聖ラファリエル神殿は白亜の巨塔という感じ。
石というかコンクリートでできていて、丈夫そうだった。
観光地と化しているといっても、来るのはみんな信者さんだから、すごく静かだ。
「お邪魔します」
小さい声で言って、中に入る。
礼拝堂かな。中は天井が高い建物になっていて、上のほうには彫刻とかが飾ってある。
一番奥の突き当りには、神父さんの壇があって、その向こうに聖印と一枚の絵が飾られている。
一番奥の右側の部屋に入る。
案内に従って来たこのお部屋は、お買い物をする場所らしい。
「銀のペンダント、銀貨十枚」
まあ銀だから相応の銀貨は必要だろうな、という代物だった。
「じゃあ、このペンダント三つください」
「あ、買ってくれるんですね。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
マリーちゃんとシャロちゃんにも一つずつ渡すことにした。
これは必要経費だ。
このペンダントは、お
悪霊や呪いから守ってくれるとされるものだ。
私は錬金術師だから神様とかそこまで信奉してはいないんだけど、呪いやお祓いがこの世に存在していることは、疑う余地がない。
ただ神様が本当にいるかどうかは、見たことがないから、信用ならないだけで。
ということで、こういう解呪系のアイテムは、錬金術で自作してもいいけど、思ったよりも安くて手ごろな神殿で買うといいということは、把握している。
ある意味、商売敵だけど、お互い利用し合おうね。そのほうが絶対楽しいよ。
三人でペンダントを受け取る。
神殿のお姉さんにお祈りをしてもらう。
「神に祈りを……」
このお祈りが重要なのだ。宗教儀式も侮れない。
「アンナ、メハイヤ、トラクリス、インゲム、ムハランジャ!!」
まったく意味は分からないんだけど、古代語だろうか。呪文を唱えて必死にお祈りをしてくれる巫女さまを神妙な顔で見る。
自分も目をつぶって、お祈りをする。
『呪いとかになりませんように』
商売敵そのものも怖いけど、彼らによる呪いはもっと怖い。
「はい。神様はいつでもあなたたちを見守ってくれていますよ」
「「「ありがとうございます」」」
神と巫女さんに感謝を捧げて、部屋を戻る。
大聖堂の礼拝堂でもう一度、神に感謝をする。
「神に祈りを……」
三人で神殿を後にする。
「はあ、緊張しちゃいました」
マリーちゃんが緊張から解放されてさわやかな笑顔を向けてくる。
「神さまは私たちを導いてくれるでしょうか」
まだ神妙な顔なのがシャロちゃんだった。
シャロちゃんちょっとそういうところあるよね。なんというかお嬢様だから神様とか行儀作法とか詳しくて、ちょっとうるさいの。
「二人とも、このペンダントはいつも持ち歩いて、肌身離さずお願いします」
「先生!」
「はい、シャロちゃん」
「肌身離さずってことはお風呂とかでもですか」
「もちろんですよ」
「きゃっきゃ。そうなんだ。なんだか三人の絆みたいで、恥ずかしいですね」
「茶化さないでください、マリーちゃん」
「ごめーん」
マリーちゃんはあんまり神さま信じてなさそう。
「でも呪いは本当にあるから、気を付けようね」
「「はーい」」
神殿観光になっちゃったけど、まあいいか。
こちらには、それほど中級ポーションの影響とか来ていないみたいで安心だ。
取り付け騒ぎみたいになったら困るなと思っていたので。
いやあ、どこ見てもお店がやっていない。
ハシユリ村ではそうでもなかったんだけどね。さすが王都。宗教がしっかり根付いている。
ルーセント教では、日曜日はお休みの日に指定されていて、半ば強制的にお休みの日なのだ。
村では忙しいときとか、けっこう働いている人もいたんだけど、王都では全然見ない。
もちろん神殿に行く日でもあるので、神殿関連やあとお医者さんはやっているんだけど、他はどこのお店もまったくやっていない。
人はいないわけではないけど、働かない日なので、日光浴してのんびりしていたりする。
ご飯も外で食べられないので、ちょっと面倒だなと信仰心がちょっと弱い私なんかは正直思うんだけど、しょうがないよね。
「あーあ。日曜日にやってる美味しいお昼ご飯のお店とかないかなぁ」
「ちょっと。ミレーユさん。そんな罰当たりなこと言わないでください」
「でも、そう思わない? ね、マリーちゃん」
「は、はいっ、ちょっと思います」
「もうマリーちゃんまでぇ」
まあ私たちは本気で言ってるわけではないので、おうちに帰って大人しくご飯を食べました。
シャロちゃんのお昼ご飯は美味しかったです。
普通のお食事処はやってないけど、宿屋は年中無休だよ。大変だね。