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36 チンピラ現るだよ


 中級ポーションも売れているし、ジンジャーエール騒動も一段落したと思っていた。


「おらおら、ジンジャーエール一杯ください」

「俺にもジンジャーエール。一杯ください」


 なんか最近、ジンジャーエールを飲みに来る人の中に、ありていに言うと、ガラの悪い人が、長時間お店に居座るようになってしまった。


 試飲ではなくちゃんと料金も払っていくし、買うときは普通だけど、明らかに横暴な感じだし、周りの人たちは少し警戒している。

 それで、ちょっと客足も減りつつあるような気がする。まだ集計していないから売り上げへの影響ははっきりとはしていない。


 飲んだ後もお店の中をずんずん見て回ったり、外でずっと立って煙草を吸ったりしているのだ。

 ちなみに店内は禁煙だけど、店の外は公共の場所なので、自由だった。

 勝手に規制するわけにもいかないし、やめてほしいというのも、十三歳の女の子だけで経営している店としては、ただただ怖い。


 とりあえずコードネーム「ジンジャーエールおじさん」と呼ぶことにした。

 名前を付けてから観察していると、一人二人ではなく、意外と人数がいることが分かった。

 一度にくるのは三人前後。そして全部で六人ぐらいが入れ替わり、立ち替わりメンバーチェンジしてやってくる。


 格好は真っ黒な服でこの服装をする人は、メイラさん曰く、裏の仕事の人が多いと王都では勝手に思われている。

 実際のところは、そういう裏の仕事だと思われたい人がする格好というのが正しい。

 ひそひそと実際に裏稼業をするときは、こんな目立つ格好なんてしないわけだ。

 だから似非、裏稼業の人だということだった。


 じゃあいったい、どこの人なんだろう。

 絶対に嫌がらせだよね。悔しい。


「護衛はお任せあれ」

「お姉ちゃんたちに任せれば大丈夫だよ。ミレーユちゃん」

「はい、ありがとうございます」


 メイラさんには、女性の剣士さんを毎日二名、派遣してきてもらうことになった。

 うちの店は女性だけで回しているので、一応女性にしてもらった。男の人のほうがいいのかもしれないけど、どちらのほうが本当はいいか、よく分からなかった。

 合計四名で二名ずつ日替わりになっている。

 お世話になっているんだけど、彼女たちの給料を出すのは私なので、実際には自腹ということだ。


「なんだか、損だなぁ」


 しかし万が一ということもあるので、背に腹は代えられない。


 戦闘力という意味では、私だって一人で魔物が住む森を採取に行けるくらいだから、それなりに、かなり自信もある。

 えー見えなーいって言われそうだけど、戦闘力はあるんだからね。ぷんぷん。


 今のところ膠着こうちゃく状態というか、相変わらず毎日美味しそうにジンジャーエールを飲んでいく。

 飲むことは飲むんだよね。美味しそうに。本当になんなんだろう。

 何もしないで嫌がらせだけすることもできるのに、よく分からない。


「おうおう、ジンジャーエールお代わり一杯」

「こっちにも、ジンジャーエールお代わり一杯」


 ついにはお代わりとかも、けっこう頻繁にする。

 ジンジャーエールおじさんたちは、今日も来て談笑して帰っていった。

 隣ではお姉さんたちは、不安そうにしつつも、紅茶を飲んで、ポムを愛でている。

 お姉さんたちは、おじさんたちをなるべく見ないで無視するつもりらしい。

 そのたくましさはちょっと見習いたい。


「そういえばクッキー以外のおつまみも欲しいなぁ」

「ああそうだな。おつまみも欲しい、なんか種類増やしてくれよ店長」

「あ、はう。検討します……」


 確かにおつまみは種類がクッキーくらいしか置いていない。

 うちは本格的な喫茶店ではなく、一応、試飲場所とおまけということなので、どうしようかな。

 ジンジャーエールおじさんたちの要望だけど、一理ある。


 こうして今日も黒服のチンピラ風のジンジャーエールおじさんたちとの戦いはしばらく続くのであった。


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