ならなによりだ。作った甲斐があるね。
ただ、最近同業者や飲み屋からの視線が痛い。
私はジンジャーエールの作り方をホーランド、メホリック両商業ギルドを通じて公開した。
別に独占したいとも思っていないし、最近ポーションのほうが独占までいかないけど、他の店より効果が高いことが、知っている人は知っているので、他の店の売り上げが下がってきていると聞いている。
いいポーションを作れない錬金術師さんには是非に、ジンジャーエールの生産に乗り出して、一緒に盛り上げていただきたい所存ですよ。
ジンジャーエールの製造は錬金術師でないと炭酸を込めることができない。でも別にポーションのように癒やしの魔力を込める必要はないので、魔力が少ない劣化ポーションしか作れないような錬金術師さんでも大丈夫。
こうして王都の低級錬金術師たちによるジンジャーエールフィーバーが始まった。
同時に冷蔵ケースと氷販売も増えていてうれしい悲鳴を上げているそうだ。
相変わらず本物のエールを飲んでいる人も多いけど、富裕層は最近、各錬金術師のジンジャーエールの飲み比べとかが流行っている。
昼間からエールは不味いときに大変重宝されるようになった。
ちょっとボロランさんのところへ行ったとき。
「最近、紅茶の売り上げに、陰りが見えてきたよ」
「そ、そうですか」
「ミレーユ嬢が開発したジンジャーエールだったかね」
「あ、はいっ」
「紳士には紅茶よりもジンジャーエールだ、という人が最近多いんだ」
「なるほど」
「まぁジンジャーエールも我々が製造しているから、むしろご婦人方は紅茶の会、紳士はジンジャーエールと、両方を足した売り上げは右肩あがりではある」
「じゃあいいじゃないですか」
「まあね。でも遠くから運んでくる紅茶が、その辺で取れた生姜飲料に負けていると思うと、思うところはある」
「あはは……」
まあボロランさんの気持ちも分からなくはない。
商人が大陸の向こう側から一生懸命運んできて、やっとの思いで商売している飲み物が、そのへんの生姜に負けそうとか、そりゃあ商人としては面白くないだろう。
「いや、ジンジャーエールはすごい。身近なものでも加工することで、大きな利益を生む存在になり得ると、身をもって示してくれたんだ」
「あーなるほど」
「そうだろう。また何かあったら教えてほしい。期待している。ホーランドだけでなく我らメホリックにも公開してくれたことは、感謝しているよ」
「ありがとうございます」
「礼を言うのは我々だ。ありがとう」
こうしてジンジャーエールという飲み物が王都名物のひとつになりましたとさ。