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37 悪徳業者に騙(だま)されるだよ


 ジンジャーエールおじさんたちは相変わらずやってくるけど、他はおおむね平和な営業を続けていたある日。


「こんにちは~」

「はい、こんにちは」


 青髪の好青年って感じの笑顔が爽やかな人がやってきた。


「ジンジャーエール一杯ください」


 はいはい。おじさんでも黒服でもない人でも、こうやってたまにジンジャーエールを飲んでいく人がいる。


「ぷはぁ、ああ美味しいです。こう暑いと冷たい飲み物がいいですね」

「はいっ」


 そして本題を切りだしてきた。


「実はワタクシ、薬草の販売をおこなっていまして」

「薬草ですか」

「はい。モリス草専門業者なんです」

「なるほど」


 つまりモリス草の販売のセールスらしい。


「今、モリス草の仕入れはどうしてますか?」

「今はホーランド商業ギルド経由で仕入れてますね」

「うちは農家と直接の独占契約をしてまして、専門店なので大量仕入れ大量販売をすることで、低価格を実現しています。安くなりますよ」


 見積金額を聞いて、びっくりする。確かに半額近い仕入れ値だった。


「ほんとにこれで?」

「はい。うちはホーランドじゃなくてメホリックなんですけど、商業ギルドを通さないぶんの直接契約で安いんです」

「なるほどで」

「どうでしょう。明日からでもできますが」

「じゃあ、お願いしようかな」

「大量販売が条件になっていまして、それで安くなるんです。こればっかりは申し訳ないのですが、前金制となっていましてですね」

「あぁ、先にお金がかかると、まあしょうがないかな」

「そうですよね。トータルではずっとお得です」


 好青年だし主力と言ってもいい低級ポーションの材料の薬草が半額で手に入るなら、利益も大きくなる。

 契約を交わして、前金で全額を支払った。


 翌日朝、すぐ。


「おはようございます」

「ああ、おはようございます」


 さっそく担当の人が薬草を持ってきてくれた。


「確かにモリス草ですね。うん」

「ではこれで」


 係の人は逃げるように去っていく。

 モリス草をチェックしてみると、なんかちょっと萎れている。しなしな、よれよれだ。

 それに全体的に小さい。あとたくさん虫食いがある。

 品質が悪いという気がする。初日からこれでは、いくら安くても製品の品質が下がってしまいそうだ。


 しかし買ってしまったので、使うほかない。とりあえず調薬をした。


「うーん。やっぱりそれなりに品質下がってますね」

「そうみたいですね」


 シャロちゃんと二人で残念がるが、いたしかたない。

 この日はこの薬草しかないのだった。


 次の日の朝。また薬草が納品された。

 しかし納入に来た業者の人を呼び止める。


「すみません、これなんですけど」

「はい」

「だいぶ萎びていますよね。モリス草。これだと成分もよくなくて、品質が下がってしまうのですけど。なんとかならないんですか」

「いつも私が運んでいるのは全部こんな感じですね」

「そうですか。契約、ちょっと見直そうかと思って」

「そうですね、そういう方も多いですね」


 契約は二週間分の薬草代を払い済みだ。

 今は二日目だけど、もういいかなって思う。


 全部の薬草がこんな感じでは、さすがにまずい。


「すみませんが前金は払い戻しできません。というか私たち配達人にはその権限もないです」

「そうなんですか」

「そうなんです」

「分かりました。契約は打ち切りです。すみませんが」

「分かりました。短かったですがご利用ありがとうございました」


 半額だったとはいえ、普通なら一週間分の薬草代に匹敵する。


 ちょっとあんまりだな、と思ったのでメホリックのボロランさんに会いに行った。


「――という感じで薬草の品質がすごく悪かったんです。半額だったけど前金制で」

「あぁ、なるほど」

「ひどいですよね」

「それうちのギルド員じゃないですよ」

「あれメホリックって名乗っていたんですけど」

「勝手に名乗ってるだけですね。悪質業者なんです」

「な、な、なんだって!!!」

「はい。悪質業者です」

「つまり、だまされていたと」

「そういうことですね」

「悔しい。はああ」


 半額で安くなるなんていい話なかったんだ。

 そう、私たちは好青年だと思っていたのに悪質業者に騙されていたのだ。

 くそお。ぐやじい。

 もうイケメンなんて絶対に信用しない。


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