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15 決断の時だよ


 午後は普通に露店を出す。

 気持ちの上ではだいぶ違ったけど、露店の営業は前と何も変わらなかった。

 実演販売をすると一時的に人は集まって売れる。

 それが終わると人がさっといなくなってしまう。


「低級ヒーリングポーション出来立てです。いかがですか~」

「きゅっきゅっ」


 たまに思い出したように呼びかけもしてみる。

 あまり積極的に、声を掛けるのは実は苦手なのだった。


「きゅっ、きゅっきゅっ。きゅっ、きゅっきゅっ」


 たまにポムも声を上げつつダンスしたりして集客に協力してくれる。

 健気で大変可愛い。

 でもそれで集まってくるのは、というと。


「スライムさんだぁ」

「スライムかわいいにゃあ」


 そうなのだ。ポム愛好家が集まってきてしまう。


「触ってもいいですか」

「きゅっ」

「やったっ。あぁ、柔らかぁ。なんだろうこの感触、すごくいいです」


 女の子たちが集まって来てポムを囲みだすと、ポムも満更ではないらしく、張り切って相手をしている。

 抱いてもらったり、触られたり、けっこうスキンシップも好きなんだなって思う。

 でも女の子にはそうだけど、比較的男の人とはそういうことはしないみたい。

 女の子が好きなんだなっていう印象だった。


 ポムは私が女の子だからついてきてくれるんだろうか。

 テイムとはいうものの、別にテイマースキルというものがあってそれで魔法誓約的に縛っているというわけではないんだ。

 ただポムが勝手に私と一緒にいるだけ、というのが正しい。


 こうやってのどかな時間を露店で過ごしていると、決断するのを忘れたくなる。

 でも、どちらかには決めないといけない。


 正直迷っている。


 最初は迷わずホーランドにしようと思っていた。でも話を聞いてみてメホリックも悪くないかなとも考える。

 やっぱりホーランドかなと思う。


 老紳士のところの女の子たちは、フリフリの短いスカートに、エプロンドレス。それから胸を強調するようなデザイン。

 どことなく漂う、いけないような雰囲気をまとったメイド服。

 ホーランドのところにもメイド服の人はいたけど、スカートは短くなかったし、そこまでフリフリでもなかった。

 それに普通のお姉さんだった。あんな若い子たちそれも、たくさんはいない。


 それからユグドラシルの木の存在。


 今は秘薬を作れる錬金術師がいないから、実質効力を持っていないけど、ユグドラシルの葉っぱがあれば、特級ヒーリングポーションを作れる。

 お値段もそれなりだし、他の材料もいるけれど、製法が伝われば、私以外ではメホリックの専売特許になってしまい、将来的に両者のパワーバランスが崩れてしまう。


 露店をしながら、難しいことを考える。

 こういうことは、本当は、苦手中の苦手なのにゃん。にゃんにゃん。あー。


 猫を散歩させている人が通った。可愛い。


 私も猫みたいに自由に歩き回って、のんびりお昼寝して生活したいなぁ。


 でも私は錬金術師。その技術を伝え継承して、町の人を癒やし、便利アイテムを町に提供する義務があるのだ。

 お昼寝はしたいけど、そうも言っていられない。これは使命なのにゃ。


 それも弟子を取って、その人たちに代わりに作ってもらえるようになれば、ずっと楽になると思う。

 最低でも数か月から数年はかかると思う。先は長い。


 そうだった。長期のことも色々考慮しないとだめだよね。



 それからまた両者を訪ねに行った。薬草園の件があったからだ。

 どちらも一定の大きさ以上の薬草園を確保してくれる、ということが確定した。

 これで薬草園問題は一応解決したけれど、あとは結論だ。




 あれから一週間。ついに決断の時だよ。


 露店に両者が現れた。


「こんにちは、メイラさん、ボロランさん」

「こんにちは、ミレーユちゃん」

「こんにちは、ミレーユ嬢」


 軽くスカートを摘まんで上品にお辞儀をするメイラさん。

 紳士帽を持ち上げて、頭を下げるボロランさん。


 私も急いであわあわして、頭を軽く下げる。


 さいわい、今はお客さんも一段落している。


「まずは結論から言いますね」

「はい」

「よいですぞ」


「私は、その。ホーランド商業ギルドにします」

「やった、さすがミレーユちゃん」

「そうですか、残念です。ミレーユ嬢」


「でも、条件というか、おまけというか。メホリック商業ギルドから、一人限定で弟子を取ろうと思います。最初はお手伝いからですけど」

「なんと」

「なるほど、興味深い」


「とりあえず最初は一人です。それからミルル草の実を加えたポーションのレシピなど、いくつかのものは、両者に公開していきます。自分たちで練習して作れるようになってください。困ったときは相談してくれていいです」

「うむ、悪くはないわ」

「正直、助かります」


「こんな感じです」


 話はいったん終わり、真面目な顔の老紳士と、笑顔あふれるお姉さんは帰っていった。


 ホーランド商業ギルドに加盟して、お店と畑をレンタルすることが決定した。

 これからもっと頑張らないと、ファイトだよ。


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