今日も『ミレーユ錬金術調薬店』の朝が始まる。
シャロちゃんは今日も先に起きて、朝食を作ってくれる。
シャロちゃんはメホリック在籍なので、紳士のおじいちゃんにより、制服としてミニスカメイド服を支給されている。
買い置きのライ麦パン。ベーコンと目玉焼き。コンソメ風スープ。サラダ。
二人で美味しいご飯をいただく。
「今日も、おいしいね。ありがとうシャロちゃん」
「あっ、はい。ありがとうございます。先生」
マリーちゃんも出勤してくる。
マリーちゃんは膝丈の普通のメイド服だ。それでも十分可愛い。
午前中はまずはその日の分の調薬作業だ。
「では、本日もお仕事、がんばりまっしょい」
「「はーい」」
「きゅ、きゅぅ」
効果が低いといっても、一番需要が多いのは低級ポーションなので、改良型低級ポーションを量産する。シャロちゃんが。
こちらは黄緑色系統の色をしている。
モリス草とミルルの実だ。
私はその間に、モリス草と子供たちから仕入れているスライム粉末で、練り薬草を作る。
他の錬金術店では魔力の濃度が薄く、効果が低いため、あまり売っていない。
「ぐ~るぐるぐる」
中級ポーションを作る。
主に自前の畑の薬草園からルーフラ草とボブベリーを使う。
中級になると青っぽい。
それからポム隊員には、中上級ポーションであるポムポーションを毎日六本作ってもらう。
これが涙なのか体液なのか、それも、アレなのか。謎は深まるばかりだ。
特級ポーションにより、必要性は下がったけど、ないよりはあったほうがうれしいので、ポムには頑張ってもらわなきゃ。
特級ポーションも少数だけど、生産してしまう。
「ぐーるぐるぐる。ぐーるぐるぐる」
混ぜるというのは錬金術では重要な工程なので、簡単そうに見えてもおろそかにしてはいけない。
以前買い占められていた収納石だけど、たまにぽつぽつとホーランド経由で入手できる。
今朝は一回分の収納石をマリーちゃんが持ってきてくれたので、それを使う。
材料のバッグは奥に山になっているので、問題ない。
錬金釜に収納石と水を溶かして入れる。そこにバッグを浸す。
そして魔力を込める。かなりの魔力が必要だ。
こうして魔力が減るまで何個も作っていく。魔力が少ない他の業者の人にはできない作業だ。
私が色々やっている間に、足りないジンジャーエールとか、桃の匂い付き石鹸、シャンプーなども作ってもらう。
こういう作業の一部はマリーちゃんもできる。
お昼をいただいて、私は戦闘服、メイド服に着替える。
このメイド服はマリーちゃんと同じタイプだ。
「おはようございます。それでは『ミレーユ錬金術調薬店』開店です」
今でこそ、オープンの時間に並んでいる人はほとんどいない。
最初は関係者の人が来てくれたっけ。
表札をひっくり返して「オープン」にする。
この辺のお店では、一般住宅や閉店中と区別するため、これが決まりだ。
冒険者の若者が数人飛び込んできた。
「よっしゃああ。今日は当たり。収納のリュックあるじゃん」
ガッツポーズで感激していた。
「ひ、ひとつ、ください。できれば二つ欲しいけど、お金が」
「ありがとうございます」
収納のリュックは金貨一枚。
今でも他店より圧倒的に安い。
稀に私の作った収納のリュックの中古が金貨二枚とかで、転売されているらしい。
まあ、そこまでは規制しない。自由にやってちょ。
しばらくするとポム愛好家が集まってくる。
「ポムちゃぁん」
「ポムちゃん、飴たべるよねぇ」
お姉さんたちに囲まれて楽しそうなポム隊員。
鼻の下伸ばしちゃって。どこに鼻があるか分かんないけど。
「ジンジャーエールください」
「こっちもジンジャーエールください」
元黒服で今はラフな格好のジンジャーエールおじさんたちもやってくる。
もはや常連と化している。
「コーヒーくださいな、ミルクで」
「紅茶ください」
コーヒー党、紅茶党の人ももちろんいる。
別に喫茶店ではないけど、そういう機能もある。
「にゃあ」
白い仔猫のマリーちゃんが遊びに来た。
飼い主のプロッテおばさんもいる。
このおばさん、実はメホリックの諜報員で情報収集担当らしい。
「本当だ、この銀の鏡、信じられないくらい平で綺麗、ください」
うちの銀の鏡は小さい代わりに、平面率が業界最上位だ。
小さい分値段も手ごろで、日常で使いやすい。
なんとか昼間の営業が無事終わった。
夕ご飯を食べて、むふふ、シャロちゃんとお風呂に入る。
裸の付き合いだって大事だよ。
そうして、お布団に入って、今日もお疲れさまでした。
「シャロちゃん、おやすみなさい」
「ミレーユさん、おやすみなさい」
――次の日も、またいい一日を過ごせますように。