翌日午前中すぐに、メホリック商業ギルドへ行く。
ちょっと中級ポーションの品薄感がすごいので、様子を見に来た。
「どうもどうも」
「ああ、ミレーユ嬢さま。噂は聞いています。すぐ呼び出します。どうぞ中へ」
受付のミニスカメイドさんだ。一階の待合室みたいな場所に通された後、老紳士のボロラン・ロッドギンさんがいつものように現れた。
「ミレーユ嬢、朝からありがとうございます。こちらから訪ねようかどうしようか、悩んでおったのですよ」
「そうでしたか」
「理由は、中級ポーションのことですかな」
「そうです。さすが早いですね情報が」
「まあ、ギルド員の数だけは多いですからね。例えばプロッテさんとか」
「ああ、プロッテさんですか、なるほど。なるほど」
プロッテさんというのはですね、仔猫のマリーちゃんの飼い主のことです。
熱心に通いに来るな、昨日もそういえば居たな、と思えばメホリックの手の人だったか。
なるほど、こうやって人は
「中級ポーションはうちのギルドでも扱っている。ただ、あんなに客が来るほどのものとは思われていなかった」
「高いから、買えないんですよ。欲しいけど、買えないんです。お金がないから」
「まあそういうことだな。命に別状がないなら、安静にするぐらいしかできない」
「もっと中級ポーション安くしてくださいよ」
「すまんな。それはワシにもできん」
「そんななんで」
「ナンバースリーだからだ。意味は分かるだろうか」
「つまり一番か二番の人の利権ということですね」
「はっきり言われると耳が痛いが、まぁそういうことだね」
私が革命を起こして安くするんだ、と思っていた。
でも
利権を侵すのは、なかなか難しい。今、少なくない人がうちのお店に押しかけているのは、まだ広い王都ではほんの一部分だ。これが王都全域に広がると、お店が機能不全になって潰れてしまうかもしれない。
簡単にはなかなか行かないのだった。
うちの中級ポーションも今の量よりも大幅に増やすことはできない。材料の草がそもそもない。
お医者さんのところにも顔を出した。
「中級ポーションがちょっと高いけど、増産されたんだってね」
「はい、そういうことになってます」
「うちにも新しいのが入ってきたばっかりだよ。なかなか効き目も素晴らしかったよ。正直いえばもっとあるなら欲しい」
「すみません」
「なになに。ないよりマシさ」
病院では下に広がったのではなく、上へ広がっていた。ちょっと高くしたせいだ。これは取り決めだからしょうがない。
ちなみにこの国では医療は、民間療法、錬金術の調薬、お医者さん、それから神殿で行われている。
お医者さんは外科的な手術とかもする。変な骨折とかはポーションだけの力では難しい。
神殿は神の御業、ヒーラーさんのヒール魔法という回復魔法が使われていた。また一部の人はお医者さんと同じような手術をすることもある。
この辺の垣根は曖昧で、神殿でポーションを使うこともあった。
神殿勤務の錬金術師やお医者さんもいる。
数は少ないけど、冒険者のヒーラーさんとかもいるらしい。
それで一応というか、縄張りに近いものもあった。
だから中級ポーションが大量に出回るとパワーバランスが、崩れやすい。
当然、利益が減って苦しくなる人は、苦笑いならいいけど、怒ってたらどうしよう。
翌日はありがたいことに、日曜日のお休みだった。
みんなでお店を閉めて神殿に向かった。
「すごいね」
「でしょでしょ」
「王都の神殿だから、そりゃあね」
私とマリーちゃんとシャロちゃんで、大きな神殿を見上げた。
ちなみにだけど、組織を教会と呼んで、建物を神殿と呼び分けることが多い。実際にはけっこう適当なんだけどね。
ルーセント教、マルタリー教会、聖ラファリエル神殿です。
ルーセント教は宗教の名前。ここいら知ってる限りの土地はみんなルーセント教だ。
マルタリー教会は組織の名前。ルーセント教の最大派閥でここ王都の王宮内に本拠地がある。
聖ラファリエル神殿は王都の庶民が参拝できる支部なんだよ。
支部だけどさすが王都、すごく大きい。