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23 弟子選抜試験だよ


「――ということで、よろしくおねがいします」

「はい。大切にお預かりします」


 メホリック商業ギルドのナンバースリー、ボロラン・ロッドギンさんが来ていた。

 簡単に説明するなら弟子選抜試験だった。

 メホリック内でめに揉め、ついに三人までには絞られたのだけど、誰にするかは決められなかった。

 そして、その決定権が私、ミレーユに回って来たのだ。


「アンナ・ウィルソンです」

「サマンサ・ジャクソンです」

「シャーロット・マーシャルです」


 なるほど、アンナちゃんとサマンサちゃんとシャーロットちゃんね。


「では、みんな錬金の基礎はできてるんだよね」

「「「はいっ!」」」

「いい返事だね。じゃあ低級ポーション耐久試験、いってみよう」

「耐久試験!?」

「そうだよ。どれくらいポーション作り続けられるか見てみたいです」

「分かりました」

「は、はい。頑張ります」

「うひゃんっ。そ、そんな」


 反応は三者三様だった。


 アンナちゃんは普通に受け入れる姿勢。童顔、猫耳、おっぱいぼいんの十五歳だ。

 サマンサちゃんはなんとか頑張るらしい。お姉さん顔のすらっとした美人さん。十四歳。

 それから戸惑い気味のシャーロットちゃん。目立つのはピンク髪のふわふわツインテールの可愛い感じの子。十三歳。


 どうでもいいかもしれないが、三人ともボロランさんが大好きなミニスカメイド服を着ている。

 誰の入れ知恵か、言わなくても分かると思う。

 もしかして私もメイド服好きだと思われてしまっているかもしれない。


 さて誰が勝ち抜くのか。


「全員、錬金釜は持ってるかな」

「はい、あります」

「持ってきています」

「実家から持ってきました」

「よろしい」


 錬金釜をみんなで並べる。


「ではスタート」


 あ、ナイフとかもいるけど、大丈夫みたいだ。一応、本業の端くれなんだろう。道具一式は持ってきているようだ。


 みんなナイフでモリス草を刻んでいく。

 うん、まあ全員普通。アンナちゃんはちょっと雑かな、でも許容範囲だ。


 あまりにも雑だと困るけど、薬効が落ちない程度に手抜きをすることは、間違いではない。

 そうじゃないと、ずっと錬成していたら大変だもんね。


 錬金釜で一度にできる容量ぐらいを刻んだら、錬金釜へ入れてそれに水を注ぐ。

 そして混ぜながら温める。

 まずここで魔力をけっこう使う。


 それが終わったら発光する癒やしの力を注ぐ作業だ。

 これもけっこう魔力を使うんだよね。


 ポーションは意外と魔力食いだ。


 だからこそ、錬成し続けることができる量に限界がある。

 ということで、新米にはちょうどいいぐらいの試験ではなかろうか。


 我ながらいい試験だと思うよ。錬金術師らしいし。


 実はこんなことしなくても、魔力計というのをギルドに行ったら置いてあるので、測ってくることができる。


「一回目終わりました」


 早かったのは、ちょっと雑っぽいアンナちゃん。早いのは優秀な証でもある。

 後の二人はそれからちょっとだけ遅れたけど、普通の範囲だった。


「二回目終わりました」


 まだアンナちゃんが若干早いけど差はちょっと縮まっていた。


「三回目終わりました」


 三回目終了時点でトップを走るのはシャーロットちゃん。

 けっきょくアンナちゃんは集中力がもう切れちゃったみたいで、ちょっと作業に遅れが出始めた。

 うん、そうなんだ。魔力を使うには、集中力を消費してしまう。単純に魔力が高いだけではだめだったりする。


「はいどうも。じゃあ四回目行ってみよう」

「あの、どこまで続けるんでしょうか」

「えっとね、二人が脱落するまでだよ」

「ひえぇっ、は、はい。では四回目行きます」


 シャーロットちゃんは怯えつつも、四回目を始めた。アンナちゃんは再度気合いを入れなおして頑張っている。

 普通に作業してるのは、サマンサちゃん。ちょっと影が薄い。


 こうしてトップが五回目を終えるころに、サマンサちゃんがギブアップした。


「アンナはもう少し、頑張れます」

「シャーロットは、はい。まだ大丈夫です」


 両者ともにまだいけそうだ。大変だから長い戦いにならないといいけど。

 でも長い戦いになるほうが、錬金術師の腕がいいということになる。


「八回目できました」


 淡々と報告したのは、結局シャーロットちゃんだった。

 序盤から早かったけど、そのペースを保ち続けて、集中力も続いていた。


「八回目できました、もう、げふ。無理です」


 ギブアップしたのは遅れて八回目をこなしたアンナちゃんだ。

 この戦いを勝利したのはシャーロットちゃんだった。

 彼女は普通に九回目を作っている。


「九回目できました」


 そのまま完成させた。


「はい、終了です。勝者、シャーロットちゃんです」


 うん。この勝負、実は早さ勝負ではないのだ。どれだけ時間内にできるか、という勝負だったりする。

 ペースを乱されて、波があったアンナちゃんは実力を発揮できていないかもしれない。

 しかし錬金術師には、そういういざというときの冷静さとか『淡々とこなす』という力はとても重要なのだ。


「出来とかもチェックしたけど、シャーロットちゃんは安定してたんだよ」

「はい、ありがとうございます」

「そういうの全部ひっくるめて見ても、やっぱりシャーロットちゃんを弟子にしたいと思います」


 ぱちぱちぱち。


 健闘をたたえ合う。みんな仲良くできてえらいね。妬みみたいなのもありそうなのに、いい笑顔だった。


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