席を立ち、階段に向かい上る。
ドアを開けると一面、薬草園になっていた。
この商業ギルドの建物はけっこう大きいので、畑も思ったよりずっと広い。
ポムがうれしそうにポンポン飛び跳ねていた。
「そちらのスライムは随分楽しそうだな」
「あの、ポムは薬草を食べるのが大好きなんです、そ、それで、えへへ」
「構わんよ。ポム君が食べるくらいならいくらでも食べていい」
「よかったねポム。食べていいって」
「きゅっ」
畑の中に突撃していって夢中になって薬草をむしゃむしゃしだした。
なんだか最初に会ったときみたいで、微笑ましい。それに懐かしい。
「薬草を食べるスライムか。珍しいな」
「そうなんですか?」
「ああ、テイムしたスライムはよく見かけるが、ほとんどは雑食性だな」
「ポムも一応、雑食性ですよ」
「そうなのか……私は初めて見る」
「ほほう」
それにしても広いんだけどね。植わっている草が代替薬草のモリス草しかない。
王都では薬草といったらずばりコレだけど、でももっと効果が高くて育てられる薬草だってあると思うんだ。
土をチェックしてみる。
栄養は及第点だけど、それはここが普通の花畑だったらの場合だ。
魔素が足りてない。魔素が弱いと薬草としての効果がかなり弱くなると思う。
魔素はあらゆるところに漂っているけど、街の中はどうしても弱まるのが避けられない。
モリス草は露店でも売っているくらいだから、余り気味ではないだろうか。
それよりは増幅剤のミルル草のほうが、栽培するなら向いていると思う。
ミルル草も薄くて少ない土でも育つから。根っこが大根タイプではなく、細い根が横に広がるように伸びるからちょうどいいはず。
「なるほどな、ミルル草か」
「はい。おすすめです」
「しかしだよ」
「はい」
「うちのお抱え錬金術師たちはミルル草の種の増幅剤の入ったポーションを作れるのかい?」
「う。えっと修行してコツを掴んだら、たぶん」
「ならすぐには無理だな。まあ一割ほど試験栽培してみよう」
「はい。それくらいが最初はいいかもしれませんね」
栽培時期をずらして植えてあり、ここの薬草園は一年中安定して取れるように調整しているそうだ。
もちろん外からもモリス草は買っているけれど、ここの薬草園があるから、最低限度は確保することができる。
たとえライバルのメホリック商業ギルドが市場の薬草を買い占めても、ここの薬草があるから買い占めることが実際にはできないのだ。
そういう保険的な意味合いが強いと説明してくれた。
「色々大変なんですね」
「ああ、まあね」
「でもなんでそんなに薬草に力を入れているんですか」
「うちはね、もともと薬草の卸問屋だったんだ」
「なるほど」
「まあそれもだいぶ昔のことだけど、それで今もこうして薬草の管理にはうるさいってわけだわ」
「ふむふむ」
商売にもそのお店の歴史っていうのがあるんだね。
「どうだろう。こんな私たちのホーランド商業ギルドだ。薬草卸問屋と錬金術師、悪くない組み合わせだと思う。ギルドの力は実際には少し弱いが、これから強くなるはずだ。いや一緒にギルドを強くしていかないか」
「はい。でも、一応公平にって話なので、明日はメホリック商業ギルドを訪ねてみます」
「そっか、いい返事を期待している」
「期待に添えるかは、まだ分かりません」
「正直なところも好きだよ」
「そんな」
「うふふ」
「あっそうだった。ところでメホリック商業ギルドってどこにあるんですか?」
「それを私に聞くのかい、ミレーユちゃんは」
「はい。だって知らないし。知らない人には聞きづらいから」
「冒険者ギルドの隣だよ」
「なんと」
こうしてホーランド商業ギルドへの訪問は終わり、風精霊の宿り木亭に戻っていった。
明日はメホリック商業ギルドへ行かなくちゃ。