「低級ポーションください」
「こっちもポーションくれ」
王都にきて初日。薬草を買い、露店で低級ポーションを実演で作成して販売した。
売れ行きは思った以上に大盛況だった。
――こんなに売れるなんて。王都最高。
しかし露店でポーションを売っている錬金術師は他にいない。
普通はお店を構えているものらしい。
他の露店を見てみたけど、転売や中古とかの低級ポーションの品質はどれも私のものより明らかに低かった。さっと見て分かるほどだったのだ。
気が付いてしまった。王都の錬金術師のレベルは、思った以上に低いらしい。
これは、私がなんとかするしか、ないんじゃ、ないのかな。
活躍できるのはうれしいけど、思ったより、これは大変だぞ……。
◇
今日でハシユリ村ともお別れだ。
私はずっと憧れだった王都についに旅立つ。相棒はスライムのポムだけだ。
「お兄ちゃん、さようなら、ばいばい」
「おお、達者でな! ミレーユ、ポム」
「きゅきゅぅ」
ハシユリ村は田舎も田舎、王国の秘境にして、最奥とも言われる辺境の地。
両親は先に他界しており、私とお兄ちゃんはずっとおばあちゃんに育てられる。
おばあちゃんは村で唯一の錬金術師で生計を立てていた。
そのおばあちゃんも、去年亡くなった。
今はお兄ちゃんが家を継いで錬金術師をしている。そうなると問題は私だ。村に二人も錬金術師は必要ないのだ。
お兄ちゃんは許嫁がいて、そのうち結婚したら、私は完全に用なしだった。
それなら噂に聞く、女の子なら誰でも憧れる、田舎村では伝説の王都に行ってみたい。
ということで、私は家を出ることになった。
相棒のポムは昔ある日に山で薬草採取をしていたところ、先に薬草の群生地でむしゃむしゃしていたヤツで、仲良くなって私の後をついてきて以来、ずっと一緒にいる。
なんで私が気に入られたかはよく分からない。
もちろんポムの大好物は薬草だ。それも貴重なヒール効果の高い薬草ばかりが大好きだった。
別に薬草しか食べないかというと、そんなことはなく野菜も、普通の雑草も食べる。
その辺の
「王都楽しみだねー、ポムぅ」
「きゅきゅぅ」
次の町行きの荷馬車に一緒に乗せてもらって、村から出ていく。
ポムは普段からぽんぽん跳ねて、きゅぅきゅぅ鳴くだけだ。
今は座っている私の膝の上で、軽く上下するだけで大人しくしている。
家は貧乏なので、持ってこれるものには限界があった。
私は錬金の収納のリュックサック一つで、外には薬効が高い薬草の植木鉢をいくつもぶら下げて持ってきている。
この村では別段珍しくもなんともない薬草だけど、死んだおばあちゃんの話によれば、外の村では珍しいものが多いんだって。
だから、入手できないかもしれないと思って、なるべく多くの種といくつかの植木鉢を持参したのだ。
これだけでも、外の世界ではそれなりの値段になる。ただ村では捨て値もいいところなので、持っていても貧乏に違いなかった。
そもそも村の外では、それらの薬草はけっこうマイナーみたいで、売りに出しても全然売れないらしくて、商人も買っていってくれない。そもそも薬草だと知らないみたいで、断られた。
「貧乏生活とはおさらばするんだもんねー」
「あはは、嬢ちゃん頑張れよ」
「はい」
商人さんから激励をもらう。
うちは村の中で細々とポーションとか魔道具なんかを作ったりして、なんとか生活していて貧乏なのだ。
色々な商品を作れても、材料をこの村まで運んでくると、その輸送費の往復代で、かなりの金額が飛んでいってしまうので、錬金術製品の輸出入みたいなこともやっていなかった。
お兄ちゃんには悪いけど、この狭い村の中で頑張ってもらおう。
私は世界へ羽ばたいて、王都で錬金術または薬屋をするのだ。
それはきっと、すごくキラキラした世界で華やかで、とってもすごいんだと思うんだ。
商人さんの荷馬車に同乗して三日目、やっと町に到着した。初めての町だ。小さい頃両親と来たことがあるらしいけど、記憶にはないんだよね。
「ありがとうございました」
「ミレーユちゃん、さようなら、よい旅を」
お礼を言ってなけなしのお金を払い、立派なおのぼりさんになって安い宿に一泊する。
そしてそこからは乗合馬車を乗り継いで何日も何日もかかって、やっとのことで、はあ、やっとのことでですよ、王都の目前まで来ることができた。
「すごいよポム、ポム見て、あの壁、すごい、大きい、高ぁーい」
私はついはしゃいでしまう。
だってそこは紛れもなく王都の壁で、あの中には国で一番大きい町が広がっているはずだから。