風精霊の宿り木亭に帰って夕ご飯を食べた。
「あ、このスープ美味しい」
昨日とは違うトマトベースのスープだった。とっても美味しい。
トマトはなんだかんだ言って好きだったりする。
うん、今朝はこの宿はハズレかもしれないと思ったけど、たまたま昨晩のスープが普通だっただけで、別段悪いわけではないかもしれない。
そして翌日も普通に薬草と薬瓶を買ってきて、お水を噴水で
実演販売は続行だ。ちょっと恥ずかしいけど、それはしかたがないと諦めよう。
一日けっこう販売したからお金もそれなりに貯まってきた。王都のポーション価格が高めなのがうれしい誤算かもしれない。
ちょっとお試しで、フリマのその辺の人に他の宿を聞き込み調査をしてみた。
そうしたらなんと、今泊まっている風精霊のところが一番人気だった。
経験は重要なので、一度宿に戻り、部屋に置いてある鉢植えを回収する。
そして『水鳥のもふもふ巣亭』という宿に泊まってみることにした。
「お嬢さん、こんにちは。何泊していくかい?」
「えっと、とりあえずなので、一泊でいいですか」
「もちろん一泊からでも全然問題ないよ。では二階のお部屋へどうぞ」
外観は風精霊よりは立派だけど、内装はむしろ質素だ。ちょっと隙間風が入ってきそうなぐらい。古いのだろうか。
顔を引きつらせつつ、二階へ進む。
鍵を開けて個室の中へ入る。値段は風精霊よりもちょっと高い。銀貨六枚だった。
「うっ、覚悟してたけど、やっぱり狭いね」
「きゅっきゅっ」
ポムもポンポン跳ねているけど、ちょっと窮屈そうだ。部屋が風精霊よりも狭い。そして天井が低い。薄くほこりも積もっている。
「まあ、しょうがないよね。
いつもの標語を言って、そういうことにする。
というか部屋が狭いだけでなく、ベッドや枕も固い。中身が違う。
これは安い宿とか特有の干し草を詰めたものだ。別に干し草が悪いということではないけど、風精霊のお宿ではワタの枕だったので、サービスの品質が違うと思う。
個室でこの品質は、ちょっとよろしくないと思う。
「やっぱり風精霊さんのほうがよかったみたいだね」
「きゅっ」
ポムもそれには同意してくれているらしい。
夕ご飯を食べに一階に下りて、食事をいただく。
「いただきます」
えっと黒パンにスープのみ。まだ飲めないけどお酒、お肉とかは別料金だ。
宿泊とセットの食事は質素そのもの。
ほとんど透明なスープをスプーンですくって飲んでみる。
「う、うん?……」
塩味はするけどそれだけ。なんか旨味とか野菜の出汁とかが足りない。具もあんまり入っていない。干肉を戻したものが入っているけど、スジとかも入ってて固い。
「まあ、そうだよね」
「きゅきゅ」
ポムはこれがご飯でなくてよかったね。きっと新鮮な薬草のほうが美味しいと思うよ。
残念な食事を済ませて部屋へ戻った。
「とにかく今日はここで寝るしかないもんね。おやすみなさい」
ポムとともに就寝する。
翌朝、起きて準備をして、そして朝ご飯も食べたけどあまり美味しくなかった。
何が悪いかははっきり言えないんだけど、とにかく美味しくはない。
なんだろう。ちょっと改良するだけで全然違うんだろうけど、なんだろう。そうだ、
胡椒はちょっと高いんだけど、それがまったく入っていない。胡椒をけちると、味がいまいちなのだ。
本当に少しの違いではあるけど、塩だけスープはもう少し頑張ってほしい。
植木鉢を含むすべての荷物を背負って、宿を出る。ここなら風精霊でお世話になったほうがずっと快適だと判明した。
なあに。何事も経験だよ、ミレーユ君、と誰かに言われそうだ。
あはは。そうですよね。不味いご飯も経験ですよね。