まだ夕方よりちょっと前。
畑仕事とかもしたから、お風呂に入りたいな。
すっごい楽しみ。初めてのこの家のお風呂。
「マリーちゃあん」
「なんですか、変な声出して」
「あのね、あのね。お風呂入ろう~よ」
「あ、いいですね。私もお風呂というものに入ってみたいです」
「じゃあ、お風呂の準備お願い」
「え、そのよく分からないんですけど」
「そうだよね。じゃあ二人でやろうか」
「はい」
こうしてマリーちゃんと表にある井戸から水を汲んでくる。
運んで、運んで、あー疲れたなっていうくらい運んで、お風呂を水でいっぱいにした。
お風呂や台所は水汲みや排水の関係で、一階の隅にある。
お風呂の浴槽の横には、大きな缶みたいなお風呂炊きがついているのだ。
「というわけで、ここに薪を入れてね、火をつければ」
「なるほど」
「その上にある配管が温まって、中のお水がお湯になるんだよ」
「ふむふむ」
「じゃああと、火の番と、湯加減確認してできたら教えてね」
「はーい」
こうして他の雑務を自分はこなす。
あ、そうだ。もともとお茶は出す予定だったから、お茶請けも考えていた。それはクッキーだ。
材料はもう準備してもらってあった。卵、小麦粉、砂糖、バターなどなど。
砂糖はまだまだ高い高級品だけど、いいんだ。
それから季節外れだけど木の実。特にナッツ類。実というか種だね。
材料を混ぜて、クッキーを量産していく。
そして台所のオーブン、なんとこの家にはオーブンが備え付けられている。
だけどちょっと横着してですね。
魔力で力ずくでですね、錬金釜を使ってクッキーを焼いていく。
特殊なので、かなり早く焼ける。
もう流れ作業のように、さくさく焼いていく。
お風呂ができるより先にクッキー焼いちゃうもんね。
こうして大量のクッキーができあがりましたとさ。
「ミレーユさん、お風呂できました」
「はあぁい」
マリーちゃんが呼びにきたし、ちょうど切りがいいのでオッケー。
「じゃあ先に入りますか、ミレーユさん」
「いえいえ、そんな。一緒に入ろうよ、マリーちゃん」
「一緒にですか?」
「そう、一緒に」
「もう、しょうがないですね」
顔を赤くして照れるマリーちゃんを尻目に、手を
ささっと服を脱いでいく。マリーちゃんも背中合わせでぬぎぬぎする。
そして風呂
「はあ、生き返る」
マリーちゃんも見ていて真似をしてお風呂に浸かる。
「あぁあ、気持ちいいです。これがお風呂、なんですね」
「ね、表通りよりも、庭とお風呂付きにして、よかったでしょ」
「はい」
それにしても、実家の書物に書いてあった「たわわに実る
両親は早くに死んでしまったので、実物を見るのは初めてだ。
これは確かに禁断の果実だろう。とっても美味しそう。
ちょっと羨ましい。私のも早く大きくならないかな。
「きゅっきゅぅ」
ポムはマリーちゃんの胸の上でくつろいでいる。
あぁ一番いい場所を占領中だ。その顔は気持ちよさそうだ。
そういえば昔からお風呂が好きで、実家でも私の胸の上に乗っかって入浴してたわ。
お湯に浸かるという文化は主に、貴族のものだけど、この気持ちよさの前では、貴族だけのものにするのはもったいない。
もっともっと、ここの元の持ち主みたいに、お風呂党の人が増えるといいと思う。
そうしたらお風呂グッズとかもたくさん売って儲けよう。
「る~ん♪る~るる~♪」
お風呂で歌を歌う。
マリーちゃんは知らない歌みたいで、ニコニコして聞いていた。
ここのお風呂は二人でぎりぎり入れる大きさだけど、これでもけっこうお風呂としては大きいんだよね。
よくこんなお風呂を貴族でもないのに設置したものだ。
実はこれ、お風呂じゃなくて巨大湯沸かし器ではないか、という説もないわけではないんだけど、気にしてはいけないのだ。
ここを作った、もしくは改造した人がどういう目的だったかは、もう今となっては謎だ。
「あ~気持ちよかったあ」
「すっきりですね。これならお湯タオルで体を拭くよりずっといいです」
「でしょ」
「はいっ」
私もニコニコ。マリーちゃんもニコニコで、帰っていった。