メイラさんとの話は続いている。
「まあ、これの中身がスライム君の『何』であるかは気にしないことにしよう」
「そうです、そうですよ」
「それで、どれくらい生産できる。材料などはいるのかい?」
「日産三本ぐらいみたいです。材料はポムがルーフラ草を食べてるのがそうだと思います」
「なるほど、ルーフラ草か」
「それは、食べる量を増やせば、ポーションも増えるのかい?」
「さあ、検証はまだなにもしてなくて。効果の実証もまだですね」
「ふむ」
メイラさんは美しい顔を斜め上に向けて、目をつぶって考えている。
「薬は指定機関というかババランの病院のみで扱うようにしよう」
「え、それって独占ですか?」
「そうだ。その代わりババランは利益を得ない」
「それって、タダってことですか?」
「いや違う。ポーション代はミレーユさんの取り分で全部にしよう」
「あ、なんとなく分かってきました」
「取り合いになるのは目に見えている。そして中級ポーションで無理な患者数はそんなにいない」
「はい」
中級ポーションで無理なら、現状はほとんど諦めるしかない。
現在は教会にも最高位ヒーラーさんもいらっしゃらない。
しかしポムポーションで生存できる可能性はある。
問題は値段だ。上級ポーションが貴族専用なように、とんでもないことになるのは目に見えている。
そしてポーションには使用期限があり、期限内に高いお金を払えない人は死ぬ。
それではあんまりなので、利益度外視で公共の福祉として、安値で回復させてしまおうという話だ。
高いポーションが誰も買えなくて、期限切れで捨てられるとか、もったいなさすぎる。
「最初は貴族、王族からだ。その分はお金を相当分取ろう。それが一段落したら一気に値下げして、庶民なら買えるようにする。これでどうだ。中級ポーション並みとはいえないけれど、二倍よりは安くすると約束する」
「は、はい、それでいいです」
「すまん。利益をむさぼれるのに、そうはしない」
「いえ、いいんです。あ、でも携帯炉でいいから、炉が欲しいんですよね。あと制服」
「あはは。それはいずれ」
「そうですね。まあ貴族相手にポーション売ればそれくらいになるかなぁ」
「なると思う。大丈夫だ」
「やった」
家に戻ってきてまずはポムにお願いだ。
「ポム、あのさあ、お願いなんだけど聞いてくれる?」
「きゅきゅきゅっ」
「庭のルーフラ草、黙って食べてるよね?」
「きゅっ」
「ルーフラ草を好きなだけとまではいえないけど、もっと食べてもいいから、ポーション六本ぐらいにならない?」
「きゅっ」
なんか答えたポムはぽんぽん跳びまわってうれしそうにしているから大丈夫だろう。
ルーフラ草自体は、畑にもかなり植えてあるので、中庭のものはポムの餌用に主にしよう。
こうして翌日、うれしそうにルーフラ草を食べたポム隊員は、ポムポーションを六本、約束した通り作ってくれた。
「ポムはえらいねえ」
「きゅっ」
自慢気な顔のポム。
まあ、その顔ぶんの働きはしているので、突っ込むわけにもいかない。
なかなか可愛い。
ババラン病院には、新ポーションが入荷するようになった。
そしてホーランド商業ギルドの名前で、新、中上級ポーションを王都で告知した。
これがポムポーションだということは、ほとんど知られていない。
一応メホリックの老紳士、ボロランさんには教えてある。
「ルーフラ草を食べさせていたら、ポムがすごいポーション作りまして」
「なんとまあ、いやはや」
「それでホーランド商業ギルド経由で、隠蔽してもらって、ババラン病院で治療が受けられるようになっています。それが中上級ポーションです」
「ふむ」
あまり上手じゃない説明を必死にして、納得はしてもらった。
最初は値段が貴族価格なので高かった。
貴族でも材料が手に入らない限り、上級ポーションを手にできないため、中級ポーションでは治らないタイプの病気や酷い怪我の人もいる。
材料待ちの順番待ちみたいになっていたんだけど、その一部はこの中上級ポーションで、なんとか治せる人も多かった。
先に治療できる優先権のぶん高いという説明はしてあるので、あとで安くなるのは貴族も承知していた。
そうでないと後で怒られても困る。
納得できない人は、安くなるまで待つんだろう。
そしていよいよ中上級ポーションが安くなった。
毎日六本だったんだけど、今はポムが頑張って八本作ってくれている。そのぶん薬草をむしゃむしゃするんだけど、必要経費だ。
そのぶんのポーション代そのものは貰っている。
錬金術師たちの間では謎の、中上級ポーションはこうして広がっていくのだった。