「そういえば、さあ」
「なんですか、ミレーユさん」
シャロちゃんに質問してみる。
今は朝ご飯を食べ終わったところだった。
「王都の名前ってなんだっけか」
「ベンジャミンじゃないでしたっけ」
「王都ベンジャミンかぁ」
「そうです。そうです」
「いや、なんかすっごく長い名前だった気がするんだ。風の噂によると」
「ああ、それはですね。正式な名前はすごく長いんです。それで略称がベンジャミンなんですよ」
「ほへぇ。長い名前は言えるの?」
「えっと、確か、ベンジャミン・ド・ルビリエ・エステラス・フェアリー・アーバミン、だったかと」
「そうなんですか。覚えられないわ。あはは」
こうして朝ご飯を終えた。
そして、マリーちゃんがやって来た。
マリーちゃんは弟子ではないので通いになっている。いつもメイド服で出勤して、夕方帰っていく。たまにお風呂にも入るけど。
一方のシャロちゃんは、内弟子というのか、おうちに住み込みだ。普段はミニスカメイド服だけど、夜はちゃんとパジャマを着ている。
「おはようございます」
「おはよう、マリーちゃん」
「おはようございます。マリーちゃん」
ニコニコしているところ悪いけど、ちょっと質問してみよう。
「マリーちゃん、あのさあ。王都の正式な名前言える?」
「あ、はい。ベンジャミン・ド・ラトリア・フェアリー・エスタットス・アーバミン、じゃなかったでしたっけ」
「あれ、さっきシャロちゃんに確認したのとちょっと違わない?」
「違いますね」
ちょっと困り顔のシャロちゃんに確認してみる。
「シャロちゃんもう一回」
「ベンジャミン・ド・ルビリエ・エステラス・フェアリー・アーバミン、ですね」
「すごいね、よく言えるね」
「あ、ありがとうございます」
「でも、どっちが合ってるか分かんないんだよね」
「そうですね……」
正直言えば、ちゃんと覚えられる気がしないんだけどね。でもなんかほら、錬金術師は知的好奇心とか大好きだから、こういうの、一度気になると、気になるよね。
いそいそとちょっと恥ずかしいけどメイド服に着替えをする。
普段はメイド服を着るのは午後からだけど、ちょっと外に行きたい。
「シャロちゃん悪いんだけど、ちょっとメイラさんのところに行ってくるね」
「あはい、調薬はおまかせください」
「あと、この紙に、王都の名前を書いておいて」
「は、はい。今すぐに」
シャロちゃんにメモをさせる。
どうしても気になってしまった。王都の名前。
分からない時は、人に聞こう。
こういうときは信頼できる人ということで、メイラさんに聞こうと思うんだ。
「それじゃあ行ってきます」
「行ってきます。お留守番よろしくお願いします」
「いってらっしゃい」
シャロちゃんを残して、マリーちゃんと二人でメイラさんのところへ行く。
王都の中をちょっと歩いて、ホーランド商業ギルドに到着した。
「すみません。ちょっと確認したいことがありまして。メイラさんに会えますか?」
「はい、今確認してきます」
受付の好青年にお願いをする。
ちょっと待ってたら、直接メイラさんが出てきてくれた。
「おはようございます。朝からどうしましたか? 緊急ですか?」
「あ、おはようございます。緊急ではないんですけど、あの」
「はい?」
「王都の正式な名前を知りたくて」
「あーあ。そうですね、何か契約書とか書面とか必要なときとかありそうですね」
「あ、そうですね」
「王都の正式な名前は、ベンジャミン・ド・ルビリエ・エステラス・フェアリー・アーバミン、ですね」
私は手元のシャロちゃんのメモと比べていく。
「これ、合ってますよね?」
メイラさんが覗いてくる。
「どれどれ、あ、うん。合ってるように見えますね」
「すごいですね。さすがシャロちゃん。マリーちゃんはちょっと残念でした」
「す、すみません」
「いいのいいの。普通の人は、こんなの、ソラで言えないよね」
「ですよね。私は仕事の関係上、なんとか覚えましたけどね」
メイラさんも自信があるみたい。
「ちなみにどういう意味なんですか?」
「さあ。なんでも歴代の王朝が何かあるたびに改名したり、付け加えたりした結果、こういうことになっているらしい。全体を通して、特定の意味はないようだよ」
「へえ」
さすがメイラさん博識だ。
これで、私もひとつ賢くなりましたとさ。
錬金術師は知識の探究者、また何かあったら、覚えよう。