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28 赤い実食べられただよ


 レモンとオレンジの木の周辺には、錬金術にもちょっと使う有用な小さな赤い実をつけた木が何本も植わっていた。


「ああぁあ、赤い実がほとんどなくなってる!」


 叫んだのはマリーちゃんだ。私と一緒にお使いで赤い実、ボブベリーの実を取りに来たのに、すでに大分なくなっていたのだ。


「な、なんでぇ」


 盗難、泥棒だろうか。畑は別に柵とかで囲われていない。

 周辺には背の低い垣根はあるけど、ところどころ通路が開けられていて、基本オープンになっている。


 しばらくちょっと離れて見張ってみるも、鳥が数羽その辺を飛んでいるだけだった。


「泥棒じゃないのかな」


 泥棒だとしてもこんだけ持っていったなら、もう来ないのではないか。

 木に近づいてみたら、鳥が一斉に飛び立っていった。

 ばたばたばたばた。

 すごい、かなりの数だった。あんなに木に鳥がいるとは思っていなかった。


「ああぁ、泥棒は鳥さんだったんですね」

「そうみたいだね」


 実はあまり美味しくなく、錬金術素材としては口に入れることもあるけど、普通は食用にはしない。

 だから油断していた。

 鳥さんたちには、ご馳走ちそうだったんだね。うっかりしていた。王都周辺はあまり緑も豊富ではないから、確かに鳥が美味しい実があれば、集まってきて、食べ尽くしてしまうみたい。


「うっかりですね」

「そうだね、マリーちゃん、残りは少ないけど、私達がいただこうか」

「はいっ。頑張って取りますね」


 こうして私とマリーちゃんで、ボブベリーを収穫した。

 半分以上、いやもっと四分の三は食べられてしまった。

 この実は中級ポーションの中和剤、添加物で、これから量産して、収入の中核を担う重要物質なのだ。

 まぁ、タダで手に入らなくなっただけで、買ってくればいいんだけど、なんかとても損した気分だった。


「これ美味しいのかな、色は美味しそうだけど、はむ。うげ、マズ、ぺっぺっ」

「あはは、人間にはあんまり美味しくないね、ボブベリーは」

「そんなぁ、先に言ってくださいよ」

「言う前に食べちゃうんだもん」


 もうマリーちゃんの食いしん坊さんめ。

 まあ、見た目は真っ赤に熟しており、ツヤツヤで瑞々みずみずしい。美味しそうに見えるんだけどね。

 実際はご覧の通りで、あんまり美味しくない。


 私も小さい頃、美味しいと思って食べて、とても不味い思いをしたのを、鮮明に憶えている。世の中は非情だと、知ったのだった。あははは。


 ちなみにポムは食べるかというとですね。


「はい、ポム。ボブベリー食べる?」

「きゅっ」


 ん。ちょっとうれしそうだ。口を開けている。放り込むとうれしそうに跳ねた。

 どうやら食べるらしい。

 まあポムはポーション素材の薬草とか好きだもんね。

 薬草もあんまり美味しくない草が多いから、どういう味覚なのかはちょっと分からないけど。


 まだ中級ポーションの材料のルーフラ草が大きくなっていないので、それを待たないと。

 ボブベリーは保存のため、乾燥処理をすることにした。

 今回は天日干しにしようと思う。


 荒いネットの中に入れて、中庭の日が当たる空き地のところに広げておく。

 これでよし。これでそれほど効力を落とさずに、日持ちするようになる。


 あれからちょっとだけユグドラシルの木も大きくなった気がする。

 ユグドラシルの木は、不思議な木で、一年中葉っぱが枯れない。

 そして古くなった葉っぱからたまに落ちる。落ちた葉っぱはもう、特効薬の効果はない。

 今は高さ三十センチくらいかな。


「おおきくな~れ。王都で一番は無理だから、三番目に大きな木になるんだよ」


 そういって、お水をあげる。

 ついでにクズ魔石の粉末を少し木の根元に与えておく。

 これできっと元気になるだろう。

 ユグドラシルの木は王都でも普通に育つから、魔素が薄くても大丈夫そうだけど、たぶん魔素が濃いほうが早く大きくなる特性があると思う。

 実家のユグドラシルの木は、魔素が濃くて普通の倍の大きさだ、というおばあちゃんの言い伝えがあるからね。


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