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49 アプルの木だよ


 また子供たちと日曜日に平原に狩りに来ていた。

 今日はウサギ狩りではなく、スライムと魔力の実を探す日だ。

 ウサギ狩りの日も魔力の実は探してくれている。ただスライムはお預けになる。

 魔力の実の利益もバカにできない。


「あはは、あー、あの木、アプルの木だあ」


 アプルの木は要はりんごの木なんだけど、厳密には種類が違うらしい。


 子供たちは魔力の実を探しつつも、アプルの木に集まっていく。


 この平原には草だけでなく、まばらだけどこういう木が生えている。

 ほとんどはただの木なんだけど、アプル、オレンジ、レモンなど王都で栽培しているものから種が飛んできて、いつの間にか生えたと思われる木もそれなりにあった。

 ただ広い平原内のところどころに生えていて、わざわざ一日かけてここまで取りに来る人はまずいないので、放置されていた。


 それを平原で活動している子供たちは、うれしそうに木に登って収穫していく。

 小さいから身軽で、細めの木だろうとへっちゃらだ。


 そうして収穫したアプルの実をみんなでその場でとりあえずひとつは食べる。


「アプルは美味しいね」

「アプル好き」

「おいちい」


 私もアプルの実を貰ったので、ポムと分ける。


「ポム美味しい?」

「きゅっ」

「そう、よかったね」


 ポムは甘いものとかも好きなので、木の実も好きみたい。

 子供たちは、粗末なリュックに残りのアプルの実を入れると、次のスライムを探しに戻った。


「あ、あの木、蜂の巣ができてるみたい」

「あーどれどれ」


 確かに蜂の巣ができてる。

 この種類のハチは、木の上に巣を作るんだけどミツバチで、美味しい蜂蜜が取れる。


「やったあああ」

「おりゃあああ」

「うぃええいいい」


 みんな大興奮で、蜂の巣をよろこんだ。

 そりゃあ甘い蜂蜜は大好きだよね。


 こうして巣までいって、蜂蜜を取って来る。これもすでに経験済みらしく、どこからか瓶を持ってきていた。

 抜かりはないらしい。しっかりしてる。


 瓶に溜めた蜂蜜はたっぷり入っていて、美味しそう。


 蜂の巣からこぼれた分を手に取って、直接めていた。


「おいしい」

「あっまーい」

「甘い甘い」

「おーいしー」


 なかなか元気に子供たちも狩りをするようになっている。

 最初はスライムと魔力の実だけだったのに、たくましい。




 私はちょっと考えた。

 荷物が、うん、ぼろいリュックサックに入れて運んでいるけど、もしもっと薬草とか、それこそアプルの実みたいな収穫物がたくさんあったら、入りきらないと思う。

 それに重いんだよね。全部入れると。


 私も体が小さいほうだから、普通のリュックをいっぱいにするととっても重いのを知っている。

 自分のリュックは収納の魔道具なのだ。


 この際だから、子供たちの分だけと言わず、ラインナップに収納のリュックサックを増やそう。

 そう決意して、出費が掛かったけど、普通のリュックを買い集めた。


 それからこれが重要なんだけど、通称、収納石という石がある。これがそこそこ高いんだけど、財源を圧迫しない程度に買い込んだ。もちろん量を買って値引きしてもらったから、ちょっとお得だった。


「しっかり見ててね、シャロちゃん」

「はい、こんなに珍しいのは好きです」

「でしょう。まあ王都でもあんまりなぜか見ないモノね」

「いやあ、なんか込める魔力量が尋常じゃないんで、作るのが大変というふうに聞いてますが」

「あ、確かにそうだね」


 うん。空間を圧縮するために、最初に使う魔力を込めるのが確かに大変なのだ。

 魔道具になってしまえば、特にコストとか全然ないんだけどね。


「錬金釜に収納石を砕いたものを入れます」

「はいっ」

「次はお水です。ぐるぐる混ぜます」

「はいはいっ」

「ぐーるぐる、ぐーるぐる」

「う、うん」


 私はぐるぐるの歌を歌いながら混ぜる。ちょっと幼稚かなとは思うんだけど、これは私式の儀式みたいなものなので、この歌を入れないと何か集中できない呪いに掛かっている。

 いやあ、見せるのはちょっと恥ずかしいんだよ。


「できた収納石の液体に、リュックを漬け込みます」

「はい」


 ちょっと錬金釜が携帯用なので小さめだけど、なんとか押し込む。


「魔力を込めます。えっと空間圧縮です」

「え、あ、はい。ぶっちゃけ空間圧縮とか難しい、いや最難関ですね」

「まあそうだけど、覚えちゃえばいいだけだよ」

「簡単に言ってくれる先生だなあ」

「あはは」


 空間圧縮の魔力を掛けて、押しつぶす感じで。

 それでもう圧縮できないよ、となったら。


「はい、終わり」

「え、これだけ?」

「うん。あとは出して乾かすだけ」

「へえ」


 こうして収納の魔道具のリュックがひとつできた。

 携帯錬金釜だと、一度に一個しか作れないけど、まあ順番に作る以外には方法がない。

 もっと量産用の大きい錬金釜も欲しいけど、高いし、使いにくいんだよね。

 収納石の液体は使いまわしができるので、どんどん収納リュックを作っていく。

 ちなみにどうも普通の錬金術師だと、魔力が切れて量産できないらしいと最近知った。

 魔力ポーションでブーストする手だってある。まぁ魔力ポーションも品薄だけど。

 収納石の液体は一日くらいで使えなくなる。


 何はともあれ、こうして子供たちに圧縮収納のリュックサックの魔道具をプレゼントできた。

 ついでに余った材料で、お店にも並べている。

 こういう魔道具的なものを売るのは実は初めてなので、ちょっとどうなるか楽しみだ。


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