あぁあ。ついにこの日が来てしまった。
ホーランド商業ギルドは、私が店で着る服がないと言ったら、既製品のメイド服を貸してくれた。
開店時間になる前に、必死になって着替えた。
でもさ胸もほぼぺったんこ。ちんちくりんの私にメイド服。
鏡で一応、確認してみる。
うん、まあ、可愛いけど、確かに可愛いけど、でもこれ、超恥ずかしい。
よくこんなの平気な顔してマリーちゃんたちは着れるよね。
まあメホリックのミニスカートのメイド服よりはましだと思うことにしよう。ホーランドを選んでよかったぁ。うれしくて涙が出ちゃいそう。
萌えいずる、薬草のごとき、メイド服。
なんちってポエムは恥ずかしいね。でもメイド服のほうがもっと恥ずかしいね!
ダサダサ普段着が元凶ではあるんだけど、しょうがないんだよ。田舎にはそれしかなかったんだから。
「い、いらっしゃいませ。『ミレーユ錬金術調薬店』へようこそ!」
「いらっしゃいませ~」
陽気な声で明るい笑顔のマリーちゃん。
いっぽう、恥ずかしくて顔赤くなって、視線が定まらない私。
ニヤニヤ顔で開店を待つ、常連客達。
これではどっちが店長か分からないよ。
「いやあミレーユちゃん、メイド服似合ってるね」
「ミレーユちゃん可愛い」
「ミレーユちゃんも、メイド服いいじゃない」
次々にほめ殺しに来る常連客達。
お姉さまも、おじさまもいる。
「なんだい。メイド服なんて着てイベントかい?」
いえ、イベントじゃないです。ただ私服がダサくて泣きそうだったので、意を決して、断腸の思いで、メイド服着てるだけです。
ワンピース一枚、されど一枚。新品のものはすごく高い。特に王都では物価も需要も高いくせに生産が追いついてないらしく、びっくりするくらい新品は高かった。
そして高いからみんな擦り切れるくらい着る。中古もあるにはあるんだけど、だいぶボロで、ツギハギとかが当たってるのが普通で、さすがにツギハギで客商売なんてできない。
「はぁ、ワンピース欲しかったな」
ワンピースが高いなら布団と枕ももちろん高かったんだよ。これ以上、借金増やしたくないじゃない。
だからメイド服はもう借りるしか手がなかった。八方塞がりで、退路は絶たれていたんだ。
屈辱の思いで恥辱に耐えて、接客をした。
いつかお金がガッポリ貯まったら、もっと普通の制服を発注するんだもん。
絶対、可愛いけどオシャレな服にしてやる。
翌日。
「やあ、ミレーユ嬢」
むむ、この声、確かにあの老紳士、ボロランさんだ。
「こ、こ、こんにちは。ボロランさん」
まさかメイド服をこの人に見られるとは。
ほら、目が孫を見るような目してるじゃん。
絶対に、萌えとかいうやつだよ。ちょっといかがわしい目だよこれ。
「いやあ、目の保養になりますな。今後はずっとそのメイド服を着用になるのですかな」
「まぁ、当分は、そうですね。遺憾ながら」
「はっはっは。なんならうちのミニスカメイド服、お貸ししましょうか」
「いぃぃやだあああ」
「わっはっは、冗談ですよ、冗談」
「目が笑ってなかった。マジの目だった、です」
優しい目でじっと、じっくり上から下までを見つめてくるボロランさん。
本当にメイド服好きなんだな、この人。ううぅ。
自分の店だから、逃げられないよ。
「マリーちゃんはメイド服って恥ずかしいと思わないの?」
ニコニコスマイルが営業スマイルではなく、本物らしいマリーちゃん。その職業精神は惚れ惚れするほど素晴らしいけど、なんでだろう。
「メイド服は私達の戦闘服ですからね。このメイド服が着れるのはいいところの証ですから、大変誇らしいのです」
「そうなんだ」
「一般庶民にはとても手が出ない高級品ですもの、女の子の憧れです」
「へぇ」
王都の女の子のヒエラルキー的にはかなり上なんだよね、メイドさん。
そりゃあ金持ちの商会や貴族の家とかだもんね、職場が。
そういう意味では、あまりメイドさんをその辺で見かけることはない。基本的には家の中での仕事をする人たちだった。
だからうちの錬金術店は普段からメイドさんを見れる比較的珍しい店なのだ。
で、中にはそれ目当てでくる人が実はいる。最近知った。