錬金術店をオープンしてから一週間経った。
弟子はまだ決まっていない。
少ない種類の商品ながら、なんとかお店を維持していた。
ちょっと工夫して、大きいまとめ買いのものを安く売る。
それから少量のものも用意して、単体の値段を安くして買いやすくした。ただし大きいのに比べれば内容量あたりの単価は高くなってしまう。
小売ではこういう対応も、意外と重要で評判はよかった。
商品の種類が少ないのは、大量に販売できるものがあるとかならともかく、普通の店では致命的だった。
だから商品数を増やすことにした。
最終的には錬金術商品を増やすつもりだけど、今は簡易錬金釜しかないし、材料も揃っていないので、作れる錬金商品は多くない。
一般商品としては、まずココアを入荷した。砂糖とカカオの粉末だけど、かなりの高級品だ。
それから安価な商品として、ハーブティーとフルーツティーを各種取り揃えた。
ミント、アップルミント、ペパーミント、カモミール、ラベンダー、レモングラス、セージ、ローズマリー、シナモン、レモン、オレンジ、このくらいかな。
ちょっとしたお茶屋さん専門店並みの品揃えになりそう。
中にはほとんど市販されていなくて、草を買ってきて自分で錬金釜で乾燥作業とかしたものもあった。
「いい匂いですね」
「マリーちゃん、こっちもいい匂い」
とにかく売り物が増える事自体はうれしい。
そして肝心の錬金術商品はというと、まずは人気の高いオレンジの匂いつけをした低級ヒーリングポーションと練り薬草を用意してみた。
「お、このポーションいい匂い」
「これならいいわね」
ポーションはあまり美味しいとは言い難い味と臭いなので、それを工夫するのは村でもしていた。
余裕が出てきたらやろうと元々思っていたのだ。
そしてどうしても値段が高くなってしまうけど、砂糖入りのポーションと練り薬草もちゃんと用意しておりますよ。
古人
味もちょっとはいいほうが、いいに決まっている。
ただし、砂糖入りでも甘くはなるけど、同時に変な味もするので、完全には隠しきれていない。現代の錬金術の限界だった。
使う薬草がそもそも美味しい草とかでないと、この辺を改善するのは、困難だと思われる。
「砂糖入れてもあれなんですね」
「そうだよ。もっと
これだけだとなんなので、錬金術じゃなくても作れるけど加工品を出すことにした。
蜂蜜と乾燥スライム、それからハーブを使った、のど飴だ。
「ね~りねり。ね~りねり」
飴を練ってそれが終わると伸ばして、そしてナイフで一口大に切っていく。それを手で丸くする。冷えたら完成だ。
蜂蜜は砂糖ほどではないけど、ちょっと高い。高級白砂糖よりは安いので、使いやすい。
しかし錬金術には、精錬度の高い砂糖のほうがいい場合が多い。
蜂蜜はその成分が問題になることがある。
あと蜂蜜は乳幼児に与えてはいけないので、よく熱を出す子供に与えることが多いポーションの材料には使えない。
「きゅっきゅ」
ハーブを使った飴はポムも好きみたいで、よく要求してくるようになった。
飴を食べるスライム君。本当に雑食性だ。でも肉はあまり欲しがらない。
あと無生物、石とか木とかは食べないみたい。
そういう変なものを好むスライムもいるという噂は聞いたことがある。
決してスライムのペットは珍しくはないけど、王都にはあまりいない。
それで、ポムを大好きな人が数人、毎日のように訪ねに来る。
「ポムちゃんいますかぁ」
「スライムのポムちゃん」
「ポムちゃーん、お姉さんが飴買ってあげる」
飴を二粒買って、一つをポムに与えるお姉さん。
一緒に食べるのがうれしいらしい。
ポムも女の子は大好きなので、よろこんで食べている。それからちょっと踊ったりしてサービスしていた。
なかなか現金なスライムだと思う。