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29 王都の名前だよ


「そういえば、さあ」

「なんですか、ミレーユさん」


 シャロちゃんに質問してみる。

 今は朝ご飯を食べ終わったところだった。


「王都の名前ってなんだっけか」

「ベンジャミンじゃないでしたっけ」

「王都ベンジャミンかぁ」

「そうです。そうです」

「いや、なんかすっごく長い名前だった気がするんだ。風の噂によると」

「ああ、それはですね。正式な名前はすごく長いんです。それで略称がベンジャミンなんですよ」

「ほへぇ。長い名前は言えるの?」

「えっと、確か、ベンジャミン・ド・ルビリエ・エステラス・フェアリー・アーバミン、だったかと」

「そうなんですか。覚えられないわ。あはは」


 こうして朝ご飯を終えた。

 そして、マリーちゃんがやって来た。

 マリーちゃんは弟子ではないので通いになっている。いつもメイド服で出勤して、夕方帰っていく。たまにお風呂にも入るけど。

 一方のシャロちゃんは、内弟子というのか、おうちに住み込みだ。普段はミニスカメイド服だけど、夜はちゃんとパジャマを着ている。


「おはようございます」

「おはよう、マリーちゃん」

「おはようございます。マリーちゃん」


 ニコニコしているところ悪いけど、ちょっと質問してみよう。


「マリーちゃん、あのさあ。王都の正式な名前言える?」

「あ、はい。ベンジャミン・ド・ラトリア・フェアリー・エスタットス・アーバミン、じゃなかったでしたっけ」

「あれ、さっきシャロちゃんに確認したのとちょっと違わない?」

「違いますね」


 ちょっと困り顔のシャロちゃんに確認してみる。


「シャロちゃんもう一回」

「ベンジャミン・ド・ルビリエ・エステラス・フェアリー・アーバミン、ですね」

「すごいね、よく言えるね」

「あ、ありがとうございます」

「でも、どっちが合ってるか分かんないんだよね」

「そうですね……」


 正直言えば、ちゃんと覚えられる気がしないんだけどね。でもなんかほら、錬金術師は知的好奇心とか大好きだから、こういうの、一度気になると、気になるよね。


 いそいそとちょっと恥ずかしいけどメイド服に着替えをする。

 普段はメイド服を着るのは午後からだけど、ちょっと外に行きたい。


「シャロちゃん悪いんだけど、ちょっとメイラさんのところに行ってくるね」

「あはい、調薬はおまかせください」

「あと、この紙に、王都の名前を書いておいて」

「は、はい。今すぐに」


 シャロちゃんにメモをさせる。


 どうしても気になってしまった。王都の名前。

 分からない時は、人に聞こう。

 こういうときは信頼できる人ということで、メイラさんに聞こうと思うんだ。


「それじゃあ行ってきます」

「行ってきます。お留守番よろしくお願いします」

「いってらっしゃい」


 シャロちゃんを残して、マリーちゃんと二人でメイラさんのところへ行く。

 王都の中をちょっと歩いて、ホーランド商業ギルドに到着した。


「すみません。ちょっと確認したいことがありまして。メイラさんに会えますか?」

「はい、今確認してきます」


 受付の好青年にお願いをする。


 ちょっと待ってたら、直接メイラさんが出てきてくれた。


「おはようございます。朝からどうしましたか? 緊急ですか?」

「あ、おはようございます。緊急ではないんですけど、あの」

「はい?」

「王都の正式な名前を知りたくて」

「あーあ。そうですね、何か契約書とか書面とか必要なときとかありそうですね」

「あ、そうですね」

「王都の正式な名前は、ベンジャミン・ド・ルビリエ・エステラス・フェアリー・アーバミン、ですね」


 私は手元のシャロちゃんのメモと比べていく。


「これ、合ってますよね?」


 メイラさんが覗いてくる。


「どれどれ、あ、うん。合ってるように見えますね」

「すごいですね。さすがシャロちゃん。マリーちゃんはちょっと残念でした」

「す、すみません」

「いいのいいの。普通の人は、こんなの、ソラで言えないよね」

「ですよね。私は仕事の関係上、なんとか覚えましたけどね」


 メイラさんも自信があるみたい。


「ちなみにどういう意味なんですか?」

「さあ。なんでも歴代の王朝が何かあるたびに改名したり、付け加えたりした結果、こういうことになっているらしい。全体を通して、特定の意味はないようだよ」

「へえ」


 さすがメイラさん博識だ。

 これで、私もひとつ賢くなりましたとさ。

 錬金術師は知識の探究者、また何かあったら、覚えよう。


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