メホリック商業ギルドでボロラン・ロッドギンさんとお話して、裏庭で超ウルトラスーパーすごい木を見せてもらっている。
その名は、ユグドラシルの木。
「この木、樹齢何年だと思いますかな」
「そうですね三百年ぐらいでしょうか」
高さは約六メートルだ。そうたったの六メートル。
「ご名答。では木の名前もご存知ということですな」
「はい。この木はユグドラシルです。懐かしいです。村のうちの裏にも生えてるんです」
「え、そんなばかな。信じられない……」
「ですよね。でも事実です。事実だから木の名前もその性質も知っています」
「そうですか」
ボロランさんは木を眺めてから、目をつぶった。
私も横で黙礼をする。
この木は神の木だ。
ユグドラシルの木は非常に繊細でそして成長が遅い。
それから挿し木で増えないのだ。
決定的なのは種がなるのも
だからほとんど生えていない。自生しているという話も聞いたことがない。
世界に数本あるかどうか、とさえ言われている。
王都の王宮には、樹齢不明なほどのユグドラシルの大木があり『世界樹』と呼ばれている。
創世記から存在する、世界で一番古い生きている植物だとされているらしい。
そのユグドラシルの葉は、特級ポーションなどの材料になる。いわゆる秘薬だった。
実は打ち明けていない事実がもう一つある。
私が持っている植木鉢の一つは、家のユグドラシルの木から発芽した苗木を持ってきている。
この苗木はたまたま実家で唯一発芽したもので、私の大切な宝物だ。
できれば王都に一本、根づかせたいと思っている。
でも現物がここにもある。
「世界樹の直系、なのでしょうか?」
「そのことも知っているんだね」
「ええまあ」
ユグドラシル自体が有名ではないのだけど、世界樹がユグドラシルであるということを知る人はさらに少ない、らしい。
「そう。これは世界樹から発芽したものを当ギルドが譲り受けたものだ。それも三百年前の話だから定かではないのだけれどね」
「すごいですね。尊敬します」
このギルドが積み重ねてきた年月というものを感じる。素直にすごいと思う。
この木を売り飛ばせば、文字通り、大金の山ができる。でも誰も今までそれをしなかったのだ。金に目がくらんだ人はいないらしい。
「この木、売ったらいくらでしょうね」
「さあな。一生、遊んで暮らせますな、わははは」
笑っているけど、顔は笑っていない。でもギャグのつもりらしい。おじいちゃんは真面目すぎるのが玉に
「もし、どうしても、どうしても、治せない病気の依頼があったら」
「ああ、取りに来ていいよ。葉っぱ数枚だろう」
「ありがとうございます」
「なに。秘薬の原料になるのは知っているが、秘薬というくらいで秘密にしたせいだ。王都では薬の作り方が失伝しているんだ」
「そんな、じゃあ」
「ああ、王都にはおそらくミレーユ嬢以外に、それを作れる人間は存在していない」
「そうですか……」
「どちらのギルドに所属するかよく考えてほしい。我々はあなたを保護したい」
「保護ですか」
「ああ、既存の錬金術師や多くの悪徳業者にはあなたの存在は邪魔なんだ」
「邪魔ですか」
「そうだ。自分たちの食い
「はい」
「ホーランドよりメホリックはそういう裏稼業にも詳しい。メホリックのほうが適任だと思っている」
「でも、どっちにするかは」
「ああ、もし向こうを選んでも、もちろん構わない。あなたの選択だ。そのときでも、紅茶とユグドラシルの木の葉っぱは、よろこんで提供すると約束しよう」
「ありがとうございます」
どうしても年頃としては気になってしまう。この老紳士が少女を食い物にしているという話だ。
「あの、聞きにくいことなんですけど」
「なんだね、おじいちゃんは怒らないから言ってごらん」
怒らないからと言われても怒られなかった
おばあちゃんは優しかったけど、正しくないことには厳しい人だった。
そりゃ怒鳴ったりはしなかったけど、優しく怒られるのだ。
「あの若い女の子が好きなんですか、その性的に」
「ああ、そのことか。なにただの噂だよ。うちは若い女の子を雇い入れて教育してから各所に派遣しているんだ。やましいことはない」
「本当に?」
私とおじいちゃんの間に激しい視線が交わされる。汗が老紳士の額を伝っていく。
「やましいことはしていない本当だ。ただ」
「ただ?」
「若い娘はす、すす、好きだ。こういうのを萌えるというんだろう、知っておる」
「は、はぁ」
よく分からない。まあエッチなことしてないならぎりぎりセーフかな。
でもさっきから行ったり来たり仕事してる女の子たちの格好が、ひらひらの胸を強調するメイド服なんだよね。美少女しかいない。
事務とか荷運びの男性もいることはいるけど、どっち向いても美少女メイドばっかりだよ。
この老紳士、信じても大丈夫なのかな。なんかとっても心配だよ。