ジンジャーエールおじさんたちは相変わらずやってくるけど、他はおおむね平和な営業を続けていたある日。
「こんにちは~」
「はい、こんにちは」
青髪の好青年って感じの笑顔が爽やかな人がやってきた。
「ジンジャーエール一杯ください」
はいはい。おじさんでも黒服でもない人でも、こうやってたまにジンジャーエールを飲んでいく人がいる。
「ぷはぁ、ああ美味しいです。こう暑いと冷たい飲み物がいいですね」
「はいっ」
そして本題を切りだしてきた。
「実はワタクシ、薬草の販売をおこなっていまして」
「薬草ですか」
「はい。モリス草専門業者なんです」
「なるほど」
つまりモリス草の販売のセールスらしい。
「今、モリス草の仕入れはどうしてますか?」
「今はホーランド商業ギルド経由で仕入れてますね」
「うちは農家と直接の独占契約をしてまして、専門店なので大量仕入れ大量販売をすることで、低価格を実現しています。安くなりますよ」
見積金額を聞いて、びっくりする。確かに半額近い仕入れ値だった。
「ほんとにこれで?」
「はい。うちはホーランドじゃなくてメホリックなんですけど、商業ギルドを通さないぶんの直接契約で安いんです」
「なるほどで」
「どうでしょう。明日からでもできますが」
「じゃあ、お願いしようかな」
「大量販売が条件になっていまして、それで安くなるんです。こればっかりは申し訳ないのですが、前金制となっていましてですね」
「あぁ、先にお金がかかると、まあしょうがないかな」
「そうですよね。トータルではずっとお得です」
好青年だし主力と言ってもいい低級ポーションの材料の薬草が半額で手に入るなら、利益も大きくなる。
契約を交わして、前金で全額を支払った。
翌日朝、すぐ。
「おはようございます」
「ああ、おはようございます」
さっそく担当の人が薬草を持ってきてくれた。
「確かにモリス草ですね。うん」
「ではこれで」
係の人は逃げるように去っていく。
モリス草をチェックしてみると、なんかちょっと萎れている。しなしな、よれよれだ。
それに全体的に小さい。あとたくさん虫食いがある。
品質が悪いという気がする。初日からこれでは、いくら安くても製品の品質が下がってしまいそうだ。
しかし買ってしまったので、使うほかない。とりあえず調薬をした。
「うーん。やっぱりそれなりに品質下がってますね」
「そうみたいですね」
シャロちゃんと二人で残念がるが、いたしかたない。
この日はこの薬草しかないのだった。
次の日の朝。また薬草が納品された。
しかし納入に来た業者の人を呼び止める。
「すみません、これなんですけど」
「はい」
「だいぶ萎びていますよね。モリス草。これだと成分もよくなくて、品質が下がってしまうのですけど。なんとかならないんですか」
「いつも私が運んでいるのは全部こんな感じですね」
「そうですか。契約、ちょっと見直そうかと思って」
「そうですね、そういう方も多いですね」
契約は二週間分の薬草代を払い済みだ。
今は二日目だけど、もういいかなって思う。
全部の薬草がこんな感じでは、さすがにまずい。
「すみませんが前金は払い戻しできません。というか私たち配達人にはその権限もないです」
「そうなんですか」
「そうなんです」
「分かりました。契約は打ち切りです。すみませんが」
「分かりました。短かったですがご利用ありがとうございました」
半額だったとはいえ、普通なら一週間分の薬草代に匹敵する。
ちょっとあんまりだな、と思ったのでメホリックのボロランさんに会いに行った。
「――という感じで薬草の品質がすごく悪かったんです。半額だったけど前金制で」
「あぁ、なるほど」
「ひどいですよね」
「それうちのギルド員じゃないですよ」
「あれメホリックって名乗っていたんですけど」
「勝手に名乗ってるだけですね。悪質業者なんです」
「な、な、なんだって!!!」
「はい。悪質業者です」
「つまり、
「そういうことですね」
「悔しい。はああ」
半額で安くなるなんていい話なかったんだ。
そう、私たちは好青年だと思っていたのに悪質業者に騙されていたのだ。
くそお。ぐやじい。
もうイケメンなんて絶対に信用しない。