収納のリュックサックを売りに出した。
結論から述べるなら、初日はものすごい売れた。
それもバッグ目当てでなくて、たまたま寄っただけの冒険者さんたちに。
「おい、ちょっとこっち見てみ」
「リュックサックだな。えっと普通のリュックならめっちゃ高いな」
「バカ言うなよ」
「分かってる。ちょっと信じられなかっただけだから。これ収納のリュックだろ」
「だよな」
「何倍?」
「八倍だな」
「え……それでこの値段なの?」
「ああ」
「まじでか……」
冒険者が来て、コントみたいな会話をしていた。
あー、どうも量産しすぎたせいで、値段がめっちゃ安くできたんだよね。
あと他の冒険者に聞いたんだけど、王都で手に入る収納の魔道具は三倍圧縮が普通で、高くても五倍ぐらい。
これは八倍ぐらいだね。
お値段は三倍圧縮のお店の三分の一くらいらしいよ。
「えっといくらだけ」
「お値段丁度金貨一枚」
「高いけど、けども。めっちゃ安」
普通のお店は金貨三枚ぐらいのお値段なんだね。
収納石の一回分で、私なら何個もできるから、コストパフォーマンスが全然違うらしい。
魔力ポーションはというか回復ポーションもそうなんだけど、何個もたくさん飲むと、ポーション中毒という症状が出て、酷いと場合によっては死んでしまう。
元のリュックサックもちょっと高いというのも問題だったりするし。
すぐに携帯炉が欲しいと思っていたけど、収納のリュックも需要があるなあと子供たちを見ていて思いついたのが、よかったみたい。
いやあ、直感って当たるといいよね。
当たらないと悲惨だけど。
それから噂を聞きつけた冒険者が来るわ来るわ。
王都では、あんまり冒険者がいないといっても、西の森に行く人はそこそこの数いるらしい。
「収納のリュック、まだ売ってますか」
「収納のリュックの話聞いて来たぜ」
「なんか収納のリュックがすげえお買い得って」
続々来る。
「収納のリュック、あの、借金でいいので、売ってくれませんか……」
「いやあ、さすがに借金はだめですね。どこかで借りてくるならいいですけど」
「そうですか」
しょんぼりしていく、ちょっと貧乏そうな青年。
ごめんね、さすがに借金で売るのは無理だわ。うちも安く売っているから、儲けもそこまで大きいわけじゃないし。
これはもしかしたら、普通の値段で売れば、丸儲けなのでは。
あ、でもそんなに高かったら買えないのか、みんな。
高いと売れない。
安いと儲けがあんまりでない。
なかなかいい塩梅を探すのは難しい。
こればっかりは、今までの経験だけでは無理だった。
「ちょっとミレーユさん」
あ、お店に直接メイラさんが走って来る。超珍しい。
今日も美しいですねお姉さん。
「あ、はい。ミレーユです。ご機嫌麗しゅう」
「はいはい。挨拶とかいいから、この騒ぎ、なんなの、収納のリュックですってね」
「お耳が早いようで、はい。ちょっと量産してしまいまして、一掃セールなんですよ」
「一掃セールだったのか」
「あ、いえ、あの、ずっとこの値段で売る予定なんですけど」
「それはセールとは言わない」
「あ、はい」
「どうしてこうなったんだ」
「いやあ、あのう」
「悪い、奥通してくれるかい」
「はい」
お店の奥、二階に上がって話を続ける。
事のいきさつ、収納石をちょっとお買い得に買い込んだことと、自分には量産が可能なことを説明した。
「はあ、まったく」
「普通に作っただけですよ。ちょっと子供たちの分のついでに」
「ついででこれか」
「いやあ、まあ、面目ない」
「で、もっと量産できるの?」
「やろうと思えば、もうちょっといけますね。ただリュックを買ってこないといけなくて、それが面倒くさいんです」
「分かった。リュックはこっちで何とかする」
「え、あれ」
「協力しよう。なにギルドに頼ってくれ」
「あーよかった。めっちゃ怒られるのかと思っていた」
「いや怒りたくても、もう売ってしまっている。後の祭りだ」
「そうですね」
こうしてリュックの増産がギルドの加盟店で行われている。在庫も回してもらっている。
お値段も小売りで買ってくるより、なんと安い。卸値で買えた。
お得お得。
私はせっせと、集まったリュックを可能な限り、八倍圧縮の収納の魔道具にしていった。
商人たちにも飛ぶように売れていた。
ポーションみたいにナマモノではないので、あればあるだけ売れるらしい。
でも、そう簡単にも行かない。
王都での収納石の在庫が消えた。他の業者も焦って買い集めているらしく、収納石の値段も上がり気味だった。
収納石はもともと高値だったためにそこまで売れていなくて需要が無いとみなされていた。その在庫が少なかったのが問題だったらしい。
収納石がないと、収納のリュックにはできない。継続販売は無理ということになって、一度撤退ということになる。
それでも高い商品の利益は桁が違って、それなりの儲けにはなりました。