この国では十三歳を迎えると年中式を行う。
それ以前は年少者、以降は年中者、そして二十歳になり成人式をすると年長者と呼ばれるようになる。
年中者はいわゆる半人前なのだった。そしてまだまだ子供扱いされる。
集まっている関係者の中から、子供店長がとか声が少し聞こえた。
午後一番。六月の今日の天気は快晴。
「おはようございます。それでは『ミレーユ錬金術調薬店』開店です」
ぱちぱち、ぱちぱちぱち……。
開店祝いに集まってくれたホーランド商業ギルドの関係者、それからライバルだけど来てくれたメホリックのボロランさん、あとはうーん特にいないかな。
合計で二十人くらいがお店の前で、拍手をしてくれる。
扉の前の「クローズ」の表示をひっくり返して「オープン」にする。
この表示がないと、開店しているというふうには見えないので、どこの店にも似たような表示板があった。
お店の中に関係者一同が入ってくる。
さすがにこの人数が入るとちょっと狭い。
「お、さすが錬金術店。綺麗な色のポーションがありますな」
棚にはポーション、それから練り薬草が、かなりの量並べてある。
でも後ろには何もなくて平積みで見た目を誤魔化してある。
他の棚には、ホーランドから仕入れた、紅茶、コーヒー、麦茶。
自作の雑草茶、クッキー。
冷蔵ケースには、牛乳が瓶で入っている。
あとは、ホーランドから卸売価格で仕入れた、塩それから砂糖、
棚や冷蔵ケースはここに元からあったものをそのまま使っている。
前の持ち主は商売を辞めて、息子の家にお世話になるとかで、在庫など小さいものは全部売ったみたいだけど、大きくて動かすのが大変なものはそのまま置いていってくれたらしい。
そしてお店そのものは棚とかごとホーランドに売却したという。棚やテーブルなどの家具ももちろん査定額に入っていたらしい。
半年くらい前の話だった。
錬金術店なのに、さながら喫茶店みたいなラインナップ。
塩も砂糖も真っ白な上質のちょっと高いやつだ。
その代わり雑草茶なんかは破格の安さを実現している。まあ元値はタダだったわけだし。
なお雑草茶は全部で三種類。名前とかよく知らないので、そのいち、そのに、そのさん、と名前をつけた。
「お飲み物は何にしますか?」
「ワシはじゃあコーヒーを」
「私はお紅茶いただけますか」
「私はえっと珍しい雑草茶そのいちをお願いします」
ここにある飲み物は試飲ができるようにしてあった。
ちいさな木のカップで、次々と飲み物を出していく。
コーヒーも紅茶も、先にポットで作ってあって注ぐだけだ。
それでも忙しい。マリーちゃんだけでなく、私も手伝った。
もちろんお茶請けのクッキーも一緒に出すのを忘れない。
練り薬草が一番人気、そしてクッキーもけっこう売れている。
「ミレーユちゃん、開店おめでとう」
「ありがとうございます」
メイラさんだ。今日はいつもよりおめかししてドレスを着ている。
対して私はというと、ベージュの地味な普段のワンピースだった。
ちょっと恥ずかしくなってくる。服がばば臭くてダサい。
恥ずかしいけどメイド服を借りたほうがまだマシかもしれない。
「ミレーユ嬢、開店おめでとうございまする」
「ありがとうございます」
返事がハンコなのはこの際目をつぶってもらおう。
今度はボロランさんだった。
「弟子の件。ちょっと内紛いえ、調整が難航していてね。もう少し待ってほしい」
「はい、いつでも構いませんよ。まだそこまで忙しくないですし」
「そういってもらえると助かる」
そう。マリーちゃんが活躍しているけど、本当だったらとっくに弟子が来ているはずだった。
でもどうも誰を出すかで
挨拶も終わり、こうして関係者一同は帰っていった。
周りで通り掛かった人なども、人だかりを見てか来てくれた。
その後も、継続して寄ってくれる人がいる。
表から一本入った通りだけど、ここも商業区で人通りはそれなりにあった。
ひっそりしたお店も悪くないけど、こういうそこそこなぐらいが丁度いいかもしれない。
それなりに繁盛している。まぁ成功と言えるのではないかと。
ポムもぴょんぴょん跳ねて、お客さんにアピールして撫でてもらったりして接客をしていた。えらいえらい。