お店が決まってすぐのころ。まず布団と枕をマリーちゃん経由で発注した。生活費だけは支度金として貰っていたけど、いかんせんそれだけでは足りなかった。独立に必要なお金はまとめて月末払いということになった。月末も無理なら翌月以降の分割払いも利用できる。
あとは食器類、火で使う薪なんかが最低限必要だった。
ご飯のパンは普通、買ってくるものだし、おかずは具入りスープが一般的で、簡単な調理器具は錬金術と共用なので、普段からリュックサックに入れている。
夕ご飯を僅かな野菜と
ただこの家には自分とあとポムしかいなくて寂しかった。
「ポム、いただきます」
「きゅっきゅっ」
夜も広い家に一人だ。いやポムと二人きり。
「ポム、おやすみなさい」
「きゅっ」
ポムを抱きしめて、眠る。
宿屋の狭い部屋も、寂しさを紛らわすためなら、有効かもしれないと思った。
居抜き物件なので、ベッドも二つ置いてあった。
隣のベッドは空っぽだ。
ポムは自分のベッドよりも私の上で寝たがるみたい。
ポムがいてよかった。一人だったらもっともっと寂しいと思う。
備え付けのタンスに、リュックサックから出した服を入れていく。
でも一着分はリュックサックに残して置く。どこかに行ったときに着替えが必要になるかもしれないし。
そうしてお店の準備をした。
お店は午後から毎日、日曜日以外は開けることにする。
午前中は仕込みや薬草園など、色々やることがあるので、お店は閉めておくことになった。
薬草園も種を植えてある。
建物の近くは日陰になるので、日光に弱い、木陰や日陰を好む薬草を植えた。
逆に真ん中らへんは日光がよく当たるので、日向が好きな薬草を植えてある。
特筆することといえば、肥料の堆肥に混ぜて、クズ魔石を粉々にしたものを少量だけど、入れてあった。
これは王都だと、魔素が極端に薄いことが品質の低下に
実家の薬草栽培に関する書物に書いてあったことの受け売りだ。
実家では特に魔素が濃い場所で育つ特殊な薬草用に、同様の対策をしたことがあるから、たぶんイケると思う。
ただ今回は濃い用じゃなくて、ほぼないのを普通くらいにするという違いがあるので、必ずうまくいくとは限らない。
錬金術師とは慎重なのだ。万が一、自然災害のようなことになってはいけない。中には自然に強く作用する薬なんかもあるので、いつでも慎重であることは重要だ。
マリーちゃんと二人で頑張った。
ポムはその辺でころころしていた。日向ぼっこなんかもこの子は好きだ。
オープンしてから一週間、なんとか経営できた。
飴とかも準備して、数日経過したある日。
薬草園では、ユグドラシルの木は今のところ枯れないで元気だ。
それから早い薬草の芽がもう出始めていた。
「ミレーユさん、ほら、芽、芽がああ」
「うん。薬草はたくましいのもあるから、早いね」
「はい。芽が出てますうぅううう」
マリーちゃんが楽しそうだった。こういう植物栽培とかもしたことがなかったらしい。
さっそく芽が出て感激していた。
「これはルーフラ草。中級ヒーリングポーションのベース原料だね」
「ああ、これが中級ポーションの材料なんですね」
「はい。王都では、かなり入手困難で、栽培農家も近郊農家のごくわずか、だそうです。メイラさん曰く」
「へえ、メイラ副会長は詳しいんですね」
「そりゃあね。薬草卸問屋の娘だから」
「そうらしいですね」
水やりも終わった。
二人でお昼ご飯を軽く済ます。
「ミレーユさん。ついに午後ですね」
「はい」
「覚えていると思いますが、ちゃんとご用意しましたよ」
「そうですね」
「なんか返事が棒ですね」
「はい」
「緊張してますか」
「だって、だってええ、は、恥ずかしいんだもん」
「自分で決めたことなのに」
「だって、だって」
「はいどうぞ。メイド服です」
マリーちゃんが荷物から私のためのメイド服を取り出してくれる。