九月に入って、ちょっとずつ涼しくなってきた。
先月も滞りなく、各所に支払いを済ませて、あとベッドセットの借金も払ってもう大丈夫になりました。
そんなある日。
カンカンカンカン。
鐘が鳴る音が、王都内に響き渡った。
「え、なに?」
「ミレーユさん、火事みたいです。この音は間違いないです」
マリーちゃんが跳んできた。
「ささ、見に行きましょう。近くだったら荷物持って逃げないと、死んじゃいますよ」
「あ、そうだね」
確かにお隣とかその隣という可能性もないわけではない。
王都の建物は、ベースは石造りなんだけど、屋根とか柱とか
だからけっこう燃え移る可能性がある。
こういうとき、密集して建っている王都みたいな大都市は危険だ。
「あ、ちょっとまって、あるポーション全部持ってく」
「あ、はい、手伝います」
「じゃあ私、一応、練り薬草とか集めてきます」
私とシャロちゃんでポーションを集めて、その他の関連製品をマリーちゃんにお願いして集める。
「よし、だいたいオーケー」
「ではいきましょう」
「行きます」
三人で収納のリュックを背負って、空を見上げる。
煙はどっちだ。あっちだ。住宅街の方向、やや貧困街が近いと思う。
万が一ということもある。
貧困街は場合によっては、放火されることもある。怖い人はいる。
三人で煙を目指して走った。
「あ、二人共は速いよぉ」
シャロちゃんがすでにへばっていたので、ちょっと足を遅らせる。
三人で行った方がいい。
煙はどんどん近くなっている。
角を曲がったらなるほど、まだ消火中だった。
珍しい王立騎士団の魔術師部隊が、魔法の水で火を消していた。
揃いの紫のマントがその威厳を表している。紋章は
いちいち水を汲み上げて、バケツで消していては間に合わない。
町に火が回ったら、魔術師部隊の人数ではとても消せなくて、王都全体が燃えてしまうかもしれない。
だから魔術師部隊は、すぐにやってくる。
初期消火は重要だった。
空とか飛んで来たらすごいんだけど、残念だけど魔術師部隊で空を飛べる人はいない。
いやあ、世の中には空を飛んだりする人もいる。
自分で飛んでるわけではないけど、ワイバーン部隊も数は少ないものの王都にはいて、昼間はだいたい交代で誰か一人は空を飛んでいる。
だから王都の空には一羽のワイバーンが必ず見える。
さすがに夜は飛んでないけど。
「お疲れ様です。錬金術師です。ポーションをどうぞ」
「ああ、助かります」
魔術師部隊の人にポーションがあるのを伝える。
基本的に攻撃魔法と回復魔法は系統が違っていて、両方できる人は少ない。
住民の人で火傷をした人などが、横たわっているので、具合を見て、ポーションを使っていく。
中級ポーションと低級ポーションを患者の容体を見ながら、使い分けていく。
そして隠し財産である、中上級ポーションも三本だけある。いざという時は使おう。
午前中だけどポーションの準備は終わっていたし、昨日までの残りのポーションもある。
「助かります」
「ありがとうございます」
ポーションで一通り生きている人を回復させた。
その後は、一応元気そうな魔術師部隊にも、練り薬草を配っていく。
「お、練り薬草か。珍しいな、ありがたい」
「いえいえ」
「どこの錬金術師だい? 見ない顔だ」
「え、あはい、私、ミレーユ錬金術調薬店のミレーユです」
「あっ、あの、例の」
「例の?」
「いえ、今年に入ってから噂はかねがね」
「は、はあ」
そう言われてしまうと、ちょっと照れる。
いい噂ならいいけど、どうだろうね。変なこと言われていたら、恥ずかしい。
話しかけられたのは、背がとても高い魔術師部隊の隊長らしい。
他の人が敬意を払っているのが分かる。
「なるほど、確かに。うんうん、えらいえらいねぇ」
頭をなでなでされた。
むむ。また子供扱いじゃん。もう。レディーだって言ってるのに。
「もうっ、子供じゃないですからね」
「ああ、こりゃあ失礼しました」
「いえ、いいんです」
きりっとした顔をしていた。
さすがに火事現場で、にこにこするわけではないみたい。そういうところは場をわきまえている。えらい。
緊急性の高い人は、秘蔵のポーションで助かっていた。あってよかった、ポーション様様。